ID番号 | : | 08486 |
事件名 | : | 地位確認請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 日本郵政公社就業規則変更事件第一審判決 |
争点 | : | 就業規則の不利益変更を理由に、郵政公社職員らが従事義務の不存在確認等を求めた事案(労働者敗訴) |
事案概要 | : | 「日本郵政公社職員勤務時間、休息、休日及び休暇規程運用細則」を改定し施行した同公社に対し、郵便局員・元郵便局員らが、本件運用細則改定は合理性のない就業規則の不利益変更に当たると主張し、服従して従事する義務の不存在確認を求めるとともに、精神的損害を被ったとして慰謝料の支払を求めた事案である。 東京地裁は、運用細則の改定の効力について当事者間に争いがあり、現に改定後の運用細則に基づく勤務指定がされ、あるいはその指定がされる可能性がある以上、労働者側には確認の利益があるとした上で、(1)本件運用細則改定によって深夜帯勤務やその連続指定の回数が増えるなど、勤務条件が不利益に変更されたといえる一方で、改定には高度の必要性が認められること、(2)職員らの不利益の程度は直ちに本件運用細則改定の合理性を失わせるほどのものではないこと、(3)公社は新たな休息時間の付与や夜間特別勤務手当の増額など、代償措置その他関連する労働条件の改善を行っていること、(4)常勤職員の8割以上を占める2組合が改定に合意していること、(5)変更後の労働条件が特に過重な内容のものになっているとは認め難いことなどから、運用細則改定には合理性があり有効であるとし、結局就労義務の不存在確認請求も、定年退職した元職員への慰謝料請求も、棄却した。 |
参照法条 | : | 民事訴訟法134条 日本郵政公社法1条 日本郵政公社法2条 労働基準法93条 |
体系項目 | : | 就業規則(民事)/就業規則の一方的不利益変更/労働時間・休日 |
裁判年月日 | : | 2006年5月29日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成16(ワ)6972 |
裁判結果 | : | 一部却下、一部棄却(6972号)、棄却(12073号)(控訴 |
出典 | : | 時報1945号143頁/タイムズ1227号249頁/労働判例924号82頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-労働時間・休日〕 (2)ア 前記(1)で判断したとおり、原告丙川を除く原告らが旧運用細則の適用を受ける地位の確認及び新運用細則に基づく勤務に従事する義務の不存在確認を求める訴えには、原則として、確認の利益が認められるというべきである。しかし、原告丙川を除く原告らの訴えには、現在、原告らが従事していない勤務に従事する義務の不存在確認を求める部分があり、この部分についても、確認の利益を認めることができるか否かが問題となる。 イ 就業規則の変更により新たに設定された勤務基準に基づく勤務上の義務のうち、被告が未だその義務の履行を求めたことがないものについては、現時点では必要な条件が整わないために、原告らに対しその義務の履行を求める意思はないが、将来条件が整ったときには義務の履行を求めることがあり得ないわけではない。このような場合において想定されている条件が整っていない場合には、裁判所は、適切に判断する基礎となるべき具体的、かつ、確実な情報、資料を入手することが困難であり、また、具体的な事実関係を離れた無意味な裁判をすることになるおそれにもつながり、確認の利益を否定するのが相当である。他方、被告が既に当該就業規則の定める勤務基準に基づく勤務上の義務の履行を求めたことがあるものについては、当該義務の根拠となる当該就業規則の定める勤務基準も労働契約の内容の一部であり、現在の法律関係を形成するものであるといえるから、紛争の成熟性に欠ける点はなく、被告が原告らに対して以後確定的に就業規則の定める勤務基準に基づく義務の履行を求めない意思であることが認められるなどの特段の事情がない限り、確認の利益を肯定するのが相当である。 ウ これを本件についてみるに、確かに、現在、原告甲野、同丁原、同甲田、同乙野、同丙山、同丁野及び同丁川ら七名は所属郵便局から「一〇深夜勤」の勤務指定を受けていないこと、原告丙川を除く原告らはいずれも「八深夜勤」の勤務指定を受けていないこと、原告甲野、同戊山、同丁原、同戊田、同甲山、同乙山、同甲川、同乙原及び同丙田ら九名は所属郵便局から「調整深夜勤A」、「調整深夜勤B」の勤務指定を受けていないことは、当事者間に争いがない。しかし、被告は、新運用細則に基づき、郵便関係職員に対し、「一〇深夜勤」、「八深夜勤」、「調整深夜勤A」、「調整深夜勤B」の勤務指定を行っていること、原告丙川を除く原告らについて、前記勤務の種類に従事することができない資格上の制限等はうかがえないことなどに照らすと、前記原告らについてその所属郵便局の服務表及びこれに基づく勤務指定が変更されたり、前記原告らの所属郵便局・部署が変更されるなどして、前記原告らが現在勤務指定を受けていない前記勤務の種類について、今後勤務指定を受ける可能性は小さくないといえる。また、本件全証拠によるも、被告が、原告丙川を除く原告らに対して、現在勤務指定をしていない前記勤務の種類について、以後確定的に義務の履行を求めない意思であるとの特段の事情の存在を認めるに足りる証拠は存在しない。 したがって、原告丙川を除く原告らの訴えのうち、現在、同原告らが従事していない勤務に従事する義務の不存在確認を求める部分についても、確認の利益がないとはいえず、これに反する被告の主張は採用することができない。〔中略〕 以上の検討結果によれば、本件運用細則改定により、原告らの勤務条件が不利益変更された部分があることは認められるものの(前記(4))、〔1〕本件運用細則改定には、被告の経営上又は労務管理上高度の必要性が認められること(前記(3))、〔2〕本件運用細則改定により原告らが被った不利益の程度は、直ちに本件運用細則改定の合理性を失わせるほどのものとまではいえないこと(前記(4))、〔3〕被告は本件運用細則改定に当たり、少なからぬ代償措置その他関連する他の労働条件の改善を行っていること(前記(5))、〔4〕被告は本件運用細則改定に当たり、全逓、全郵政、郵産労など関係労働組合と公正かつ誠実に交渉を行い、その結果、常勤職員の八割以上を占める組合員を擁する二組合が同改定に同意し、被告との間で労働協約を締結していること(前記(6))、〔5〕被告の本件運用細則改定後の深夜帯業務は、深夜業に関する我が国社会における一般的状況からみても、特別過重な内容のものになっているとは認め難いこと(前記(7))がそれぞれ認められる。これらの事実に照らすと、本件運用細則改定は、その必要性及び内容の両面からみて、これにより原告らが被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお原告らと被告との間の労使関係における法的規範性を是認することができるだけの高度の合理性を有しているものということができ、原告らに対しても効力を有しているものと解するのが相当である。また、原告らは、本件運用細則改定に当たり、被告は労働者へ十分な説明、協議、同意手続をとらずに改定を強行しており、手続的に不適正であるとも主張するが、前記(6)で認定した事実に照らすと理由がないというべきである。 したがって、原告らに本件運用細則改定の効力が及ばないことを前提とする、原告丙川を除く原告らの請求はその余の点を判断するまでもなく理由がないということになる。 |