ID番号 | : | 08487 |
事件名 | : | 雇用関係存在確認等請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 日建設計事件 |
争点 | : | 合意解約による雇用契約の終了と派遣元会社との雇用関係の成立、及び派遣先会社による法人格濫用の有無が争われた事案(労働者敗訴) |
事案概要 | : | Y社にアルバイトとして雇用されていたXは、Yがパソコン導入を機にアルバイトを廃止し派遣社員を受け入れることとしたため、A派遣会社の派遣社員となってYに派遣された。その後、Aから派遣契約打ち切りの通告を受けたため、Yに対し、雇用契約上の地位確認、解雇後の賃金及び違法解雇による慰謝料の支払い等を求めた事案の控訴審である。 第一審大阪地裁は、請求をすべて棄却したためXが控訴。第二審大阪高裁は、〔1〕XとYとの雇用契約は合意解約により終了し、それ以降はXとAとの間に派遣労働契約に基づく雇用関係が成立していること、〔2〕YとAとの間に人的・資本関係はなく、YはAの一取引先であって両社が実質的・経済的に同一とみられるような事情はうかがわれず、また、Yが雇用責任を回避する違法な目的のためにX・A間の派遣労働契約を締結したとは認められないことから、法人格否認の主張は採用できないとして、Xの追加主張(Xの錯誤による合意解約の無効、民法91条・90条による無効、X・Y間の新たな雇用契約の成立)も含め、控訴を棄却した。 |
参照法条 | : | 民法90条 民法91条 民法95条 労働者派遣事業の適正運営確保及び派遣労働者の就業条件整備法4条3項(平成6年時点職業安定法44条) |
体系項目 | : | 労基法の基本原則(民事)/労働者/派遣労働者・社外工 労基法の基本原則(民事)/使用者/使用者の概念 労基法の基本原則(民事)/使用者/派遣先会社 賃金(民事)/賃金請求権の発生/無効な解雇と賃金請求権 賃金(民事)/賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額/賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額 退職/合意解約/合意解約 |
裁判年月日 | : | 2006年5月30日 |
裁判所名 | : | 大阪高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成17(ネ)832 |
裁判結果 | : | 棄却(上告) |
出典 | : | 労働判例928号78頁 |
審級関係 | : | 一審/大阪地/平17. 2.18/平成15年(ワ)10330号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔退職-合意解約-合意解約〕 〔労基法の基本原則-労働者-派遣労働者・社外工〕 〔労基法の基本原則-使用者-派遣先会社〕 (2) 以上認定の事実経過、とりわけ、被控訴人やAビジネスの担当者の控訴人らに対する派遣契約締結に向けての説明、被控訴人担当者の控訴人らに対するその後の意思確認を経て、控訴人は平成6年3月、Aビジネスから、「あなたを派遣社員(派遣労働者)として雇入れます。」との文言が冒頭に記載されたAビジネス名義の「就業条件明示書」及びタイムシート等の送付を受け、その内容に異議を述べるなどしていないうえ、タイムシートに勤務実績を記入してこれをAビジネスに返送したこと等によると、控訴人、被控訴人間の雇用契約は、平成6年2月末をもって合意解約により終了し、同年3月1日以降は控訴人とAビジネスとの間に、派遣労働契約に基づく雇用関係が成立したものと認めるのが相当である。〔中略〕 〔労基法の基本原則-労働者-派遣労働者・社外工〕 〔労基法の基本原則-使用者-派遣先会社〕 〔労基法の基本原則-使用者-使用者の概念〕 (4) 上記の認定事実によると、平成6年3月以降、控訴人の使用者は、形式的にも実質的にもAビジネスというべきである。 控訴人は、実質的な使用者をAビジネスと認識していたとも主張するが、上記の認定どおり、控訴人は、Aビジネスが雇用契約上の使用者であることを十分認識しており、そのことに異議を述べることなくAビジネスとの間で雇用契約の締結や雇用契約上の各種の手続、確認等をするなど、Aビジネスを使用者と認める行動をとり続けていることに照らすと、控訴人の上記主張は採用できない。〔中略〕 〔労基法の基本原則-使用者-派遣先会社〕 (2) 上記の認定事実によると、被控訴人とAビジネスとの間には人的関係や資本上の関係はなく、被控訴人はAビジネスの一取引先にすぎないのであって、両社が実質的、経済的に同一とみられるような事情はうかがわれない。また、被控訴人において自らの雇用責任を回避する違法な目的のために、控訴人、Aビジネス間の上記契約を締結したことを認めるに足りる証拠もない。 したがって、上記の控訴人の法人格否認の主張は採用できない。〔中略〕 〔退職-合意解約-合意解約〕 〔賃金-賃金請求権の発生-無効な解雇と賃金請求権〕 しかし、控訴人、被控訴人間の当初の雇用契約が期間の定めのない契約か、そうでなくとも期間の定めのない契約と同然の保護を受けうる契約であったとの事実を認めるに足りる証拠はなく、かえって、期間の定めがあった控訴人、Aビジネス間の契約と同様、控訴人、被控訴人間の上記契約も1年間の契約期間が定められた、期間の定めのある契約であったことが認められるうえ(〈証拠略〉、弁論の全趣旨)、上記認定によれば、控訴人は、被控訴人の担当者から、派遣社員として働く場合の就業条件について基本的に従前と同じであるとの説明を受けたものの、従前と何ら労働条件に変更はないとの説明を受けたことはない(現に、控訴人の終業時刻は、アルバイト時代に17時35分であったものが、派遣社員になった後は17時45分に変更されている(〈証拠略〉)。 したがって、控訴人主張のように、控訴人が上記合意解約の際、解約後も従前と何ら労働条件に変更はないものと信じていたと認めることはできないし、控訴人の上記合意解約における意思表示について、法律行為の要素に錯誤があったものと認めることもできない。〔中略〕 (3) 上記の認定事実によると、控訴人が被控訴人において従事してきた業務の内容は、時期により変動はあるものの、平成6年3月の前後を通じ、主としてOA機器による文書作成や資料整理であったというべきであり、労働者派遣法や職業安定法に抵触するとはいえないから、控訴人、Aビジネス間の上記雇用契約(派遣労働契約)が、民法90条の公序良俗違反に該当して無効とはいえない。〔中略〕 また、上記認定によると、平成9年12月以降の控訴人の仕事については、必ずしもOA機器による文書作成や書類の整理が主とはいえず、通常の事務の仕事にも相当従事したとみる余地が十分あるが、これは有効に成立した控訴人とAビジネス間の派遣労働契約の効力の問題であって、控訴人と被控訴人間の上記合意解約の効力に影響を及ぼすものではない。なお、控訴人とAビジネス間の派遣労働契約について、労働者派遣法4条3項(平成6年当時のもの)や職業安定法44条に適合しないと解される部分があるとしても、これらの規定がいずれも行政取締規定であるからすると、そのことによって、控訴人、Aビジネス間の派遣労働契約が直ちに無効になるということはできないというべきである。 したがって、控訴人、被控訴人間の雇用契約の合意解約は有効であるから、その無効を前提とする控訴人の上記主張は採用できない。〔中略〕 しかし、前記認定のとおり、控訴人の行っていた業務は、少なくとも平成9年12月ころまでは、一般職の正社員が従事していた上記一般事務とは異なり、その大半がOA機器による文書作成及びその一環としての付随的、補完的作業であり、一般事務については、臨時又は緊急時に限ってといえるものであって、これらの事務量は、控訴人が従事していた業務全体に比してごくわずかであったものであるから、控訴人が本来派遣就業できない業種に派遣されたと評価することはできない。また、本件において、控訴人が派遣可能期間を超えて被控訴人の指揮命令下で勤務していたことを認めるに足りる証拠もない。 したがって、控訴人、被控訴人間に黙示的にせよ新たな労働契約関係が成立したと解すべき余地はないから、控訴人のこの点に関する主張も理由がない。 以上によれば、控訴人の被控訴人に対する雇用契約上の権利を有する地位の確認請求及び賃金請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。 〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額〕 6 争点(5)(不法行為の成否)について 上記の認定判断のとおり、被控訴人は、控訴人主張の本件解雇時である平成14年12月17日当時、控訴人を雇用していないから、控訴人主張の本件解雇が解雇権の濫用であるとの主張は、明らかに理由がない。 したがって、控訴人の不法行為の主張は採用できない。 |