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ID番号 : 08488
事件名 : 労働者地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 : ホクエツ福井事件
争点 : 会社が行った第1次、第2次整理解雇が整理解雇要件を満たさない不当なものか否か等が争われた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 : Yが行った整理解雇により解雇されたXが、労働契約上の地位の確認、賃金の支払い及び損害賠償を請求した事案の控訴審判決である。
 第一審福井地裁は、整理解雇を無効として、地位確認及び賃金請求の一部を認容した。第二審名古屋高裁金沢支部は、整理解雇が有効であるためには、〔1〕整理解雇の必要性の有無及び程度〔2〕解雇回避努力の有無及び程度〔3〕被解雇者選定手続の相当性〔4〕整理解雇手続の相当性の諸点を総合勘案して、解雇権濫用の有無が判断されるべきとし、そのうえで、第1次整理解雇は、〔1〕については、人員削減の必要はあったが高度なものとはいえず、〔2〕については、希望退職者の募集は解雇を回避するために有効な措置とはいえず、〔3〕については、過去の昇給査定ランク・規律違反率を基準としたことは合理性があり、〔4〕については、X及びXが属するA労組との協議に誠実だったとはいえないとし、本件は解雇権の濫用で無効とした。また、第2次整理解雇は、上記〔1〕を肯定、〔2〕〔3〕〔4〕を否定して、これも無効とした。
参照法条 : 労働基準法18条の2
労働基準法89条
民法536条2項
体系項目 : 賃金(民事)/賃金請求権の発生/無効な解雇と賃金請求権
解雇(民事)/解雇権の濫用/解雇権の濫用
解雇(民事)/整理解雇/整理解雇の要件
裁判年月日 : 2006年5月31日
裁判所名 : 名古屋高金沢支
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成15(ネ)297
裁判結果 : 一部認容、一部棄却(確定)
出典 : 労働判例920号33頁
審級関係 :  
評釈論文 :
判決理由 : 〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
〔解雇-解雇権の濫用-解雇権の濫用〕
 (1) 本件解雇は、控訴人の就業規則59条5号の「事業の不振、縮小、その他運営上やむを得ない事情により剰員を生じ、他の職務に転換することも不可能なとき」に該当する事由があるとして、被控訴人に対してされた解雇であって、いわゆる整理解雇による解雇である。したがって、本件解雇が有効であるためには、少なくとも就業規則59条5号所定の事由、すなわち、控訴人について「事業の不振、縮小、その他運営上やむを得ない事情により剰員を生じ」たこと及びその剰員を「他の職務に転換することも不可能なとき」に該当することを要することは明らかである。
 そして、整理解雇を含む解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められないものであるときには、解雇権の濫用として無効となるところ、整理解雇は、企業が、労働者には特に帰責事由のない、事業の不振等の経営者側の事情により、雇用する労働者を解雇するものであるから、労働者が期間の定めがない雇用契約により雇用されているため、当該雇用契約が長期の継続を予定されている場合においては、解雇がその労働者に与える重大性に鑑み、〔1〕その労働者に対する人員削減のための整理解雇の実施が企業経営上の十分に合理的な必要性に基づく措置であるか否か(整理解雇の必要性の有無及び程度)、〔2〕整理解雇を回避するためにどのような措置が実施されたか否か(解雇回避努力の有無及び程度)、〔3〕整理解雇対象者の選定が合理的な基準に基づいてされているか否か(被解雇者選定手続の相当性)、〔4〕上記〔1〕ないし〔3〕についての当該労働者及びその属する労働組合に対する十分な説明が実施されたか否か(整理解雇手続の相当性)の諸点を総合勘案して、解雇権濫用の有無が判断されるべきである。けだし、上記のような雇用関係においては、労働者は、当該企業に長期間勤務することを前提として長期的な人生設計を立て、他方、企業もまた、そのことにより熟練した労働者を確保し、そのような労働者の企業への貢献を期待する関係が生じるのを通常とするから、そのような雇用契約に付随する信義則上の義務として、企業には経営の状況に応じてその労働者の雇用の安定を図る配慮義務があると解するのが相当であるからである。〔中略〕第1次整理解雇前の平成14年1月当時、控訴人には多額の未処理損失があり、また、例年売上が増加する年度末になっても、売上が増加せず、在庫商品が増加して多量の在庫商品を抱えていた上、公共事業予算の縮減により平成14年度以降の売上の回復の目途もたたなかった状況にあったから、控訴人には、継続的な減産をすることで、在庫商品量を適正化し、損失の発生又はその増加を防止する必要があったのであり、控訴人が、このような経営状況下において、継続的な減産とそれにより剰員となる製造課員の人員を削減する必要があると考えて、人員削減の措置を講じようとすることは、経営上の方策として合理性があるものということができる。〔中略〕
 これらのことは、控訴人が、平成14年1月から2月にかけて8ないし10名の希望退職者を募りながら、被控訴人を含む6名の希望退職者及び解雇者をもって同時期の指名解雇を終了させることとし、同年3月11日に従業員に対し、今後他の分社への派遣・転勤を十分に検討し、極力退職や解雇を避ける方針である旨説明し〔中略〕、同月13日の福井分会との団体交渉において、控訴人は、本件解雇を含めて6名の人員削減ができたことで、引き続いて解雇を実施するつもりはなく、いったん様子をみる旨説明している事実〔中略〕からも窺われるところである。
 そうすると、控訴人について、第1次整理解雇当時、人員削減についてその必要はあったものの、それが高度なものであったとまでは認め難いというべきである。〔中略〕控訴人が実施した希望退職者募集は、解雇を回避するために十分に有効なものであったとはいい難い上、他に解雇回避のために取り得る可能性のある手立てについて十分に検討した事実も認められないから、控訴人において、第1次整理解雇に先立って、解雇を回避するために十分な努力を尽くしたものとは認められない。〔中略〕
 ア 上記(2)カ(イ)の事実によれば、第1次整理解雇の対象者の選定は、昇給査定ランクと規律違反歴によっているところ、昇給査定ランクは通常の業務の過程で作成され、会社に対する貢献度を図る上で一応の指標となるものであるから、これを解雇対象者の選定基準とすることには合理性があり、具体的な評価の方法についても、3年間の昇給査定ランクを参照することで、極端な評価の偏りによる不当な結果をある程度避けることができることからすると合理性があると考えられる。また、規律違反歴を解雇対象者の選定基準とすることも、規律違反歴は客観的資料により確認することができ、合理性を有する。〔中略〕
 したがって、控訴人が、従業員及びホクエツ労働組合に対し、少なくとも、本件解雇を含む第1次整理解雇の実施時期及び方法、被解雇者の選定基準について十分な説明し、誠実に協議したものということはできず、控訴人の第1次整理解雇手続が相当なものであったとは認められない。〔中略〕
 上記のとおり、控訴人が整理解雇として被控訴人にした本件解雇は、整理解雇の必要性は一応肯定でき、被控訴人を含む被解雇者選定手続は相当なものであったものの、整理解雇の必要性が高度とはいえない状況下において、十分な解雇回避措置が講じられることなく、解雇手続にも相当性を欠く部分があったから、結局において、客観的に相当な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合として、解雇権の濫用に該当し、無効というべきである。
 したがって、被控訴人は、本件解雇後も、控訴人との間に労働契約上の権利を有する地位にあるものである。〔中略〕控訴人がした第2次解雇は、控訴人春江工場の閉鎖に伴って余剰となった製造課員について、人員削減を行うための整理解雇として実施されたものであることが明らかである(以下「第2次整理解雇」ともいう。)。〔中略〕第2次整理解雇は、客観的に相当な理由を欠き、社会通念上相当と認められないものというほかないから、解雇権濫用として、無効というべきである。
 したがって、被控訴人は、第2次整理解雇後も、控訴人との間に労働契約上の権利を有する地位にあるものである。
〔賃金-賃金請求権の発生-無効な解雇と賃金請求権〕
 (1) 控訴人のした本件解雇及び第2次解雇はいずれも無効であるから、被控訴人は控訴人に対し本件解雇以後の賃金請求権を有するところ、弁論の全趣旨によれば、控訴人は、本件解雇及び第2次解雇が有効であるとして、被控訴人が控訴人との間に労働契約上の権利を有する地位にあることを否定し、その就労を拒否していることは明らかであるから、被控訴人の就労債務は、控訴人の責めに帰すべき事由により、履行不能となっているものであり、したがって、被控訴人は、民法536条2項本文により、上記労働契約に基づいて控訴人に有する賃金請求権を失わない。