全 情 報

ID番号 : 08495
事件名 : 持株会解散決議不存在確認等請求事件
いわゆる事件名 : アットホームほか(従業員持株会解散)事件
争点 : 不動産情報提供会社の従業員が株式会の解散決議不存在確認と慰謝料を請求した事案(労働者一部勝訴)
事案概要 : 不動産業界向けの情報提供を業とする会社Y1の従業員が、自己の所属する持株会社Y2が保有株式を会社Y1に売却し解散したのは、会員総会を開催しないでしたものであり、無効であると主張して、解散決議不存在、株式持分の確認を求め、併せて、解散手続に反対することを理由に不当な配置転換とセクハラを受けたとして慰謝料を請求する訴えを提起した。
 主たる争点はY2が解散したかどうかであり、Yらは、(1)株式の継続的な調達が困難になった平成9年にその目的である事業の成功の不能が確定したから当然に解散した、(2)本件解散決議は書面決議により有効に成立したからこの決議により解散した、と主張した。
 東京地裁は、会社の従業員持株会の解散手続を適法とし、Y1及びY2に対する解散決議不存在確認、株式の持分を有することの確認などの請求を棄却した。
 一方、原告が校正などの業務に配転したことについては、持株会解散に反対したことを理由として同人に著しい不利益を負わせるものであり不法行為を構成するとして、慰謝料を認容し、配転先の男性従業員が行った性的発言についても、民法715条に基づく会社に対する損害賠償請求を認容した。
参照法条 : 民法68条
民法69条
民法682条
民法683条
体系項目 : 労基法の基本原則(民事)/均等待遇/セクシャル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償
配転・出向・転籍・派遣/配転命令権の濫用/配転命令権の濫用
賃金(民事)/持株会等/持株会等
裁判年月日 : 2006年6月26日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成15(ワ)24649
裁判結果 : 一部却下、一部認容、一部棄却(控訴)
出典 : 時報1958号99頁/タイムズ1240号273頁/労働判例934号82頁
審級関係 :  
評釈論文 : 吉本健一・判例評論585〔判例時報1978〕211~213頁2007年11月1日
判決理由 : 〔賃金-持株会等-持株会等〕
 そうすると、被告持株会の解散に当たっても、会員総会を開催することは必ずしも必要ではなく、書面決議をもって足りると解するのが相当である。〔中略〕
 (2) 本件解散決議が書面決議として有効なものであるか否かについて
 原告は、仮に解散決議が書面決議で足りるとしても、同意書には同意欄しか設けられていないこと、各会員の同意が不十分な意思に基づくこと、過半数の同意をもって可決としていることなどから、有効な決議とはいえない旨主張する。
 確かに、前記認定のとおり、同意書には同意欄しか設けられておらず、各会員が解散に賛成するか反対するかの決議の方法としては望ましくないものであった点は否めない。また、本件規約上、規約の変更には少なくとも三分の二の賛成(三分の一以上の異議がないこと)が必要であることからすれば、本件解散決議にあっても三分の二以上の賛成をもって可決とするのが相当であり、過半数の同意をもって可決としたことについては問題がないわけではない。
 しかしながら、前記認定のとおり、被告持株会は同意書の上欄の記載ないし趣旨書において解散の理由について会員に説明を行っていること、同意書の記載内容自体は不明確なものではないこと、同意しない場合には同意書を提出しないとか反対する旨の書面を提出するとかの方法により意思表示をする手段が存在すること、同意書に不明な点がある場合には被告石井に連絡するよう記載されていること、会員は一株当たり一五〇〇円から二〇〇〇円で被告会社の株式の持分を取得して(しかも、拠出金の五%は被告会社から支給されている。)毎年かなり高率の配当額を得てきたことからすれば、一株三〇〇〇円とする売却価格も不当に低廉であるとはいえないこと、当時の会員一三六名中一二五名から同意書を得ていることからすれば、結果的には優に三分の二以上の賛成を得て決議されたものであって、過半数の同意を要件とした手続の問題性は実質的には治癒したといえる(当初同意書を提出しなかった一一名のうち、原告を除く一〇名がその後振込依頼書を提出したことにより、最終的には原告を除く一三五名が本件解散決議を受け入れたといえる)ことに照らせば、同意書の提出をもってした本件解散決議は、有効であるというべきである。
〔労基法の基本原則-均等待遇-セクシャル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用-配転命令権の濫用〕
 本件配置転換は、原告が被告持株会の解散に強く反対したことをその理由とするものであったと推認することができる。
 そして、本件配置転換は、被告会社に長年勤務してきた原告にとって著しい不利益を伴うものであるというべきであり、これらの事情に照らすと、被告会社の本件配置転換命令は、不法行為を構成する違法なものであるというべきである。
 八 争点七(被告会社の従業員のセクハラ発言等の有無及び違法性)について
 (1) 原告は、被告会社の従業員らにより、セクハラ発言を受けた旨主張する。
 前記認定のとおり、原告が本件配置転換を受けた部署において、被告会社で働く男性が性的な発言を繰り返し、それに対し、原告が苦情を申し立てたところ、その男性が、かつて原告につきまとい行為を行っていた者の名前を挙げ、あたかもその者に連絡を取るかのような発言をしたことが認められる。これらの発言は、原告の平穏な職場環境において働く利益を違法に侵害するものというべきである。
 これに対し、被告らは当該発言があったことを否認するが、被告会社自身、原告の指摘するような発言の存在を認めていたこと、この点に関する原告本人の供述は具体的で信用性が高いことからすれば、被告らの主張は採用することができない。
 (2) そして、上記発言はいずれも、被告会社で働く男性によって勤務時間中になされたものであるから、被告会社は、民法七一五条に基づき、原告に生じた損害を賠償する責任を負うというべきである。