ID番号 | : | 08497 |
事件名 | : | 損害賠償請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | NHK千葉放送局事件 |
争点 | : | NHK集金人とNHKとの間の委託契約が労働契約あるいは労働契約類似の契約に当たるか否かなどが争われた事案 |
事案概要 | : | Y協会と受信料の集金等を目的とする業務委託契約を結んでいたXが、不適切な事務処理を理由に委託期間中に解約されたため、Yに対し、委託契約には労働契約法理が適用又は類推適用されるべきであるとして、〔1〕解約は何ら理由を示さず解雇権を濫用した違法なものとして不法行為に基づく損害賠償を求め、仮に労働契約法理が適用又は類推適用されないとしても、〔2〕Xの不利な時期に解約がなされたとして民法651条2項による損害賠償、〔3〕期間を定めた契約では解約権は放棄されておりこれに反する解約である、として不法行為等による損害賠償等を求めた事案の控訴審である。 第一審千葉地裁は、本件契約は労働契約あるいは労働契約類似の契約とみることはできないとした上で、〔1〕Xには不適切な事務処理という債務不履行が認められ、解約は適法であること、〔2〕解約はXの債務不履行によるもので、民法651条2項の不利な時期の解約には当たらないとし、〔3〕本件契約書の規定からも解約権を放棄したものとはいえない、としてXの請求を棄却。Xが控訴した第二審東京高裁も、一審判決を維持し、控訴を棄却した。 |
参照法条 | : | 民法415条 民法540条 民法651条 民法709条 |
体系項目 | : | 労基法の基本原則(民事)/労働者/委任・請負と労働契約 労働契約(民事)/成立/成立 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償 解雇(民事)/解雇権の濫用/解雇権の濫用 |
裁判年月日 | : | 2006年6月27日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成18(ネ)846 |
裁判結果 | : | 棄却(確定) |
出典 | : | 労働判例926号64頁 |
審級関係 | : | 一審/千葉地/平18. 1.19/平成16年(ワ)38号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労基法の基本原則-労働者-委任・請負と労働契約〕 〔労働契約-成立-成立〕 〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕 〔解雇-解雇権の濫用-解雇権の濫用〕 当裁判所も、控訴人の請求は理由がなく、これを棄却した原判決は正当であると判断するが、その理由は、次のとおり付加補正し、また、後記2のとおり、控訴理由に対する説示を加えるほか、原判決の「第3 争点に対する判断」に記載のとおりである。〔中略〕 〔労基法の基本原則-労働者-委任・請負と労働契約〕 〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕 〔解雇-解雇権の濫用-解雇権の濫用〕 (3) 争点(3)について、控訴人は、委託期間満了前の契約解除が、受任者の不利益な時期にされた解除である旨を主張するが、本件委託契約における報酬は、出来高払いによるものであることは既に説示したところから明らかであり、仕事の完成により報酬を支払うことを内容とする委任契約においては、中途で解約されたことだけをもって、民法651条2項所定の不利な時期の解約には当たらないというべきであり、そのほか本件解約をもって控訴人に対して不利な時期にされたものとする事情も見当たらないから、原判決の説示するとおり、控訴人に著しい債務不履行があることを原因とする本件解約によって、被控訴人が同項による損害賠償責任を負うことはない。〔中略〕 前記の各行為が、法32条1、2項並びに同条項に基づき別に定められた日本放送協会放送受信規約(以下「受信規約」という。〈証拠略〉)及び日本放送協会放送受信料免除基準(以下「免除基準」という。〈証拠略〉)の各定めに反するものであることは明らかである。受信規約は、受信装置の設置と同時に受信契約が成立したものとした上(4条1項)、受信料について、各期別分ごとに一括して支払い(5、6条)、公的扶助受給等の免除基準所定の事由がない限り、その免除は認めないものとし(10条)、また、受信契約者が住所を変更した場合には、受信契約者は、直ちにその旨を放送局に届け出なければならないものとしている(8条)。これらの諸規定に照らしてみると、前記控訴人の類型Aの行為は、免除基準に該当しないのに受信契約者に受信料の一部の支払を免除したものであり、類型B及びCの行為は、受信契約者が記載していないにもかかわらず、控訴人が所定の事項を記載して届け出たものであり、類型Dの行為は、A類型の行為と同様に、受信契約者に受信料の一部の支払を免除する結果となるのみならず、廃止事由がないか、その必要がないのに廃止届を取り次いだものであって、これらは、いずれも法32条等の各規定に違反するものであるからである。〔中略〕 これらの証拠に照らして考えると、前記の控訴人の供述又は控訴人提出の証拠のみでは、控訴人主張の職場慣行の存在を認められず、本件記録を精査しても、他にこれを認めるに足りる証拠はない。〔中略〕 オ なお、控訴人の前記類型AからDまでの行為が適切に行われたか否かは、法の理念から判断すべきではなく、職場慣行を基準として判断すべきである旨の控訴人の主張について、付言する。 法が、被控訴人の業務内容や業務執行等について、国会の承認や会計検査院の検査を経ることを要求するなど、詳細かつ厳格な規定を置き、ことに、一種の公的料金として全国の放送受信者に広く受信料の負担を求めることから、受信契約及び受信料に関して、前記のとおり、放送受信者間において受信料の負担に関して公平を損なうことのないように詳細に規定していることを考慮すると、法や受信規約等に従って被控訴人の業務が執行されるべきことは当然のことであり、控訴人の主張が、当該職場慣行が法や受信規約等の趣旨に反するものであった場合にもこれを優先すべきであるとするものであれば、それは、法の適正な執行を通じて守られるべき受信契約者全体の利益や受信契約者間相互の公平を損なう結果をもたらすものであって、到底採用することができない。〔中略〕 しかしながら、被控訴人が控訴人の上記各行為を不適切な事務処理であるとして本件委託契約を解約したことは前示のとおりであり、この事実に照らして考えると、被控訴人が上記事務処理を適正なものと承認していたとの事実を認めることはできず、本件記録を精査しても、他に控訴人の前記主張を認めるに足りる証拠はない。また、控訴人の上記各行為が法及び受信規約に反する行為であることは既に説示したところから明らかであり、被控訴人千葉放送局がこれについて事務費等を支払ったことによって、控訴人の上記の各行為を許容する職場慣行があったことを認めるには至らず、控訴人の上記の各行為が適正なものとなる理由とはなりえないものというべきであるから、控訴人の上記主張は採用することができない。〔中略〕 しかしながら、この点に関しても、控訴人の前記の各行為が法及び受信規約に反する行為であったことは既に説示したとおりであるところ、本来、被控訴人において、当時これを発見し、かつ、是正すべきものであったにもかかわらず、被控訴人千葉放送局において発見できなかったものということができる。そして、同放送局が前示のような指導・監督体制を取っていながら、控訴人の前記各行為を把握できなかったことは、地域スタッフの提出する帳票類が膨大であるとの控訴人の主張を十分考慮したとしても、その監督体制のあり方等々について問題とされ、更なる改善を求められることはあっても、控訴人の前記の各行為を正当化するものではないといわなければならず、被控訴人が不正行為を把握し、是正し得なかったことをもって、控訴人の前記の各行為を適正なものと評価することができるものではないといわなければならないから、控訴人の上記主張は採用することができない。 3 以上によれば、その余の点を判断するまでもなく、控訴人の本訴請求は理由がない。 |