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ID番号 : 08502
事件名 : 損害賠償請求控訴事件
いわゆる事件名 : NTT東日本北海道支店事件
争点 : 雇用形態変更に伴う研修期間中の従業員の急性心筋虚血による死亡と業務との因果関係の有無等が争われた事案(使用者敗訴)
事案概要 : Y社Y1支店に勤務するAは、リストラ計画に基づく研修期間中に急性心筋虚血により死亡した。そこで、Aの妻らは労災保険の遺族補償年金を申請したが不支給とされたため、Aの死亡原因がYの安全配慮義務違反にあるとして、不法行為等よる損害賠償を求めた事案の控訴審判決である。
 第一審札幌地裁は、妻らの請求を認容したためYが控訴。第二審札幌高裁は、〔1〕Aは家族性高コレステロール血症に罹患していたが、それだけで急性心筋虚血が発症するとはいえず、雇用形態変更に伴う精神的ストレス、研修参加に伴う精神的・身体的ストレスが自然的経過を超えて冠状動脈の状態を憎悪させ、心筋梗塞等を発症させたとして因果関係を認めた。〔2〕次いで、Y社健康管理規程の指導区分「要注意(C)」について、原則は、時間外労働、過激な運動を伴う業務や宿泊出張を命じないとし、やむを得ない場合には組織の長と健康管理医が協議して決めるとしていたところ、この手続を怠り、これがAの生体(生活)リズムに著しい変化を与え、過度の精神的・身体的ストレスを与えたとしてYの安全配慮義務違反と損害賠償責任を認めた。〔3〕なお、第一審での求釈明に応じて過失相殺規定の類推適用を主張しないとしていたYが控訴審でこれを主張したことについて、著しく信義に反し主張自体を許さないとの判断を示した。
参照法条 : 民法415条
民法709条
民法715条
民法722条
体系項目 : 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/安全配慮(保護)義務・使用者の責任
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 : 2006年7月20日
裁判所名 : 札幌高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成17(ネ)135
裁判結果 : 棄却(上告)
出典 : 労働判例922号5頁/労経速報2006号13頁
審級関係 : 上告審/最高一小/平20. 3.27/平成18年(受)1870号
一審/08388/札幌地/平17. 3. 9/平成15年(ワ)282号
評釈論文 :
判決理由 : 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 (3) 一郎の使用者である控訴人は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の健康を損なうことがないように注意する義務を負うと解される。〔中略〕
 にもかかわらず、健康管理医であるS医師と職場の上長であるI課長は協議の上、前年におけるS医師との面談等で特別問題がなかったこと、毎月の保健師による職場巡回の際に、一郎から症状の悪化や体調不良等の訴えがなく、職場の上司との話合いの中でも特別な事情が出てこなかったことから、控訴人は、漫然と、一郎が本件研修に耐えられる状態にあると判断し、一郎の本件研修への参加を決定したのであって、その結果、一郎が急性心筋虚血によって死亡するに至ったのであるから、控訴人の担当者には、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の健康を損なうことがないように注意する義務に違反した過失があるということができる。〔中略〕
 (5) 以上に認定、説示したところによれば、控訴人の担当者は、比較的安定していた一郎の生体リズム及び生活リズムに大きな変化を招来し、これをを壊しかねない本件研修への参加を止めさせるべきであったというべきであり、それにもかかわらず一郎を本件研修に参加させた控訴人の担当者には上記注意義務に違背した過失がある(なお、仮に参加させるにしても、一人部屋をあてがうなど十二分な配慮をする必要があったというべきである。)。よって、控訴人は、民法715条に基づき、一郎が死亡したことにより、同人及びその相続人である被控訴人らが被った損害を賠償する責任がある。