ID番号 | : | 08508 |
事件名 | : | 労働者災害補償保険法による遺族葬祭補償給付等不支給決定処分取消請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 大阪西労基署長(藤原運輸)事件 |
争点 | : | 心疾患を有する荷役作業従事者の死亡と業務との因果関係の有無が争われた事案(国敗訴) |
事案概要 | : | B会社で荷役作業に従事していたAが、玉掛け作業終了後に倒れ、致死性不整脈により死亡したのは業務に起因するとして、Aの姉Xが、労災保険法による遺族補償給付及び葬祭料を不支給とした労基署長の処分の取消しを求めた事案の控訴審である。 第一審大阪地裁は、作業が相対的に心疾患の発症の有力な原因とは断定しがたいとして、Xの請求を棄却した。Xの控訴を受けた大阪高裁は、〔1〕Aの心臓基礎疾患は、確たる発症因子がなくても自然の経過により心臓病を発症させる寸前にまでは増悪していなかった、〔2〕発症当時のAの作業内容は、精神的・肉体的に相当の負担を伴うものであるところ、死亡直前の1週間はほとんど残業もなく休日も多いなど比較的軽い業務内容だったため、Aの身体がそれに順応していたと思われ、死亡当日は通常どおりの作業と久しぶりの残業でAにとって相当負担の高い業務となっていた、〔3〕業務の他に心臓病の確たる発症因子があったことをうかがわせるものはない、としてAの業務と本件心臓病との間に相当因果関係(業務起因性)があると認め、一審判決を取り消し、Xの請求を認容した。 |
参照法条 | : | 労働者災害補償保険法7条1項 労働者災害補償保険法11条 労働者災害補償保険法12条の7 労働者災害補償保険法12条の8 労働者災害補償保険法40条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険/業務上・外認定/業務起因性 労災補償・労災保険/業務上・外認定/脳・心疾患等 労災補償・労災保険/補償内容・保険給付/遺族補償(給付) 労災補償・労災保険/補償内容・保険給付/葬祭料 労災補償・労災保険/審査請求・行政訴訟/審査請求・行政訴訟 |
裁判年月日 | : | 2006年9月28日 |
裁判所名 | : | 大阪高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成16行(コ)122 |
裁判結果 | : | 原判決取消、認容(確定) |
出典 | : | 労働判例925号25頁 |
審級関係 | : | 一審/大阪地/平16.11.17/平成13年(行ウ)83号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕 〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-遺族補償(給付)〕 〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-葬祭料〕 〔労災補償・労災保険-審査請求・行政訴訟-審査請求・行政訴訟〕 3 被災者の従事していた業務と本件死亡との因果関係(業務起因性)の有無について (1) 被災者は、前記のとおり、大動脈弁閉鎖不全、僧帽弁狭窄症、不整脈(心房細動)持続等の心臓疾患(本件基礎疾患)を有しているが、このように心臓疾患を有している被災者の業務起因性については、被災者の本件基礎疾患が、確たる発症因子がなくてもその自然の経過により心臓病を発症させる寸前にまでは憎悪していなくて、その業務の負担が相当高いとき、他に心臓病の確たる発症因子のあったことがうかがわれないときには、その業務と心臓病との間に業務起因性を認めるのが相当である(最高裁平成12年7月17日第1小法廷判決、同18年3月3日第2小法廷判決参照)。 (2) まず、本件発症当時、被災者の本件基礎疾患が、確たる発症因子がなくてもその自然の経過により心臓病を発症させる寸前にまで憎悪していたか否かにつき、検討する。〔中略〕 上記認定によると、被災者は、本件発症の5日及び1週間前に医師の診察ないし健康診断を受け、いずれも通常の仕事に支障があるとの診断結果ではなかったから、そのころ、仕事に差し支えるような身体状況ではなかったものであるところ、本件発症前1週間の勤務状況は、その直前の2日間は休業で、2日間は午前中の勤務で、3日間は午後4時の終業時刻以降も勤務したが、その合計が1時間13分に過ぎず、それ以前の業務内容と比較して軽い仕事内容であったということができることに照らすと、本件発症当時、被災者の心臓の基礎疾患が、確たる発症因子がなくてもその自然の経過により心臓病を発症させる寸前にまで憎悪していたとはいえない。 (3) 被災者の本件発症当時の業務の負担が相当高かったか否かにつき、前記1の認定事実を基に検討する。〔中略〕 以上の認定事実によると、被災者の本件発症当時の業務の負担は、精神的にも肉体的にも相当高かったとみることができそうであるが、ただ、上記(2)の認定のとおり、本件発症前1週間の勤務状況は、その直前の2日間は休業で、2日間は午前中の勤務で、3日間は午後4時の終業時刻以降も勤務したが、その合計が1時間13分に過ぎなかったものであり、その仕事内容は従前の業務内容と比較して軽いものであったことに照らすと、被災者の本件発症当時の業務の負担が相当高かったと断定することに躊躇せざるをえない。 しかしながら、そもそも、被災者の本件発症当時の本件作業は、精神的にも肉体的にも相当の負担を伴うものであるところ、その直前の1週間の業務内容は、ほとんど残業がなく、半日勤務も2日間、通常週1日しかない休業が2日間あるなど、たまたま比較的軽い業務内容になっていたものであり、その比較的軽い業務内容等に被災者の身体が順応していたものと推測されるのであるが、被災者は、本件発症当日、2日間の休業明けの出勤であり、雨のため実際の作業の始まりが遅れたとはいえ、通常どおり出勤して通常どおりの作業をし、その後に久しぶりの残業をしたことで、前の週の業務に比較すると、相当厳しい業務となったものというべきであるから、被災者の本件発症当時の業務の負担は相当高かったとみるのが相当である。 (4) さらに、被災者の本件発症に関して、本件発症当日の業務の他に心臓病の確たる発症因子のあったことがうかがわれるか否かについてであるが、被災者に服薬の懈怠があったこと、不眠が本件発症の重要な要因になったことを認めるに足りる証拠はなく、その他、本件全証拠によっても、他に心臓病の確たる発症因子があったことをうかがわせるものはない。 (5) 以上の次第であって、本件発症当時、被災者の基礎疾患である心臓疾患は、確たる発症因子がなくてもその自然の経過により心臓病を発症させる寸前にまでは憎悪(ママ)していなかったもので、その業務の負担は相当高かったものであり、被災者に他に心臓病の確たる発症因子のあったことがうかがわれないから、被災者の業務と本件発症たる心臓病との間に相当因果関係があると認めることができる。 第4 結論 よって、本件発症について業務起因性を認めることができ、本件処分は違法であるから、これと異なる原判決を取り消し、主文のとおり判決する。 |