ID番号 | : | 08511 |
事件名 | : | 配転無効確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | NTT東日本(北海道・配転)事件 |
争点 | : | 電信電話会社の従業員及び元従業員が、配転命令の権利濫用を主張した事案(労働者一部勝訴) |
事案概要 | : | 電信電話会社の従業員及び元従業員が、異職種、遠隔地への配置転換命令につき、権利の濫用であるとして、会社に対し慰謝料と配転の無効確認等を請求した事案である。 札幌地裁は、配転について定めた就業規則には職種、勤務地の限定に関する記載はなく、また、同社の会社規模からすれば異職種、遠隔地配転が行われることは通常であったことなどから、従業員らと同社の間で職種、勤務地の限定が明示又は黙示的に合意されていたと認めることはできない。しかし、合意が認められるとしても配転命令が無制約に許されることにはならず、他の不当な動機、目的をもってされたものであるとき、若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときなどの特段の事情がある場合には権利濫用となると判示した。その上で、原告ごとに個別に判断し、5名のうち4名については業務上の必要性が認められないとし、また残りの1名については2回のうち2回目は業務上の必要性がなく、1回目は業務上の必要性が認められるものの、両親介護の必要性が高かったことから通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであったとして、いずれも権利濫用を認定し、前者4名には慰謝料各50万円(請求額=各300万円)を、後者1名には100万円(請求額=300万円)を認めた。 |
参照法条 | : | 民法709条 民法710条 |
体系項目 | : | 配転・出向・転籍・派遣/配転命令権の濫用/配転命令権の濫用 |
裁判年月日 | : | 2006年9月29日 |
裁判所名 | : | 札幌地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成14(ワ)1958 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却(控訴) |
出典 | : | タイムズ1222号106頁/労働判例928号37頁/労経速報1954号3頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 紺屋博昭・法学〔東北大学〕71巻3号88~96頁2007年8月 |
判決理由 | : | 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用-配転命令権の濫用〕 被告における上記のような判断及びこれに基づく本件計画等の策定及び実施は、その経営判断に基づくものであるところ、これが不必要であったとか著しく不合理であったとすべき事情を認定するに足りる証拠はない。また、雇用形態の選択を求める際に一定の年齢(平成14年3月31日時点では50歳以上か、50歳未満か)を基準としたこと、その年齢以上の者に対し、本件選択通知書の提出による雇用形態の選択を求め、これを提出しない者については定年まで引き続き被告が雇用することとし、かつ、それらの者については全国的な配転もあり得る反面、OS会社への出向はないなどとしたことは、上記認定の理由に基づくものであって相応の合理性があると認められ(後記のとおり、全国的な配転等は被告の就業規則60条に基づくものであり、原告らとの労働契約に勤務地や職種の限定があるなどとは認められない。)、このような被告の経営判断を違法なものであるなどとすることはできない。〔中略〕 イ 勤務地や職種の限定等について〔中略〕 原告らと被告との間で勤務地、職種の限定が明示又は黙示的に合意され、あるいはそれらの限定が慣行となっていたと認めることはできない。〔中略〕 オ 権利濫用の主張について (ア) 本件において、勤務地、職種の限定の合意等が認められないとしても、配転、特に転居を伴う配転は、労働者の生活関係に影響を与えるから、使用者による配転命令が無制約に許されることにはならない。 そこで、当該配転命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該配転命令が他の不当な動機、目的をもってされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく越える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合、当該配転命令は、権利の濫用となる。そして、業務上の必要性は、当該配転先への配転が余人をもって容易に替え難いといった高度の必要性に限定されず、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化等の使用者の合理的運営に寄与する点があれば、認められると解される。 上記の業務上の必要性等は、労働者ごとに異なるものであるから、原告らについても、個別に判断する必要がある。そこで、原告らにおいて、権利濫用に当たる配転命令がされたかにつき、下記2ないし6(争点(2)ないし(6)の検討)において個別的に検討する。〔中略〕 2 争点(2)(原告甲野の個別事情)について〔中略〕 これらのことからすれば、原告甲野につき、本件配転の業務上の必要性は認められない。〔中略〕 その他、上記認定の本件配転による原告甲野の苫小牧での生活の期間や態様等の各事情を勘案すれば、本件配転命令によって原告甲野の被った精神的苦痛に対する慰謝料は、50万円とするのが相当である。 3 争点(3)(原告乙原の個別事情)について〔中略〕 したがって、被告の主張を採用することはできず、Lモード販売につき適任であるとの理由のほかに原告乙原が室蘭営業支店に配転されなければならない特別な理由を認めるに足りる証拠はないことからすれば、本件配転につき労働力の適正な配置がされたと見ることはできない。また、本件配転による業務の能率増進等の被告の合理的運営に寄与する点は認められず、原告乙原につき本件配転の業務上の必要性は認められない。〔中略〕 その他、上記認定の本件配転における各事情を勘案すれば、本件配転命令によって原告乙原の被った精神的苦痛に対する慰謝料は50万円とするのが相当である。 4 争点(4)(原告丙山の個別事情)について〔中略〕 したがって、原告丙山につき本件配転の業務上の必要性は認められない。〔中略〕 その他、上記認定の本件配転における各事情を勘案すれば、本件配転命令によって原告丙山の被った精神的苦痛に対する慰謝料は50万円とするのが相当である。 5 争点(5)(原告丁川の個別事情)について〔中略〕 したがって、本件配転の業務上の必要性は認められない。〔中略〕 その他、上記認定の本件配転における原告丁川の釧路での生活の期間や態様等の各事情を勘案すれば、本件配転命令によって原告丁川の被った精神的苦痛に対する慰謝料は50万円とするのが相当である。 6 争点(6)(原告戊谷の個別事情)について〔中略〕 (2) 上記認定事実を踏まえ、原告戊谷の個別事情と本件配転命令の違法性等について検討する。〔中略〕 ウ 以上を総合して考えるに、NWソリューションセンタの配転には業務上の必要性は認められるものの、IPプロジェクトへの配転は業務上の必要性が認められない。一方、配転障害事由としての介護の必要性は大きく、NWソリューションセンタへの配転においても、労働者が通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであり、被告としては原告戊谷を、両親の介護をしやすい苫小牧へ配転させること等を配慮すべきであった(育児介護休業法26条参照)といえる(証人辛町も、原告戊谷が苫小牧で原告甲野がしている仕事を行うことができたと供述しており(証人辛町)、被告としては苫小牧への配転も配慮できたことが認められる。)。 エ 損害について 原告戊谷に対する本件配転命令は、上記のとおりいずれも権利の濫用として違法であるというべきである。 本件配転命令による原告戊谷の東京への異動は転居を伴うもので、その家族関係に影響を及ぼすものであり、特に両親の介護に与えた影響は大きなものがあり、それによって、原告戊谷が精神的苦痛を被ったことは容易に推認することができる。 その他、上記認定の本件配転における原告戊谷の東京での生活の期間や態様等の各事情を勘案すれば、本件配転命令によって原告戊谷の被った精神的苦痛に対する慰謝料は100万円とするのが相当である。 |