全 情 報

ID番号 : 08517
事件名 : 雇用契約上の地位確認等請求事件
いわゆる事件名 :
争点 : 解雇された配送員が解雇権の濫用と不当労働行為を主張して地位確認等を求めた事案(労働者勝訴)
事案概要 : 勤務態度不良などを理由として解雇された配送員が、解雇を相当とするほどの勤務態度の不良があったとは認められないから解雇権の濫用に該当し、かつ、当該配送員が労働組合を結成しようとしたものであるから不当労働行為に当たるとして、地位の確認・賃金支払いを求めた事案である。
 横浜地裁は、(1)勤務態度不良については、改善される可能性があったにもかかわらず解雇されたものであると認定し、(2)不当労働行為については、原告が労働組合を結成しようとしたことを決定的動機とするものであることを優に認めることができるとし、本件解雇は合理性を欠き社会通念上相当とは認められないから解雇権の濫用であり、かつ、不当労働行為であるか無効であると判示した。そして、本件雇用契約に基づき本件解雇後の賃金の支払いを命じた。
参照法条 : 労働基準法18条の2
労働組合法7条1号
体系項目 : 解雇(民事)/解雇事由/勤務成績不良・勤務態度
解雇(民事)/解雇事由/違法争議行為・組合活動
裁判年月日 : 2006年10月12日
裁判所名 : 横浜地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成17(ワ)1563
裁判結果 : 一部認容、一部却下、一部棄却(控訴)
出典 : タイムズ1230号172頁
審級関係 :  
評釈論文 :
判決理由 : 〔解雇-解雇事由-勤務成績不良・勤務態度〕
〔解雇-解雇事由-違法争議行為・組合活動〕
 (3) 以上のとおり、原告には、被告の外部的評価を低下させたとされる点、内部規律違反の点、他の配送員との関係の点については、解雇を相当とするほど勤務態度の不良があるとは認められない。
 ただし、前記(2)アで説示したとおり、原告の丙川、丁田その他の事務員に対する言動は、被告の円滑な業務進行を妨げ、職制に反する行為であり、前記のとおり丙川が「もう管理できません。」と被告代表者に訴えたことなどからすると、その勤務態度には不適切な点があり、被告がこれを放置することは困難で、何らかの対処を必要とするものではあったというべきである。
 しかし、被告は、本件解雇に至るまで、原告に対して何ら処分を行ったことがなく、勤務態度の改善を書面等で警告するなどの措置をとったことがなかったことからすれば、被告が原告に対して、勤務態度改善のための機会を与えてきたとは言い難い。
 そもそも、被告においては、配送員の業務を説明するマニュアルは存在したものの、就業規則はなく、従業員の服務を定めた明文の規定が存在しなかったところ、服務規則を定めることは、一般に従業員に対して、何が服務に反する行為であるか、これに違反するとどのような制裁を受けるかを知らしめることにより、従業員の勤務態度改善に一定の効果が期待できるものである。そして、被告は、現実に平成16年1月から、原告の勤務態度を念頭におき、配送員の服務を定めた「心得及び業務規則」を置く方針を固めていたのであるから、被告としては、このような服務規則のもと、原告が二郎の管理に従い、勤務態度を改めるか否かの判断をすべきであった。また、原告が要求していたミス届けに対する賃金についても、被告の賃金体系等を考慮すれば、検討の余地があるものであった。本件の事実経過及び原告の被告代表者に対する態度などに鑑みれば、このような被告の措置により、原告の勤務態度が改善される可能性は十分あったものと認められる。
 被告が上記のような措置を準備し、かつ、原告がその措置により勤務態度を改善させる可能性のある中で本件解雇が行われたものであることからすれば、上記(1)及び(2)認定の各事実があったことを考慮しても、本件解雇は、原告を解雇するための合理的な理由がなく、社会通念上相当であるとは認められず、無効というべきである。〔中略〕
 (5) 本件解雇は、前記2説示のとおり、解雇のための合理的な理由がないものであるところ、これに加え、以上のとおり、被告が二郎に対して平成16年1月から原告の勤務態度改善のために配送管理を任せたこと、被告代表者は平成15年12月24日まで原告を解雇する意思があったとは認められないこと、被告代表者は本件解雇前に二郎から原告が労働組合を結成しようとしていることを知らされていたと推認されること及び本件の事実経過に鑑みれば、本件解雇は、原告が労働組合を結成しようとしたことを決定的動機とするものであると優に認めることができる。
 したがって、本件解雇は、原告が組合を結成しようとしたことの故をもって行われた不当労働行為(労働組合法7条1号)であるから、無効である。
 4 以上のとおり、本件解雇は合理性を欠き社会通念上相当とは認められないから解雇権の濫用であり、かつ、不当労働行為であるから無効である。したがって、原告は、被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあるものと認められる。
 そうすると、被告は、本件解雇後原告の就労を拒絶しているのであるから、本件雇用契約に基づき本件解雇後の賃金を支払うべき義務がある。
 そして、前記1(1)の認定事実によれば、原告の毎月の賃金は、10日から15日までの不定日に支払われていたものであるから、遅くとも毎月末日までにはその弁済期が到来するものと認められる。また、原告の本件解雇後の賃金は、原告の賃金が担当コースの会員数に依存して増減するものであったこと、被告の会員数が平成13年ないし平成14年を境に減少傾向にあることなどを考慮すると、本件解雇前5年間の平均賃金(1か月当たり27万7875円)と認めるのが相当である。
 したがって、原告は、被告に対し、本件雇用契約に基づき、平成16年1月以降、毎月末日限り1か月当たり27万7875円の賃金請求権を有するものと認められる。