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ID番号 : 08533
事件名 : 雇用関係確認等請求、建物明渡反訴請求控訴事件(3120号)、承継参加事件(2552号)
いわゆる事件名 : CSFBセキュリティーズ・ジャパン・リミテッド事件
争点 : 外資系証券会社社員に対する整理解雇の有効性と、営業譲渡先からの社宅の明渡し等が争われた事案(使用者勝訴)
事案概要 : 外資系証券会社Y1に勤務するXが、整理解雇は無効であるとして、地位の確認と解雇後の賃金及び一時金の支払いを求め(本訴請求)、これに対しYが、社宅の明渡しと使用損害金の支払いを求めた(反訴請求)事案の控訴審である。
 第一審東京地裁は、Xの本訴請求をすべて棄却し、Y1社の反訴請求を認容した。これに対し、Xの控訴を受けた東京高裁は、〔1〕解雇の効力の判断に影響を及ぼすようなXに対するハラスメントがあったとは認められず、〔2〕Xが整理解雇の4要件と主張する人員削減の必要性、人選の合理性、解雇回避努力、手続の相当性は、整理解雇の効力(権利濫用の有無)を総合的に判断する上での重要な要素を類型化したものであり、整理解雇の有効性を判定するための「要件」と解すべきでないとし、これら要素を総合判断すると、Y1の解雇権濫用は認められず解雇は有効であり、地位確認請求には理由がないとして、Xの請求を棄却した。また、反訴請求については、解雇は有効でXとの雇用関係が終了したことに伴い社宅契約も終了しているとして、Y1から営業譲渡を受けたY2社の請求を認容した。
参照法条 : 労働基準法2章
労働基準法89条
労働組合法7条
民法709条
体系項目 : 労基法の基本原則(民事)/均等待遇/セクシャル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント
労働契約(民事)/労働契約の承継/営業譲渡
解雇(民事)/解雇権の濫用/解雇権の濫用
解雇(民事)/整理解雇/整理解雇
解雇(民事)/整理解雇/整理解雇の要件
寄宿舎・社宅(民事)/寄宿舎・社宅の利用/被解雇者・退職者の退去義務・退寮処分
裁判年月日 : 2006年12月26日
裁判所名 : 東京高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成17(ネ)3120
裁判結果 : 棄却(3120号)、認容(2552号)(上告(2552号))
出典 : 労働判例931号30頁
審級関係 : 一審/08414/東京地/平17. 5.26/平成15年(ワ)19953号
評釈論文 :
判決理由 : 〔労基法の基本原則-均等待遇-セクシャル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント〕
 (2) 控訴人が控訴理由として主張する点を踏まえ、当審で控訴人が新たに提出した証拠(〈証拠略〉)を加えて検討しても、上記(1)の認定は変わらない。控訴人は、本件解雇に至る過程において被控訴人における控訴人の同僚や上司による控訴人に対するハラスメントがあった旨を強調するが、〔中略〕下記2で検討する本件解雇の効力の判断に影響を及ぼすような違法なハラスメントがあったとまでは認められない。
〔女性労働者〕
 (1) 当裁判所も、被控訴人の控訴人に対する本件解雇は有効であると判断する。
〔解雇-整理解雇-整理解雇〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
〔解雇-解雇権の濫用-解雇権の濫用〕
 「是認することができるから、本件解雇は有効である。」を「是認することができ、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であるとは認められない場合に該当しないものであって、被控訴人が解雇権を濫用したものとは認められないから、本件解雇は整理解雇として有効である。〔中略〕控訴人が整理解雇の4要件として主張する〔1〕人員削減の必要性、〔2〕人選の合理性、〔3〕解雇回避努力、〔4〕手続の相当性は、整理解雇の効力(権利濫用の有無)を総合的に判断する上での重要な要素を類型化したものとして意味を持つにすぎないものであって、整理解雇を有効と認めるについての厳格な意味での「要件」ではないと解すべきである。
 本件において、本件解雇の効力(権利濫用の有無)を総合的に判断する上での重要な要素である上記〔1〕ないし〔4〕の要素については、引用に係る原判決が説示するとおり、〔1〕の「人員削減の必要性」については、本件解雇当時において被控訴人は経営上の理由に起因して従業員を解雇することが企業の合理的運営上やむを得ない状態にあったものと認められ、その必要性があったものということができ、〔2〕の「人選の合理性」については、被控訴人において人員削減の対象部署としてインターバンクデスクを選定し、インターバンクデスクにおける人員削減の対象者として支給給与額と売上実績(貢献度)とを考慮して控訴人を選定したことが不合理とまではいうことができないものと認められ(なお、本件退職勧奨の対象者とされた43名のうち控訴人を除く42名は退職に応じている。)、〔3〕の「解雇回避努力」については、本件解雇当時の被控訴人厳しい経営状態に加えて、控訴人の貢献度や控訴人が同僚や上司との間で深刻な人間関係上の問題を生じさせていたこと等を考慮すると、控訴人を他部署に配転させることを試みなかったとしても、被控訴人が解雇回避努力を怠ったとまではいえず、〔4〕の「手続の相当性」についても、被控訴人は、平成14年10月24日に控訴人に対して本件退職勧奨をなした後本件解雇通告をした平成15年2月28日までの間に、3回にわたって、控訴人及び控訴人が加入した組合との間で団体交渉に応じて、本件退職勧奨の必要性、控訴人を対象者として選定したことの理由、そして退職パッケージ等について説明等をし、それにもかかわらず本件退職勧奨の撤回を求める控訴人及び組合との間で合意に至らなかったため、被控訴人はその後においても団体交渉や都労委のあっせん手続等に応じるなどし、それでもなお合意に至らなかったという経過に徴すると、被控訴人においては本件退職勧奨及び本件解雇について控訴人の納得が得られるよう相応の努力をしたものということができる。
 以上を前提として、整理解雇の効力を判断する上での重要な要素である〔1〕人員削減の必要性、〔2〕人選の合理性、〔3〕解雇回避努力、〔4〕手続の相当性の4つの要素についての上記の検討結果を総合的に判断すると、本件解雇は、被控訴人就業規則42条4項の「事業の継続が困難になったとき」に該当し社会通念上相当なものとして是認することができ、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であるとは認められない場合に該当しないものであって、したがって、被控訴人が解雇権を濫用したものとは認められず、本件解雇は整理解雇として有効であるというべきである。
 以上のとおり、本件解雇を有効であるとした原判決の判断に誤りはなく、本件解雇が無効であるとする控訴人の主張は採用できない。
 (3) そうすると、本件解雇によって控訴人と被控訴人との間の本件雇用契約は平成15年3月31日をもって終了したことになるから、被控訴人との間で労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める控訴人の本訴請求は理由がないことになり、したがって、また、被控訴人の本訴被告としての地位を承継した参加承継人に対する控訴人の上記地位確認請求も、その余の点について判断するまでもなく、理由がないこととなる。
〔寄宿舎・社宅-寄宿舎・社宅の利用-被解雇者・退職者の退去義務・退寮処分〕
 本件解雇は有効であり、本件雇用契約は平成15年3月31日をもって終了したから、控訴人は同日をもって被控訴人の社員たる身分を失ったことになり、控訴人と被控訴人との間の本件社宅契約も同日をもって終了したものというべきである。
 そうすると、控訴人は、本件社宅契約終了の日の翌日である平成15年4月1日から本件建物を権原なく不法に占有していることとなる。
〔労働契約-労働契約の承継-営業譲渡〕
 (5) したがって、これによれば、被控訴人は、上記(4)のとおり参加承継人に対して本件建物に関する一切の権利を譲渡したことにより、本件建物についての被控訴人に対する権利を失ったことになるから、被控訴人の控訴人に対する反訴請求はいずれも理由がないことになり、他方、被控訴人から本件建物に関する一切の権利を譲り受けた参加承継人は、控訴人に対し、〔1〕本件建物の明渡しと、〔2〕本件社宅契約終了の日の翌日である平成15年4月1日から本件建物の明渡済みまで1か月21万6000円の割合による使用損害金の支払を求めることができるものであり、参加承継人の控訴人に対する請求はいずれも理由があることになる(参加承継人が第1の3(2)で請求する777万6000円は、平成15年4月1日から平成18年3月31日までの36か月間の使用損害金(1か月21万6000円)である。)。〔中略〕
 しかしながら、前記「前提となる事実」(引用に係る原判決の第2の1の(1)イ(カ))のとおり、控訴人は、平成12年7月19日に被控訴人との間で本件雇用契約を締結した際、平成12年分のインセンティブパフォーマンスボーナスとして16万USドルの支給を平成13年3月31日までに受ける旨の合意をしたものの、平成13年度以降の一時金の支払については合意をしておらず、被控訴人の就業規則等においても被控訴人に控訴人への一時金の支給を義務付ける規定の存在を認めることができない。〔中略〕
 (2) そうすると、平成14年度の一時金として2924万9044円の支払を求める控訴人の被控訴人に対する本訴請求は理由がなく、したがって、また、控訴人の参加承継人に対する上記の一時金支払請求も、その余の点について判断するまでもなく、理由がないこととなる。