ID番号 | : | 08540 |
事件名 | : | 賃金等請求控訴事件、法260条2項の申立事件 |
いわゆる事件名 | : | 東急バス(チェック・オフ停止等)事件 |
争点 | : | 組合費のチェック・オフ、有給休暇の不承認による欠勤扱い等の不当性及び懲戒処分の有効性等が争われた事案(労働者一部認容、一部棄却) |
事案概要 | : | Y社バス運転手X2らが、A労組脱退後もYがA労組組合費のチェック・オフを行ったため、Yに対し控除分賃金の支払いを求め、また、各個人による有給休暇不承認による欠勤控除分賃金の支払いや、X1労組によるYに対する損害賠償請求等事案の控訴審である。 第一審東京地裁は、〔1〕チェック・オフを止めるには本人の意思表示が必要として、労組名義の文書により中止を申入れたとする6名の主張を認めず、〔2〕出勤時間に14分遅れたため38分後の予備乗務を命じられ、これにより52分が欠勤とされた件について、14分が減額対象であることなどを認定した。 これに対し、X1、Yそれぞれが控訴。第二審東京高裁は、〔1〕チェック・オフについて一審で個別の意思を認めなかった4名について、団体交渉申入書交付時に同行し、さらにA労組脱退に伴う組合費天引きの中止を要求するX1文書にX1名義とともに4名の氏名が記されており、中止申入れの意思は明らかとして控除分返還請求を認め、〔2〕遅刻時間の算定では、実際に乗務を始めるまでの時間が遅刻時間であるとしてYが支払った38分間の未払分賃金の返還を命じたほかは、一審を維持した。 |
参照法条 | : | 労働基準法3条 労働基準法24条1項 労働基準法39条 労働基準法89条 労働組合法7条 |
体系項目 | : | 労基法の基本原則(民事)/均等待遇/組合間差別 賃金(民事)/賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額/賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額 賃金(民事)/賃金の支払い原則/チェックオフ 年休(民事)/時季変更権/時季変更権 懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/業務命令拒否・違反 懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/服務規律違反 |
裁判年月日 | : | 2007年2月15日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成18(ネ)3565 |
裁判結果 | : | 取消、変更(確定) |
出典 | : | 労働判例937号69頁/労経速報1963号20頁 |
審級関係 | : | 一審/08492/東京地/平18. 6.14/平成14年(ワ)21282号 |
評釈論文 | : | 道幸哲也・労働法律旬報1658号37~43頁2007年10月25日 |
判決理由 | : | 〔賃金-賃金の支払い原則-チェックオフ〕 〔1〕一審原告Dについてはその請求1の(1)の全部である8619円(請求に係る39日分)とこれに対する平成12年11月26日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の請求を認容すべきであり、〔2〕一審原告Eについてもその請求1の(2)の全部である8892円(請求に係る39日分)とこれに対する平成12年11月26日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の請求を認容すべきであり、〔3〕一審原告Bについてもその請求1の(3)の全部である7137円(請求に係る39日分)とこれに対する平成12年11月26日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の請求を認容すべきであり、〔4〕一審原告Cについてもその請求1の(4)の全部である9399円(請求に係る39日分)とこれに対する平成12年11月26日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の請求を認容すべきである。〔中略〕 ウ 「団体交渉申入書」(〈証拠略〉)及び「労働組合加入者通知および団体交渉申入書」(〈証拠略〉)によって一審原告組合が一審原告G、同A、同F、同Hの代理人としてチェック・オフ中止の申入れをなしたものとは認め難い。 〔年休-時季変更権-時季変更権〕 平成13年7月22日に一審原告Bから提出された7月28日から8月2日まで年次有給休暇を取得する旨の休暇届(〈証拠略〉)に対して、大橋営業所のN主席助役は、7月23日に同月28日の交番表を作成するに当たり、枠外の取得希望者のために交代要員の確保に努めたことが窺われるから(交番表の作成後にまで交代要員の確保に努めなければならないものではない。)、一審原告Bの上記主張は採用することができない。なお、平成13年7月28日及び29日の休暇枠それ自体が不当であるとの事実を認めるに足りる証拠はなく、また、本件訴訟前に一審被告が設定する休暇枠自体が問題とされたこともない。 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-服務規律違反〕 バスの運転手としては、歩行者が歩道と車道の境界線付近の歩道上に立っていた場合には、しかも、その者がバスに背を向けた(バスの進行方向と同じ方向を向いた)状態で立っていた場合には(〈証拠略〉)、その者がふいに車道上に出たりあるいはその身体の一部を車道上にはみ出させたりするかもしれないことを当然に予見すべきであり、そして、その予見に従って、警笛を鳴らしその者に注意を与えるかあるいは歩道から十分な間隔をとって走行するかするなどの措置を講じるべきであったのであるから、そうとすれば、たとえその歩行者にもふいにその頭部を車道上に傾けてこれをはみ出させた過失があったとしても、それをもってバス運転手たる一審原告Jに過失がなかったとはいえない。 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕 バスの運転手も接客を余儀なくされるのであり、そのためには乗客に良い印象を与えるべくマスクの着用を原則として禁止することは、不合理な措置とはいえず、そして、例外として、健康上の理由でやむを得ずマスクを着用する場合には、その着用の必要性を証明するための資料として診断書の提出を求めることも、診断書が一審被告において着用の必要性を判断するための最適の資料であり、そして着用の必要性について争いが生じないようにするためにも、不合理なものとはいえない。 したがって、診断書を提出しなかった一審原告A及び同Fに対してマスクを着用したままで運転業務に従事することを許可しなかった大橋営業所の点呼執行者等の行為は、不当に就労を拒否したことに当たるものでなければ、不法行為又は債務不履行を構成するものでもない。 また、一審原告Hは、かねてからアレルギー性鼻炎にかかっていたのであるが、大橋営業所の管理職に対して診断書を提示したものの、それを提出することを拒み、大橋営業所副所長がコピーを取ることも了承しなかったのであるから、そうとすれば、これも診断書の不提出と同視することができるものというべきであり、少なくともマスク着用の必要性を証明したものとはいえないというべきである。仮にこの点をしばらくおくとしても、〔中略〕大橋営業所副所長の行為をもって違法な権利侵害又は安全配慮義務違反ということはできないというべきである。 さらに、一審原告Jは、診断書を提示したが、この診断書にはマスクの着用が必要とされる期間が記載されておらず、単に「マスクの着用が望ましいと考える。」とのみ記載されていたのであるから(〈証拠略〉)、これをもってマスク着用の必要性が証明されたものとはいえず、仮にこの点をしばらくおき、少なくとも申出のあった当日のみはマスク着用の必要性があることが証明されたとしても、上記のとおり診断書には「マスクの着用が望ましいと考える。」とのみ記載されていたにすぎず、したがって、その必要性は低いものと考えられ、一審原告J自身もマスクを着用しないと運転ができなかったわけではなく、その後もマスクの着用を申し出たことはなく、マスクを着用しないままで運転していたのであるから〔中略〕、マスクを着用しないままで当日の運転を命じた大橋営業所の管理者の行為に不法行為又は債務不履行における違法性があったものということはできない。 〔労基法の基本原則-均等待遇-組合間差別〕 一審被告は、現在、一審原告組合から東山田営業所の一審原告D分会長宛てに送られた送付物について、同営業所内に分会の事務所がないことを理由に、郵便物については一審原告Dの自宅宛に転送する措置をとり、宅配物についてはこれを受け取らずに持ち帰らせる措置をとっているものと認められる。しかし、これらの措置は、一審原告組合の組合員数と東急バス労組の組合員数との差を考慮しても、東急バス労組に対する便宜供与と比べて余りにも乖離が大きいものであって、合理的な区別の域を超えているものといわざるを得ない。 〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額〕 点呼執行者である大橋営業所のZ助役は、制服に着替えて午前6時56分ころに点呼所に来た一審原告Hに対し、「乗務員交代ができる渋谷方向大橋バス停で交代する。予備乗務者と交代する時刻は後で言う。」旨を告げて、それまで控室にいるよう指示したことが認められる。〔中略〕たとえ一審原告HがZ助役のこの指示に従って控室で待機していたとしても、それをもって午前6時52分以降一審原告Hが一審被告の指揮監督下にあったものとみることはできない。なぜなら、バス運転手に内勤業務はなく、本来は予備乗務者と交代して実際に乗務を始める時刻までを「遅刻した時間」として取り扱うのが正当であり、本件で一審原告Hが実際に乗務を始めたのは午前7時30分と認められるからである。 |