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ID番号 : 08544
事件名 : 遺族給付等不支給決定処分取消請求事件
いわゆる事件名 : 中央労働基準監督署長事件
争点 : 勤務時間外の飲酒会後、帰宅途上に死亡したのは通勤災害であると訴えた事案(原告勝訴)
事案概要 : 会社の事務管理部次長が勤務時間外に社内事務室で定期的な飲酒会に参加後、帰宅途上で事故に遭い死亡したのは通勤災害であるとして、妻が行った療養給付等の請求に対し、不支給処分とした労基署長を相手取り、取消しを求めた事案である。
 東京地裁は、本件飲酒会合が業務の円滑な遂行を確保することを目的として行われたものであり、事務管理部次長がこれに出席したのは職務であったと認定し、飲酒量や風邪の罹患などは就業と帰宅との関連性を失わせるまでの要素ではないとして、本件を通勤災害と認定した。
参照法条 : 労働者災害補償保険法7条1項2号
労働者災害補償保険法7条2項
体系項目 : 労災補償・労災保険/業務上・外認定/会社行事(宴会、運動会、棟上げ式等)
労災補償・労災保険/通勤災害/通勤災害
裁判年月日 : 2007年3月28日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成17行(ウ)259
裁判結果 : 認容(控訴)
出典 : 時報1971号152頁/労働判例943号28頁/労経速報1971号17頁
審級関係 : 控訴審/東京高/平20. 6.25/平成19年(行コ)150号
評釈論文 : 塩崎勤・登記インターネット96号81~83頁2007年12月佐久間大輔・NBL863号4~6頁2007年8月15日
判決理由 : 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-会社行事(宴会、運動会、棟上げ式等)〕
〔労災補償・労災保険-通勤災害-通勤災害〕
 (1) 本件会合の業務性
 本件会合は、月一回開かれる主任会議の終了後、事務管理部の主催により、東京支店の五階及び六階で開催され、六階の本件会合には事務管理部の部員を中心に毎回七ないし八人が出席し、その費用は一般管理費会議費として乙山社が負担していたもので、そこで懇談される内容も、業務上の問題点、不平不満、トラブルの対応策、業務の改善案、他部門に対する苦言等業務に関するものであって、このようなことからすると、本件会合は、業務の円滑な遂行を確保することを目的とするものというべきであり、これが相応の成果を挙げていたことは、伝票の書き方等の業務処理について重複する業務が廃止されたり整理されたりしたほか、丙田課長が月初めの各営業所のエリアミーティングに出席するようになった経緯を明らかにして苦情を解消するなどしたことなどの例からも明らかである。また、本件会合が酒類の提供を伴うものであるとしても、それは、忌憚のない意見を交換するためであると解され、また、業務外の話題に及ぶことがあったとしても、それは短時間の私的会話の域を出ないものと解されるから、これらの事情が、上記目的の妨げとなるものではない。
 そして、亡太郎は事務管理部次長として事務管理部を実質上統括していたものであり、丙川部長から六階の本件会合で部員等から意見及び要望等を聴取して、これに対応することを命じられて毎回出席し、ほぼ開始時から終了時まで参加していたのであるから、一般には本件会合への参加が任意であるとしても、少なくとも亡太郎にとって、本件会合への出席は、これを主催する事務管理部の実質上の統括者としての職務に当たるというべきである。
 なお、東京支店の従業員の中には、本件会合を「ご苦労さん会」と称する者もいたことが認められるが、本件会合は酒類の提供を伴うものであって、慰労、懇親の趣旨も含まれていることは否定できないにしても、前述のような本件会合の趣旨に照らすと、これが主として懇親等のための会であるとはいえず、そのような呼称から直ちに本件会合への出席が業務に当たらないとすることはできない。
 また、本件会合への出席が労働時間に含まれていない場合があったとしても、亡太郎を含めて副長以上の職員に対しては、時間外手当が支給されず、また、その他の職員に関しても、当時の乙山社の取扱いでは三〇時間までの支給に制限されていたのであるから、そのまま申告する意義に乏しいものであった以上、そのようなことがあったからといって、これを理由に本件会合の業務性を否定することはできない。
 (2) 本件事故当日の本件会合への出席の業務性
 本件会合は、定期的に開催されているところ、これが業務としての性格を有するものと解されることは前記のとおりであって、本件事故当日に開催された本件会合においても、亡太郎は、本件配置換えについて部員に不満及び不安があったのに対し、本件配置換えが決まった経緯等について資料を使用して説明するなどして説得に努め、これについて一応納得させるなど、本件会合の趣旨に従った業務に当たっていたことが明らかである。
 ところで、亡太郎は、午後九時ころから居眠りをしているが、同人の飲酒量が、通常に比して多量であったとはいえないこと、当日は風邪をひいていたことや前日までの睡眠不足のため体調が不良であったことからすれば、午後一〇時一五分ころに帰途につくまでの間一時居眠りをしたとしても、それは、飲酒の影響を考慮しても、一時的な休息をとったものとの範囲を出るものではなく、社会通念上就業と帰宅との直接的関連を失わせると認められるほどのものとはいえない。
 また、亡太郎は、飲酒後帰途についているが、その飲酒量や、飲酒後の経過時間にかんがみ、また、当日は降雨があったため足元が滑りやすい状態であったことからすると、飲酒の影響で本件事故が生じたとまで認めることはできないから、本件事故が通勤に伴う危険により生じたものには当たらないということはできない。