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ID番号 : 08550
事件名 : 従業員地位確認等請求事件(981号)、地位確認請求事件(598号)、債務不存在確認等請求事件(1298号)
いわゆる事件名 : 第一交通事件
争点 : 解散後解雇されたタクシー会社の従業員が親会社と別子会社に対して地位と賃金を求めた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 : 法人解散を理由に解雇されたタクシー会社(子会社)の従業員らが、その親会社に対して地位保全及び賃金の支払を求め(第一事件)、また同地域の別のタクシー会社(別子会社)に対しても地位確認及び賃金の支払を求めた(第二事件)事案である。 大阪地裁堺支部は、親会社について、子会社の法人格の形骸化はないが、かなりの程度子会社を支配していたこと、労働組合の排斥を目的として子会社を解散させたものと認められるとして法人格の濫用を認め、子会社と同一の事業を別子会社が行っていることから、別子会社に対して労働契約上の地位の確認及び未払賃金の支払が求められるとした。 そのうえで、子会社が真実解散されたのではなく偽装解散の場合、親会社の偽装解散行為は不法行為に該当するとして、損害賠償責任を認めた。
参照法条 : 民法33条
会社法3条
民事訴訟法135条
民事訴訟法146条
労働基準法2章
体系項目 : 解雇(民事)/解雇事由/企業解散・事業の一部廃止・会社制度の変更
解雇(民事)/解雇権の濫用/解雇権の濫用
労基法の基本原則(民事)/使用者/法人格否認の法理と親子会社
裁判年月日 : 2006年5月31日
裁判所名 : 大阪地堺支
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成16(ワ)981、平成17(ワ)598、平成17(ワ)1298
裁判結果 : 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 : タイムズ1252号223頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔解雇(民事)-解雇事由-企業解散・事業の一部廃止・会社制度の変更〕
〔解雇(民事)-解雇権の濫用-解雇権の濫用〕
〔労基法の基本原則(民事)-使用者-法人格否認の法理と親子会社〕
 イ 法人格形骸化の場合について  そして、法人とは名ばかりであって子会社が親会社の営業の一部門にすぎないような場合、すなわち、株式の所有関係、役員派遣、営業財産の所有関係、専属的取引関係などを通じて親会社が子会社を支配し、両者間で業務や財産が混同され、その事業が実質上同一であると評価できる場合には、子会社の法人格は形骸化しているということができ、この場合における子会社の解散は、親会社の一営業部門の閉鎖にすぎないと認められる。  したがって、子会社の法人格が形骸化している場合、子会社の従業員は、解散を理由として解雇の意思表示を受けたとしても、これによって労働者としての地位を失うことはなく、直接親会社に対して、継続的、包括的な雇用契約上の権利を主張することができると解すべきである。  ウ 法人格濫用の場合について  (ア) また、子会社の法人格が形骸化しているとまではいえない場合であっても、親会社が、子会社の法人格を意のままに道具として支配し(支配の要件)、その支配力を利用することによって、子会社に存する労働組合を壊滅させる等の違法、不当な目的を達するため(目的の要件)、その手段として子会社を解散したなど、法人格が違法に濫用されたと認められる場合にも、子会社の従業員は、直接親会社に対して、雇用契約上の権利を主張することができるというべきである。〔中略〕  したがって、親会社が法人格を濫用して子会社を解散した後、自ら子会社と同一の事業を継続している場合には、親会社は、子会社の従業員に対し、将来に向けて継続的、包括的な雇用契約上の責任を負うというべきである。また、親会社が自ら同一の事業を継続せず、別会社に事業を行わせている場合であっても、新たな事業を行う別会社の法人格が形骸化して親会社の一営業部門にすぎないと評価できる場合であれば、親会社は、子会社の従業員に対し、継続的、包括的な雇用契約上の責任を負うと解される。  (エ) これに対し、新たな事業を行う別会社の法人格が形骸化しているとはいえない場合には、その責任は、新たに事業を行う別会社が負うと解すべきである。〔中略〕 被告第一交通は、佐野第一の全株式を保有しており、佐野第一の業務全般を一般的に支配しうる立場にあったこと、佐野第一のタクシー従業員の賃金体系や福利制度等の労働条件について、被告第一交通において決定し、これを被告第一交通が派遣した役員や管理職によって実現してきたこと、〔中略〕佐野第一の役員は、佐野第一の財務状況を具体的に把握していなかったこと、重要な資産に関する事項も被告第一交通において行われていたことなどの事情に照らせば、被告第一交通は、佐野第一をかなりの程度支配していたと認められる。  ウ しかし、佐野第一は、もともとは南海電鉄グループの会社であり、被告第一交通とは全く別個独立の法人であったこと、買収後も、佐野第一の財産と収支は、被告第一交通のそれとは区別して管理され、混同されることはなかったことなどの事情に照らすと、佐野第一に対する支配の程度は、佐野第一が被告第一交通の一営業部門とみられるような状態にあるとまでは認められず、佐野第一の法人格は形骸化していないというべきである。〔中略〕 被告第一交通は、泉州交通圏におけるタクシー事業を新賃金体系のもとで行っていくために、新賃金体系の導入に反対していた原告組合を排斥するという不当な目的を実現するため、佐野第一に対する支配力を利用して佐野第一を解散したものであると認められるから、佐野第一の解散は、被告第一交通が佐野第一の法人格を違法に濫用して行ったものであるというのが相当である。〔中略〕 佐野第一と同一の事業を被告御影第一泉南営業所が継続していることに加え、前記(3)イ認定のとおり、被告第一交通は、原告組合を排斥するという目的をもって、佐野第一を解散したことからすると、佐野第一の解散は偽装解散であると認められる。   (5) 雇用契約上の責任を負うべき主体について  ア 前記争いのない事実等記載のとおり、被告第一交通は、平成11年8月20日の買収以降、被告御影第一の全株式を保有しており、同日、被告第一交通の取締役であるB3らが被告御影第一の取締役として派遣されていた。そして、前記(2)認定のとおり、第一交通グループにおいては、子会社の経理業務、決算業務、経費や給与の計算及び支払手続などは、被告第一交通が、同社のコンピュータを使って統一的に処理しており、被告御影第一においても、同様に、被告第一交通において処理されていたものと認められる。加えて、前記1(4)イ認定のとおり、被告御影第一泉南営業所の事務所建築費用については、被告第一交通が負担していること等の事実を総合すると、被告第一交通は、佐野第一と同様、被告御影第一についてもかなりの程度支配していたと認められる。  しかしながら、被告御影第一についても、被告第一交通が買収する以前から被告第一交通とは別個独立の法人としてタクシー事業を営んでいたこと、被告御影第一の財産と収支は、被告第一交通の財産と収支と混同されることなく管理されていたことなどの事実に照らすと、被告御影第一の法人格が、形骸化しているとまでは認められない。  イ したがって、原告組合員らは、佐野第一と同一の事業を行っている被告御影第一に対して雇用契約が継続している旨を主張することができるが、被告第一交通に対しては、雇用契約上の責任を追及することはできない。〔中略〕  3 争点(2)(被告第一交通の不法行為責任の有無)について   (1) 親会社が、子会社に存する労働組合を消滅させる等の不当な目的を達するために、子会社に対する支配的な地位を利用してこれを解散し、子会社の従業員の雇用機会を喪失させたときには、その行為は不法行為に該当し、親会社は、子会社とともに、雇用機会喪失等によって子会社の従業員に生じた損害を賠償すべき責任を負うというのが相当である。   (2) 前記2認定のとおり、被告第一交通は、その支配する佐野第一及び被告御影第一の法人格を利用し、新賃金体系の導入を反対している原告組合を排斥するという不当な目的を実現するために、被告御影第一泉南営業所に佐野第一の事業と同一の事業を行わせる準備を整えた上で、佐野第一を偽装解散したものであるから、被告第一交通は、法人格を違法に濫用して、原告組合員らの雇用機会を失わしめたものであるというべきであり、不法行為に該当する。   (3) よって、被告第一交通は、不法行為に基づき、佐野第一の解散を理由とする本件解雇によって、原告らが被った損害について賠償する責任があるというべきである。