ID番号 | : | 08551 |
事件名 | : | 国家賠償請求控訴、同附帯控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 徳島市交通局長(バス乗務員業務転換等)事件 |
争点 | : | 地方公営企業のバス乗務員が命令違反による業務転換措置を不当として慰謝料の支払を求めた事案(労働者一部勝訴) |
事案概要 | : | 市営バスを経営する地方公営企業のバス乗務員(少数組合の委員長)に対する運行開始命令に違反したことを理由とする業務停止、訓告等を不当として、乗務員が国家賠償法に基づく慰謝料の支払を求めた控訴審である。 第一審徳島地裁は、同措置が不当労働行為に該当するとの主張については、乗務員が組合員であることを理由になされたものと認めるには足りないと退けつつ、会社は誤った事実認定又は少なくとも不確実な事実認定に基づいて不当な不利益を課したとして、請求を認容した。これに対し第二審高松高裁は、不当労働行為は第一審同様否定しながら、会社は誤った事実認定や不確実な事実認定に基づいて同措置を行ったものとはいえず、同措置には正当な理由があるとした上で、3か月にわたる同措置の継続を裁量権の逸脱ないしは濫用とはいえないとする一方、退院後も業務復帰させなかったことは降車事件の処分としては長期に過ぎ、著しく均衡を失したもので国家賠償法上違法であるとして、原判決を変更した。 |
参照法条 | : | 国家賠償法1条 労働基準法2章 労働組合法7条 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/業務命令拒否・違反 |
裁判年月日 | : | 2006年9月29日 |
裁判所名 | : | 高松高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成17(ネ)307、平成18(ネ)9 |
裁判結果 | : | 原判決変更、一部認容、一部棄却(上告、上告受理) |
出典 | : | 判例地方自治301号61頁 |
審級関係 | : | 一審/徳島地/平17. 8.29/平成16年(ワ)232号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕 3 本件取扱いについて (1) 前記1、2で認定した事実関係によれば、被控訴人は、出庫時刻を過ぎているとして即時に出庫するよう命じるZ2監督の命令に従わなかったばかりか、出庫時刻から5分くらい遅れて出発してもかまわないかのような言動をしたために、Z2監督から降車を命じられたものであり、市交通局は、本件降車事件において出庫時刻の遵守の重要性や運行管理者である監督の役割に対する認識と理解を欠いている被控訴人をバスの運転業務に従事させることはできないとの判断から、被控訴人に対し、乗務停止とした上、本件訓告及び本件業務転換を行ったものであると認められるから、本件取扱いには正当な根拠があるというべきである。 また、〔中略〕市交通局は、本件降車事件の経過等につき、関係者から事情聴取を行ったほか、平成15年11月26日の本件降車事件事情聴取において被控訴人及びZ2監督から事情を聴取するとともに、双方から弁明書(〔証拠略〕)や事実経過書(〔証拠略〕)を提出させるなどの調査を遂げた上で、被控訴人に対して翌27日からの乗務停止の措置を執り、本件訓告処分を行ったものと認められ、その決定の過程に違法又は不当な点は見当たらないというべきである。なお、平成15年11月27日及び28日の乗務員勤務表(〔証拠略〕)には最初被控訴人の名前が記載されていたものが、事後に被控訴人の名前が消されて交代の運転手の名前が記載されていることからすれば、市交通局において、被控訴人からの弁明書の提出を待たずに、Z2監督の言い分を全面的に取り入れて、当初から被控訴人に対して本件業務転換をする方針を固めていたとは認められない。 (2) 徳島市交通局組織規程(〔証拠略〕)には、技手(運転手)の事務分掌として、上司の命を受け、旅客自動車の運転業務及び補助的事務等に従事する旨定められており、前記1(6)で認定したとおり、停留所やバスの清掃作業、阿波踊り期間中の案内業務等には、他の職員とともに運転手らも一時的に従事することがあるほか、乗務停止となった運転手が停留所やバスの清掃作業、案内業務等の非乗務作業に従事してきていることが認められるのであって、本件で乗務停止となった被控訴人に対して上記のような非乗務作業を行わせること自体を不当ということはできない。 もっとも、被控訴人に対する本件業務転換は、平成15年11月27日から平成16年5月10日まで(同年2月28日から同年3月31日までの被控訴人の入院期間を除く。)133日間の長期に及ぶものであり、本件訓告処分と併せて、本件降車事件における被控訴人の行動の非違行為性の程度等と対比して、相当な処分といい得るかどうかについては、なお検討を要する。〔中略〕 以上のような本件訓告処分及び本件業務転換を受けた後の被控訴人の対応や非違行為により懲戒処分を受けた他の事例とのバランス、本件の経緯その他の諸般の事情にかんがみれば、市交通局が被控訴人に対する本件業務転換を3か月間にわたって継続した点については、本件降車事件に基づく被控訴人に対する処分として、市交通局が有する裁量権を逸脱しあるいは濫用したものとまでは断じ難いということができる。しかしながら、被控訴人が退院して職場に復帰した平成16年4月1日以降も本件業務転換をなお継続した点については、被控訴人から市交通局に対して、被控訴人につき、平成16年3月31日完治退院となり、就労可能である旨記載された同日付けの診断書(〔証拠略〕)が提出されていることにもかんがみれば、前記の諸事情を考慮してもなお、本件降車事件に対する処分としては長期間に過ぎて著しく均衡を失したものというべきであって、他にこれを正当化するに足りる事情は認められないから、本件取扱いのうち、平成16年4月1日から同年5月10日までの間の本件業務転換に係る部分については、国家賠償法上違法であると認めるのが相当である。 4 本件取扱いの不当労働行為性について 前記1で認定した事実関係及び前記2、3での検討結果によれば、被控訴人に対する本件取扱いは、正当な根拠に基づいて行われたものであるけれども、そのうち平成16年4月1日以降も本件業務転換を継続した点で違法とされるにとどまるものであるところ、これが被控訴人に対する精神的苦痛を与えるものであることはいうまでもない。そして、前記1の認定事実及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人の属する公営労組は、市交通局の政策に批判的な立場を取る少数派組合として、市交通局との間で団体交渉のルールや勤務条件等をめぐって意見の対立があり、一定の緊張関係が存していたこと、本件降車事件当時においては、その半月前に発生したZ7事件をめぐって市交通局と公営労組との間で緊張関係が高まっており、現に本件降車事件の4日後の11月25日にはZ7懲戒処分が行われたことが認められるけれども、前記のとおり、本件取扱いのうち、本件訓告処分及び平成16年2月27日までの間の本件業務転換については、正当な根拠に基づく相当な処分ということができるものであること、本件業務転換のうち違法とされる部分についても、退院直後の被控訴人の体調を慎重に見極めたいとの市交通局の意向が存していたものと窺われることにもかんがみれば、本件全証拠によっても、控訴人において、被控訴人が公営労組の組合員ないし委員長であることを嫌悪し、あるいは公営労組の弱体化を図ることを意図し、これを決定的動機として本件取扱いを行ったものとまでは認めることができないから、本件取扱いは不当労働行為に該当するものではないというべきである。 5 被控訴人の損害について 前記説示のとおり、本件取扱いのうち、平成16年4月1日から同年5月10日までの間の本件業務転換に係る部分については、国家賠償法上違法であり、これにより被控訴人がバス運転手としての自尊心を傷つけられ精神的苦痛を被ったものと認められるところ、本件取扱い自体は正当な根拠を有するものであったこと、本件訓告が事実上の懲戒処分で、人事記録には残らないものである上、本件業務転換によって被控訴人の報酬等が減額するようなことはなかったことなど本件において顕れた一切の事情を斟酌すれば、被控訴人が被った精神的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料の額は10万円が相当である。そして、本件事案の性質や内容、審理の経緯や経過、認容額その他諸般の事情に照らし、控訴人に対して請求することができる弁護士費用相当額は5万円と認めるのが相当である。 したがって、被控訴人の本件請求は、控訴人に対し、国家賠償法1条1項に基づき、合計15万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成16年6月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。 |