ID番号 | : | 08554 |
事件名 | : | 賃金等請求本訴事件(6761号)、損害賠償請求反訴事件(8847号) |
いわゆる事件名 | : | ネツトブレーン事件 |
争点 | : | コンピューター設計コンサルティング会社社員が退職金・未払給与等の支払を求めた事案(労働者一部勝訴) |
事案概要 | : | コンピューター設計コンサルティング等を行う会社社員が、経営状況が悪化する中で転籍を選んだ後断念して退職願を提出するに至った経緯の中、退職金、未払給与等の支払を求めた事案である。 東京地裁は、〔1〕退職金について、懲戒解雇の意思表示をした時点で既に労働者が退職していた場合、懲戒解雇が効力を生ずる余地はなく、懲戒解雇の場合は退職金を無支給とする旨の規定があったとしても支払義務を免れず、また「退職事由」は退職届に記載された文言のみで判断することは相当でないとし、さらに、不確定期限を付する旨の合意は、就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約であるといわざるをえず、労基法93条に違反し無効であるとして、社員の請求を認容した。〔2〕時間外割増賃金については、社員が管理監督者に当たると認めることはできないし、時間外割増賃金を支給しないこととする旨の合意は、労基法37条1項の基準に達していないものとして労基法13条により無効であるとして、請求を認容した。なお、会社の反訴は、理由がないとして棄却した。 |
参照法条 | : | 労働基準法93条 労働基準法41条2号 労働基準法37条1項 労働基準法13条 |
体系項目 | : | 年休(民事)/年休権の法的性質/年休権の法的性質 賃金(民事)/退職金/懲戒等の際の支給制限 退職/任意退職/任意退職 賃金(民事)/賞与・ボーナス・一時金/賞与請求権 賃金(民事)/割増賃金/支払い義務 労働時間(民事)/法内残業/割増手当 労働時間(民事)/裁量労働/裁量労働 |
裁判年月日 | : | 2006年12月8日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成17(ワ)6761、平成17(ワ)8847 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却(6761号)、棄却(8847号)(控訴) |
出典 | : | 労働判例941号77頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔年休(民事)-年休権の法的性質-年休権の法的性質〕 〔賃金(民事)-退職金-懲戒等の際の支給制限〕 〔退職-任意退職-任意退職〕 〔賃金(民事)-賞与・ボーナス・一時金-賞与請求権〕 〔賃金(民事)-割増賃金-支払い義務〕 〔労働時間(民事)-法内残業-割増手当〕 〔労働時間(民事)-裁量労働-裁量労働〕 (1) 平成16年12月分未払賃金〔中略〕 イ 有給休暇日数について まず,被告は,上記第2の1(7)記載の書面(甲A1)において,平成16年11月分の賃金を「精算」しているが,同書面の別紙2項によると,実労働日数を14日,有給休暇日数を11日として,これを被告において算出した平均賃金を乗じて計算していることが認められる。そして,同年12月分については実働日数なし,有給休暇日数を13日として計算していることが認められる。ところで,11月の実働日数14日と有給休暇日数11日を合わせると25日となり,これは同年11月の所定労働日数(20日)より5日多く,これは法定休日に有給休暇を充当したことになり,原告の主張するとおり許されないというべきである。 したがって,同年11月の所定労働日数を超える5日分の有給休暇は,当然12月に充当されなければならず,12月の有給休暇日数は,被告が同月の有給休暇日残数として扱った13日に5日を加えた18日となる(その結果,原告の退職日は,12月の所定労働日の18日目である12月27日となる。)。 ウ 平成16年12月分賃金の額について 12月の有給休暇日数を18日とした場合の,就業規則及び賃金規程による原告の平成16年12月分の給与は,原告の主張するとおりの計算方法により34万2000円となり,被告がこのうち9万2626円を支払ったことは当事者間に争いがないから〔中略〕,被告が支払うべき同月分の未払は,24万9374円である。〔中略〕 (2) 退職金清算金 被告が原告との間で,原告の退職金につき,平成16年7月23日付け書面にて確認したことは前記第2の1(6)記載のとおりであり,甲A第2号証によれば,同書面に記載された退職金清算基礎額は80万6700円であることが認められる。 この点に関し,被告は,取扱規程2条及び旧規程によれば懲戒解雇の場合は無支給とする旨の定めがあるところ,平成17年2月24日付けで平成16年11月30日に遡って懲戒解雇する旨の意思表示をしているから原告に対しては退職金を支払う義務はない旨主張する。しかし,過去に遡って懲戒解雇をすることは認められず,被告が懲戒解雇の意思表示をした時点では既に原告は退職していたのであるから,同懲戒解雇が効力を生ずる余地はない。また,このことは平成16年11月30日当時において被告が懲戒解雇事由を認識していたか否かで左右されるものではない。〔中略〕 (3) 平成16年夏季賞与 原告の平成16年夏季賞与の額が38万円であることは被告も認めるところである。なお,被告は,平成16年夏季賞与についても,上記(2)におけると同様の支払猶予の合意がある旨を主張するが,同主張に理由がないことは上記(2)に説示したとおりである。 したがって,被告は平成16年夏季賞与として38万円の支払義務を負う。 (4) 時間外割増賃金〔中略〕 原告の出退勤時刻については,別紙2記載のとおりと認めるのが相当であるが,出勤時刻から退勤時刻までの間の時間すべてを労働時間と認めてよいかについては疑問が残る。本来,時間外勤務については,当該時間ごとにどのような勤務をしたかについて原告が個別に主張立証すべきものであるところ,本件ではそれはなく,他方,出退勤時刻については明確になっており,出勤後退勤までの間は,基本的に労働していると認めるべきであることからすれば,少なくともそのうちの8割については実働時間とみてこれに基づく金額を被告が支払うべきものとするのが相当である。〔中略〕 さらに,被告は,原告との間で,平成14年度の給与について合意した書面(甲A4の2)により,役付手当の支給及び基本給の大幅な増額を条件として,時間外割増賃金等を支給しないこととすることが合意されている旨を主張する。同合意が有効とされるためには,労基法13条の「この法律に定める基準に達しない労働条件」に当たらないと認められなくてはならない。そこで検討するに,この点,原告は,同合意は労基法37条1項に違反し無効である旨主張するが,同合意が労基法37条1項に違反するか否かは,同項の趣旨に反する合意か否かを検討する必要がある。同書面によれば,原告が課長補佐に任用される以前の給与は基本給25万2100円,役付手当8000円,SE手当1万円の合計27万0100円であり,課長補佐に任用された平成14年4月以降の給与は基本給34万円,役付手当3万円,特別加算金(退職金相当額)1万円の合計38万円であったこと,平成14年4月以前の毎月の時間外手当の額は9万円を超えることはなかったことが認められ,時間外手当が支給されなくなったことによりこれまでの手取りを下回ることはなかったことが認められるから(〈人証略〉),被告の主張もそれなりに傾聴すべきものがないではないが,課長補佐に任用されたことにより権限及び責任も重くなることを考慮すると,上記差額の9万円が時間外手当分と重くなった権限及び責任の分をも含むものとは解されない。そうすると,被告が原告に提示した条件は労基法37条1項の定める基準に達していないものといわざるを得ず,これに対する合意は同法13条により無効であるといわざるを得ない。〔中略〕 また,被告は,平成15年3月以前の時間外割増賃金等については,労基法115条の定めるところにより,消滅時効が完成している旨主張するが,証拠(〈証拠略〉)によれば,原告は,平成14年4月分以降の未払時間外割増賃金等につき,平成17年2月22日,内容証明郵便にて支払うよう請求し,同書面は同月23日に被告に到達したことが認められるから,時効により消滅するのは,平成15年2月23日以前に発生した時間外割増賃金等に限られる。そして,被告においては,時間外割増賃金等の支払は,前月1日から前月末日までを翌月25日に支払うことになっているので(賃金規程8条2項(〈証拠略〉)),上記時効を考慮に入れても,被告は原告に対し,平成15年1月1日以降の時間外労働に対してその時間外割増賃金等を支払う義務がある。 |