ID番号 | : | 08557 |
事件名 | : | 損害賠償請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | ミヤショウプロダクツ事件 |
争点 | : | 社屋改装により化学物質過敏症に罹患した従業員が安全配慮義務違反による損害賠償を求めた事案(労働者敗訴) |
事案概要 | : | 日用品雑貨販売会社に勤務する従業員が、社屋の改装によって発生したホルムアルデヒドによる化学物質過敏症(シックハウス症候群)に罹患したとして、会社の安全配慮義務違反を理由に損害賠償を求めた控訴審である。 第一審大阪地裁は、従業員は社屋の改装に伴って発生したホルムアルデヒドによって化学物質過敏症に罹患したことを認定した上で、そのことを平成12年当時の段階で使用者が認識し、必要な措置を講じることは不可能又は著しく困難であったとして、請求を棄却した。これに対して第二審大阪高裁は、従業員以外に深刻な症状を呈する者はいなかったこと、ホルムアルデヒド濃度は一般労働者に症状が出るほどの曝露濃度ではなかったこと、シックハウス症候群自体が当時広く知られてはいなかったこと、などを付言して一審の判断を支持し、控訴を棄却した。 |
参照法条 | : | 民法415条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/安全配慮(保護)義務・使用者の責任 |
裁判年月日 | : | 2007年1月24日 |
裁判所名 | : | 大阪高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成18(ネ)1657 |
裁判結果 | : | 棄却(確定) |
出典 | : | 労働判例952号77頁 |
審級関係 | : | 一審/08478/大阪地/平18. 5.15/平成15年(ワ)3841号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約(民事)-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人 (1) 原判決を取り消す。 (2) 被控訴人は、控訴人に対し、1520万1648円及びこれに対する平成15年4月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3) 訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人の負担とする。 (4) 仮執行宣言 2 被控訴人 主文と同旨 第2 事案の概要 1 事案の要旨 本件は、被控訴人に勤務していた控訴人が、被控訴人の社屋で行われた改装工事で使用された内装材料からホルムアルデヒドが発生したために化学物質過敏症に罹患したとして、控訴人に対し、雇用契約に基づく安全配慮義務(従業員のためにホルムアルデヒドに対する対策をとるべき義務)違反に基づき控訴人が被った損害の賠償として1520万1648円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成15年4月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案である。 原審は、控訴人が、被控訴人の社屋で行われた改装工事に基因して化学物質過敏症に罹患したことは認めたが、被控訴人の安全配慮義務違反は認められないとして、控訴人の請求を棄却する判決をした。 これに対し、控訴人は、請求を認容することを求めて控訴した。 2 争いのない事実等並びに争点及び争点に対する当事者の主張 原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」のうち「1 争いのない事実等」、「2 争点」及び「3 争点に対する当事者の主張」と同じであるから、これを引用する。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 当裁判所が認定する事実は、次のとおり改めるほか、原判決の「事実及び理由」中の「第3 争点に対する判断」の「1 事実関係等について」と同じであるから、これを引用する。 7頁15行目の「帰社」を「退社」に改める。 2 争点についての判断 (1) 当裁判所も、控訴人が、被控訴人の新社屋移転を契機として、化学物質過敏症に罹患したものと認められるものの、この点について、被控訴人に控訴人に対する安全配慮義務違反は認められないものと判断する。 その理由は、次の(2)のとおり付加するほか、原判決の「事実及び理由」中の「第3 争点に対する判断」の「2 争点(1)(原告が化学物質過敏症に罹患したか否か)について」及び「3 争点(2)(被告の安全配慮義務違反)について」と同じであるから、これを引用する。 (2) 控訴人は、当審において、厚生省生活衛生局長が平成12年6月に各都道府県知事等に対し、ホルムアルデヒドの室内濃度指針値やその標準的測定方法の通達を出しているから、ホルムアルデヒドの危険性が客観的に明らかになっていたと言えること、被控訴人は、その営業上の理由から、化学物質の危険性を十分に認識していたこと、控訴人は、被控訴人に対し、新社屋移転後、Aに体調が悪いことを繰り返し訴え、またマスクを装着しながら仕事をしていたし、他の従業員にも新社屋の建材の臭いを指摘したり、体調の不良を訴えていた者がいたことを総合すれば、被控訴人は、控訴人が化学物質過敏症に罹患する危険性を十分認識できたのであり、F医師から新社屋の空気清浄の必要性の指摘を受けた後も、窓を開ける等の簡単な対策さえとらなかった被控訴人には、安全配慮義務違反が認められると主張する。 しかしながら、この点についての当裁判所の判断は、原判決説示と同じであるが、付言すれば、控訴人以外の従業員では、悪臭やのどの痛みを訴えた者が数人いたが、これらの者も暫くすると症状が軽快し、控訴人ほど深刻な症状を発症した者はいなかったこと(〈証拠・人証略〉)、被控訴人の新社屋におけるホルムアルデヒド濃度は、一般健康労働者にとっては症状が出るほどの曝露濃度ではなかったと認められること(〈証拠略〉)、控訴人の診断をした医師の中にもシックハウス症候群であると断定できないとする意見があって医師の間でもシックハウス症候群又は化学物質過敏症が広く知られていたとは認められないこと(〈証拠略〉)からすれば、被控訴人において、ホルムアルデヒドに対して対策をとるべき安全配慮義務に違反したとまで認めることはできない。 また、被控訴人において、控訴人の主張する窓を開ける等の換気によって、控訴人の症状がより軽度にとどまったことを認めるに足りる証拠はない。 3 結論 以上によれは 控訴人の被控訴人に対する本件請求は、理由がないから棄却すべきである。 これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとする。 |