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ID番号 : 08558
事件名 : 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 : 矢崎部品ほか一社事件
争点 : 発注先工場で手指を骨折した請負企業労働者が、発注先及び請負元承継会社を相手に賠償を求めた事案(労働者勝訴)
事案概要 : A社に雇用されてY1社の工場で自動車用電子部品の製造に従事していた日系ブラジル人労働者が、作業中に機械に手を挟まれ、後遺症を伴う手指骨折などの負傷を負ったとして、Y1及び事故後に同人に対するA社の雇用契約上の債務を承継したY2を相手取り、安全配慮義務違反を理由とする損害賠償を求めた事案である。 静岡地裁は、Y1に常駐するA社現場責任者がおらず、Y1で就労するA社従業員への指示もY1が行っていたこと、使用する機械も契約上はA社がY1から賃借したことになっているが、A社が独立してこれを占有・管理していたとはいい難いことなどに照らすと、A社は事業経営上及び労務管理上独立していたとはいえず、Y1は労働者との間で特別な社会的接触の関係にあり、労働者に対して安全配慮義務を負うとされた。その上で、Y1らは、事故原因となったボタンの押し間違いを防止するための措置、事故を防止するための安全教育の実施等に安全配慮義務違反があるとして、事故発生原因が労働者のボタンの押し間違いにあることを理由とした3割の過失相殺を認定した上で、労働者の請求を一部認容した。
参照法条 : 民法623条
民法415条
労働基準法2章
体系項目 : 労基法の基本原則(民事)/使用者/派遣先会社
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 : 2007年1月24日
裁判所名 : 静岡地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成16(ワ)932
裁判結果 : 一部認容、一部棄却(確定)
出典 : 労働判例939号50頁
審級関係 :
評釈論文 : 畑中祥子・労働法学研究会報59巻4号24~29頁2008年2月15日
判決理由 : 〔労基法の基本原則(民事)-使用者-派遣先会社〕
〔労働契約(民事)-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
1 争点(1)(被告矢崎の安全配慮義務の有無)について〔中略〕  これらの事実関係の下においては,人材開発センターが事業経営上及び労務管理上被告矢崎から独立していると見ることはできず,被告矢崎は,人材開発センターの従業員である原告との間に特別な社会的接触の関係に入ったものと認められ,信義則により,原告に対し安全配慮義務を負うというべきである。  2 争点(2)(安全配慮義務の内容と違反の有無)について〔中略〕   (2) 被告らは,本件機械を用いた作業による危険から作業員の身体の安全を保護するよう配慮すべき義務があり,具体的には,まず,縦3列,横4列に並んだ12個ものボタンの操作は,未熟練者には間違えやすいものであるといえるから,ボタン上にポルトガル語で分かりやすく各ボタンの説明をしたり,色分けをしたり,番号をふるなどの方法によって,ボタンの表示自体を分かりやすいものにするとともに,特に,シリンダー内に新たな樹脂を充填しながら排出される樹脂をボール缶で受ける際に誤って「型開ボタン」を押してしまうことのないようにするために,「型開ボタン」を「計量ボタン」「計量停止ボタン」「スクリュー後退ボタン」とは離れた位置に設けるなど,本件のようなボタンの押し間違いを防止すべき措置を講ずること,また,上型取付板と油圧シリンダーケース底部との間に手が入らないように安全カバーを設置するか,手など身体の一部が危険限界内にあるときには上型取付板が上昇するのを防止する安全装置を設けることにより,作業者が本件機械により危害をこうむることのないように配慮すべき義務を負う。さらに,本件機械を安全に扱うための安全教育として,本件機械の仕組みとその危険性を十分に理解させた上で,上型取付板と油圧シリンダーケース底部の間に手など身体の一部が挟まれないようにするため,ボタンを押して機械を作動させる際には手など身体の一部が機械の可動部分に接近しないようにすること,ボール缶は必ず上型取付板の窪みにあわせてセットし決して手で持たないこと,ボタンについては一つ一つ目視で確認しながら押さなければならず,決してよそ見をしながらボタンを押さないこと(射出シリンダー内は見ている必要はないこと)を教育すべき義務を負う。   (3) しかしながら,証拠(〈証拠略〉)及び弁論の全趣旨によれば,被告らは上記の各安全配慮義務を尽くしておらず,これらを怠った事実が認められる。〔中略〕  4 争点(4)(過失相殺)について 〔中略〕  そして,前記2のとおり,本件事故は,原告が本件機械を一人で使用するようになってから21日目に発生したものであり,原告はいまだ本件機械の操作に熟練していたとはいい難い上,本件機械を安全に扱うための十分な安全教育も受けていなかったものであるが,そうであるとしても,12個もあるボタンの中から当該作業に必要なボタンを選択しこれを押して操作するのであるから,ボタンの押し間違いには十分に注意して慎重に操作すべきは当然であり,また,ボタンを押して機械を作動させる際に手など身体の一部が機械の可動部分に接近しないようにすることも作業者の当然の注意義務というべきであるのに,原告はこれらの注意義務を怠ったと認められるから,本件賠償額の算定に当たっては,原告の上記過失を考慮して,原告の損害に3割の過失相殺をするのが相当である。〔中略〕  7 以上より,被告らは,原告に対し,安全配慮義務違反に基づく損害賠償として,本件事故と相当因果関係ある損害の額(合計916万7811円)から3割を控除した額である641万7467円からさらに原告が受領した休業補償給付金及び障害補償給付金の額(合計376万1402円)を控除した265万6065円と弁護士費用26万円の合計291万6065円につき,民法719条1項類推適用により連帯して賠償する責任を負うものと認められる。