ID番号 | : | 08561 |
事件名 | : | 労働契約上の地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 社会福祉法人仁風会事件 |
争点 | : | 老人ホーム調理部門の廃止を理由に解雇された2名の調理員が地位の確認・賃金の支払等を求めた事案(労働者一部勝訴) |
事案概要 | : | 特別養護老人ホームに調理員として勤務するX1、X2が、調理部門廃止を理由に解雇されたことについて、同ホームを運営する社会福祉法人に対して、解雇の無効、労働契約上の地位確認等を求めた事案である。 福岡地裁は、介護福祉士の資格を有するX2の解雇については、同人に配置転換の検討及び打診を行わなかったことがやむを得なかったとは到底認められず、解雇権を濫用したもので無効であるとした。また、他職種経験が乏しいX1の解雇では、介護保険法改正による減収予測を考慮しても経営が破綻すると予測されるような状況ではなかったことからすると、直ちに整理解雇する必要性があったといえるかどうかは疑問が残るといえ、他部門への配置転換にはある程度の困難が伴うものの、未だ経営危機に瀕していたとは認められない状況で行う解雇の場合にはより一層厳格な解雇回避努力義務を果たすべきで、十分な検討や協議を重ねることなく可能性がないと一方的に判断しただけでは解雇回避努力義務を尽くしたと認められず、組合との団体交渉でも2回目でいきなり解雇を言い渡すなど十分協議を尽くしたとは言い難いことから、解雇権の濫用に当たり無効であるとした。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 |
体系項目 | : | 解雇(民事)/解雇事由/企業解散・事業の一部廃止・会社制度の変更 |
裁判年月日 | : | 2007年2月28日 |
裁判所名 | : | 福岡地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成17(ワ)3359 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却(控訴) |
出典 | : | 労働判例938号27頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔解雇(民事)-解雇事由-企業解散・事業の一部廃止・会社制度の変更〕 2 争点(1)(本件解雇は有効か)について〔中略〕 (3) 解雇回避努力義務〔中略〕 そうだとすれば,被告としては,原告らの他部門への配置転換の可能性を十分に検討し,原告らと協議して配置転換の可能性を探ることが,解雇回避努力として要求されると解すべきである。 したがって,本件のように,配置転換の可能性の検討及び打診をしない場合には,検討及び打診をしなかったことについてやむを得ない事情がある場合は格別,かかる事情が認められない場合には,解雇回避努力義務を尽くしたとは評価できないというべきである。〔中略〕 (カ) 以上によれば,原告乙山については,被告が配置転換の検討及び打診を断念せざるを得ないほど調理員にこだわっていたとは認められず,職務遂行能力の点でも問題がないことからすれば,配置転換の検討及び打診を行わなかったことがやむを得なかったとは到底認められず,被告は,解雇回避努力義務を怠ったものといわざるを得ない。 また,原告甲野については,職務遂行能力の点から配置転換にはやや困難を伴うことが予想されるものの,前記のとおり,被告の解雇回避努力義務を厳格に考える以上,被告としては,やはり,配置転換の検討を重ね,原告甲野と配置転換について十分協議した上ではじめて配置転換の可能性があるかどうかを判断すべきであったというべきであり,本件のように,十分な検討や協議を重ねることなく,配置転換の可能性がないと安易に一方的に判断したというだけでは,配置転換の打診をしなかったことがやむを得なかったとはいえず,解雇回避努力義務を尽くしたとは評価できないというべきである。 (4) 選定基準の合理性 前記認定のとおり,被告は平成17年の介護保険法改正により,食事提供収入が年間1398万3840円の減収となるとの試算から,調理部門の支出削減を測り,そのため,調理部門を廃止して,調理部門の正規職員だった原告らを解雇したものであり,当時,被告の調理部門の正規職員は,原告らしかいなかったのであるから,原告らを解雇対象者に選定したことは,一応合理性があったといえる。 (5) 解雇手続の妥当性〔中略〕 しかしながら,前記認定のとおり,被告は,原告らへの個別説明及び第1回目の団体交渉において,C社への転籍を一方的に勧めるのみで,それ以外の配置転換等の途についての協議もせず,原告らが同転籍を受け入れなければ直ちに解雇するというような告知もしていないのに,原告らが同転籍の提案を受け入れないと分かるや,第2回目の団体交渉において,最初からいきなり本件解雇を言い渡し,雇用継続に向けた話し合いの余地や,原告らが転籍や退職金による解決を再度考慮する余地を封じてしまったことが認められ,かかる被告の対応にかんがみれば,被告は,原告らとの間で,十分協議を尽くしたとは認められない。 (6) 以上を総合考慮すると,原告乙山に対する解雇については,前記のとおり,被告は,到底解雇回避努力義務を尽くしたとは認められないから,原告乙山に対する本件解雇は,「法人の運営上又は業務上やむを得ない事由がある」(就業規則15条4項)場合とはいえず,合理的な理由を欠き,社会通念上相当として是認することができず,解雇権の濫用であり,無効であるといわなければならない。 原告甲野に対する解雇については,前記のとおり,整理解雇の必要性に疑問がある上に,解雇回避努力義務を尽くしたとまでは認められないこと,解雇手続の協議も十分とはいえないことを総合考慮すれば,「法人の運営上又は業務上やむを得ない事由がある」(就業規則15条4項)場合とはいえず,合理的な理由を欠き,社会通念上相当として是認することができず,解雇権の濫用であり,無効であるといわなければならない。 (7) なお,原告らは,平成17年10月分の賃金の遅延損害金として,平成17年11月15日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求めているが,前記争いのない事実等記載のとおり,原告らの賃金支払日は毎月15日であることからすると,賃金支払債務が遅滞に陥った日は平成17年11月16日であるから,同日以降の遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。 3 争点(2)(不法行為の成否)について 原告らの解雇は,前記のとおり無効であるといわなければならないが,原告らの本件解雇が有効であるか否かは,前記4要件を総合考慮して決定される微妙な判断であり,被告は,これらの要件をいずれか満たさないことを認識した上で原告らを解雇したといった事情を認めるに足りる証拠はないのであるから,被告が,原告らを解雇したことが直ちに違法性を帯び,不法行為が成立するということはできない。 よって,原告らの被告に対する不法行為に基づく慰謝料請求は認められない。 |