ID番号 | : | 08565 |
事件名 | : | 時間外手当等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | セントラル・パーク事件 |
争点 | : | ホテルのレストラン元料理長が、勤務時に支払われるべき時間外割増賃金の支払等を求めた事案(労働者一部勝訴) |
事案概要 | : | ホテルのレストランに勤務していた元料理長が、勤務時に支払われるべき時間外割増賃金及び付加金の支払等を求めた事案である。 岡山地裁は、元料理長が管理監督者であったとの会社の主張について、出退勤時間を自ら決定し、料理人のシフトを作成し、料理人の募集や採用の手続を行い、従業員の中では最高額の賃金を得ていたとしても、実際には出退勤に厳格な規制を受けず自己の勤務時間に自由裁量を有していたとまではいえず、また、採用や解雇に最終決定権限はなく労務管理において経営者と一体の立場であったともいえないことから、管理監督者に該当しないとして斥けた。そして、〔1〕法定労働時間内の労働についての賃金が所定の賃金に含まれていると解することは不合理といえないとして、1日6時間45分を超えて8時間に達するまでの労働についての未払賃金の請求を棄却し、〔2〕法定時間外労働には通常の賃金に労基法37条所定の割増額を加えた額の請求が可能であるとして、シフト表に記載された限度で法定時間外労働を認め、時効で消滅した部分を除き割増賃金及び付加金の請求を認容した。 |
参照法条 | : | 労働基準法41条2号 労働基準法32条 労働基準法37条 |
体系項目 | : | 労働時間(民事)/裁量労働/裁量労働 労働時間(民事)/変形労働時間/一カ月以内の変形労働時間 賃金(民事)/割増賃金/割増賃金の算定方法 労働時間(民事)/労働時間の通算/労働時間の通算 雑則(民事)/付加金/付加金 |
裁判年月日 | : | 2007年3月27日 |
裁判所名 | : | 岡山地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成17(ワ)822 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却(確定) |
出典 | : | 労働判例941号23頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 浅野高宏・季刊労働法220号189~208頁2008年3月 |
判決理由 | : | 〔労働時間(民事)-裁量労働-裁量労働〕 〔労働時間(民事)-変形労働時間-一カ月以内の変形労働時間〕 〔賃金(民事)-割増賃金-割増賃金の算定方法〕 〔労働時間(民事)-労働時間の通算-労働時間の通算〕 〔雑則(民事)-付加金-付加金〕 一 原告の管理監督者該当性について 〔中略〕 (一) 料理長である原告の作成したシフト表に基づき他の料理人は勤務し,原告は,その勤務時間割もシフト表によって自ら決定していたし,自己の出退勤時間や休日について,上位者である乙山社長や乙山専務に対し,逐一報告や了承をとっていなかったことは,上記認定のとおりである。 しかし,原告は他の料理人と同様の勤務時間帯に沿ってシフト表に自らを組み込み,他の料理人と同様に,ホテルレストラン及びテラッセにおいて料理の準備,調理,盛り付けといった仕事を行っていたのであって,原告を含む5人の料理人がそれぞれ月5日以上の休日を取っているため,4人の料理人でホテルレストランとテラッセの調理を担当する日も多く,原告がシフト表を作成するからといって,自己についてのみ,自由に出退勤時間を決めたり,その都合を優先して休日をとったりすることが実際には困難であったことは容易に推認できる。 なお,証拠(〈証拠略〉,証人乙山)によれば,被告は,かつてタイムカードによって従業員の出退勤時刻の把握をしていたにもかかわらず,平成 13年10月に岡山労働基準監督署から法定労働時間外労働に対する労基法37条所定の割増賃金の不払等について是正勧告を受けた後間もなく,タイムカードの使用を廃止し,その後は,本件請求期間に係る時期を含め,出勤した従業員に出勤簿に押印させるのみとして,従業員の出勤時刻はもちろん,退勤時刻についても,被告においてこれを客観的に記録,把握する仕組みを何ら設けていないことが認められるが,これは,原告のみならず,他の料理人や他の被告の従業員についても同様の扱いであったのであるから,被告において原告の勤務時間を客観的に把握する状況になかったからといって,その状況をもって,原告について出退勤に厳格な規制がないと評価することはできないことはいうまでもない。 以上によれば,原告について,出退勤について厳格な規制を受けずに自己の勤務時間について自由裁量を有しているとまでは,本件全証拠によっても認め難い。 〔中略〕 4 したがって,原告が労基法41条2号の管理監督者であるから時間外手当を請求できる地位にない旨の被告の主張には理由がない。 二 原告が請求できる未払賃金の額について 〔中略〕 (三) 証拠(〈証拠略〉)によれば,被告に勤務する料理人については,原告が毎月20日頃に,21日から翌月20日までのシフト表(勤務割表)を作成して被告の厨房の出入口に掲示するなどしてこれを告知していたことが認められ,原告は,就業規則18条2項所定の勤務時間帯によるのではなく,ホテルレストラン及びテラッセの営業時間に合わせて,各料理人の勤務時間割(始業時刻と終業時刻)を定めてシフト表を作成していたこと,主に,7時から15時まで,10時から21時30分まで,10時から20時30分まで,10時から18時までという種類の勤務時間帯を組み合わせて各料理人の勤務時間割を決定していた〔中略〕。しかし,証拠(〈証拠略〉,原告)によれば,そのシフト表には,休憩時間については,その確保されるべき総時間はもちろん,休憩時間の開始・終了時刻の記載もされていなかったことが認められる。 (四) 労基法32条の2所定の変形労働時間制が適用されるためには,単位期間内の各週,各日の所定労働時間を就業規則等において特定する必要があることは上記のとおりであるところ,日々の休憩時間の特定がなければ,単位期間内の各週,各日の所定労働時間も特定しないことは明らかであるから,就業規則自体だけでなく,シフト表をも考慮したとしても,被告においては,就業規則その他これに準ずるものにより各週,各日の所定労働時間の特定がされているとは認め難い。 (五) 以上によれば,原告について変形労働時間制を適用することはできないというほかなく,原告については,労基法32条の労働時間の規制が適用されることになる。 2 所定労働時間外法定労働時間内の労働に基づく賃金請求について (一) 原告は,原告と被告との間には1日の所定労働時間6時間45分を超え1日の法定労働時間8時間に達するまでの労働については通常の賃金を支払うとの合意があったと主張する。 (二) しかしながら,原告主張の上記合意があったと認めるに足る証拠はなく,かえって,証拠(〈証拠略〉,原告)によれば,原告は,被告に採用された当時から,1日の所定労働時間は8時間であると考えていたこと,その考えに基づきシフト表も作成していたこと,原告が被告を退職した後に時間外手当の請求をした際も1日8時間労働で休憩時間は1時間という前提で当該手当の計算をしていることが認められる。これらの事実や,既に認定した原告の給与面での待遇を考慮すれば,法定労働時間内の労働についての賃金は所定の給与に含まれていると解することが不合理であるともいえないことに照らすと,本件全証拠によっても,原告と被告との間で1日6時間45分を超えて8時間までの労働について通常の賃金を支払うとの合意があったとは認めることができないというほかない。 (三) したがって,原告の本件請求のうち,1日6時間45分を超えて8時間に達するまでの労働についての未払賃金の請求はその余の点を判断するまでもなく理由がない。 3 法定労働時間外の労働の有無について 〔中略〕 (8) したがって,シフト表(甲1)によって認定される,原告の主張の範囲内での,原告の労働時間に係る事実は,別紙2「時間外労働一覧表(認定)」の始業時刻,終業時刻,休憩時間,総労働時間,法定労働時間外労働時間の各欄記載のとおりであって,本件請求期間における原告の1日の法定労働時間外の労働時間の合計は263時間の限度で認められ,深夜勤務はこれを認めることができない。 (四) 以上によれば,原告が被告に対して請求する,労基法37条に基づく,1日の法定労働時間外の労働に基づく賃金請求権は,次の計算式のとおり,合計67万2951円が発生したことになる。 2047円(1時間当たりの通常の賃金の額)×1.25×263時間=67万2951円〔中略〕 4 消滅時効の成否について 〔中略〕 (三) 以上によれば,本件請求期間に係る原告の被告に対する1日の法定労働時間外の労働に基づく賃金請求権のうち,平成15年8月25日に支払われるべき平成15年7月21日から同年8月20日までの法定労働時間外の労働(33時間)についての賃金請求権は,被告の援用した消滅時効により消滅したと認められる。 5 まとめ したがって,原告が,被告に対して,労基法37条に基づき,本件請求期間の1日の法定労働時間外の労働について請求できる賃金は,平成15年8 月21日以降の1日の法定労働時間外の労働時間の合計(230時間)について生じた,次の計算式によって得られる58万8512円となる。 2047円(1時間当たりの通常の賃金額)×1.25×230時間=58万8512円(1円未満切り捨て)となる。 三 付加金の請求について 〔中略〕 4 したがって,本件では,被告に対し,原告の本件請求期間の法定労働時間外労働についての未払賃金と同額の58万8512円の付加金の支払を命ずることが相当である。 |