ID番号 | : | 08569 |
事件名 | : | 地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 松下プラズマディスプレイ(パスコ)事件 |
争点 | : | 電気機器製造会社の下請会社労働者が、発注会社に対して地位確認・賃金等を求めた事案(労働者勝訴) |
事案概要 | : | 電気機器製造会社の工場において、業務請負の形式を取りつつ、実際には電気機器製造会社が下請会社の労働者に対して直接指揮命令を行うという違法状態にあった後、短期雇用契約が結ばれ、雇止めされた事案において、労働者が、電気機器製造会社に対して雇用契約上の地位の確認等を求めた事案である。 大阪地裁は、まず、労働者と電気機器製造会社との間に指揮命令関係があっても、賃金支払関係がない場合は両者の間に雇用契約関係は成立せず、労働者・電気機器製造会社間に黙示の雇用契約は成立しないとした。次に、労派遣法上の直接雇用についても、実際に契約の申込みがなかったとして労働者に雇用契約上の権利がないとした。さらに、契約期間を6か月とする直接雇用を申し入れ契約を締結した場合には、指揮命令に関する違法状態は一応解消しており、電気機器製造会社は期間の定めのない契約の申込みをする必要まではないとして雇止めの効力を肯定した。ただし、慰謝料については、直接雇用契約締結までの経緯に照らすと、同契約で命じた業務内容はXに大きな精神的苦痛を与えるもので、電気機器製造会社もそのことを認識できたとして不法行為責任を認め、これの支払いを命じた。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 民法709条 労働者派遣事業の適正運営確保及び派遣労働者の就業条件整備法2章 労働者派遣事業の適正運営確保及び派遣労働者の就業条件整備法3章 |
体系項目 | : | 労基法の基本原則(民事)/労働者/委任・請負と労働契約 労基法の基本原則(民事)/労働者/派遣労働者・社外工 労基法の基本原則(民事)/使用者/派遣先会社 |
裁判年月日 | : | 2007年4月26日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成17(ワ)11134 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部却下、一部棄却(控訴) |
出典 | : | 労働判例941号5頁 労経速報1980号3頁 |
審級関係 | : | 控訴審/08643/大阪高/平20. 4.25/平成19年(ネ)1661号 |
評釈論文 | : | 萬井隆令・労働法律旬報1665号55~64頁2008年2月10日 本庄淳志・季刊労働法220号176~188頁2008年3月 石井妙子・経営法曹156号21~35頁2008年3月 道幸哲也・法学セミナー53巻5号125頁2008年5月 道幸哲也・法律時報80巻6号114~117頁2008年6月 川口美貴・季刊労働者の権利275号39~54頁2008年7月 富永晃一・日本労働法学会誌111号159~167頁2008年5月 |
判決理由 | : | 〔労基法の基本原則(民事)-労働者-委任・請負と労働契約〕 〔労基法の基本原則(民事)-労働者-派遣労働者・社外工〕 〔労基法の基本原則(民事)-使用者-派遣先会社〕 2 雇用契約の成否及びその内容 (1) 黙示の雇用契約(本件雇用契約1)の成否〔中略〕 たしかに,金銭の流れは,請負契約(その実質は派遣契約)に基づき,被告からパスコに対して代金が支払われ,さらにパスコから原告に対して賃金が支払われており,その関係からすると,上記請負代金額が,パスコと原告との間の賃金額の決定に与える影響は大きいということがいえる。 しかし,そのことから,原告と被告との関係を雇用契約関係ということはできず,派遣先と派遣労働者の関係にあるという上記認定を何ら左右するものではない。 また,原告が本件工場において働き始めた平成16年1月ころ,未だ,製造業に対する労働者派遣事業が解禁されていなかったが,そのことによって,被告とパスコが違法な派遣契約を締結していたということがいえたとしても,上記認定を左右するものではない。 以上のとおり,本件雇用契約1の成立を認めることはできない。 (2) 労働者派遣法に基づく雇用契約(本件雇用契約2)の成否〔中略〕 しかし,原告の労務の提供を受け続けるといっても,平成17年3月1日以降も,同年7月20日まで,原告は,パスコから賃金の支給を受けていたわけであり,実質的な労働者派遣が1年を超えて継続していることになるだけで,雇用契約の申込と同視することはできない(仮に,そのような状態の継続が違法であったとしても,直接雇用に転化することがないことは前記(1)と同様である。)。 以上のとおり,本件雇用契約2の成立を認めることはできない。 (3) 本件雇用契約3における期間の定めの有無,効力〔中略〕 しかし,本件において,期間の定めについて,異議を留めた上で,契約を締結したからといって,被告において,期間の定めのない契約を締結するつもりが全くなかったにもかかわらず(〈証拠・人証略〉,弁論の全趣旨),本件雇用契約3が,期間の定めのない契約として締結されることはないというべきである。〔中略〕 仮に,原告の主張する違法な状態があり,その指摘を受けたことが,被告が原告に対し本件雇用契約3を申し込んだ動機であったとしても,指摘された違法な状態自体は,被告が原告に対し,直接雇用契約の申込みをすることにより一応解消したというべきであり(後述する理由により,本件雇用契約3に違法な状態が生じうることは別である。),それ以上に,期間の定めのない契約の申込みをする必要まではないというべきである。〔中略〕 被告が,本件雇用契約3の契約期間の満了をもって,雇用契約が終了する旨通告したことが認められるが〔中略〕,これは,雇止めを通告したものであって,解雇の意思表示であると認めることはできない。 (2) 雇止めの成否 ア 雇止めにおける解雇権濫用の法理の類推等について 期間の定めのある雇用契約において,同雇用契約が反復更新され,更新の際の態様などから,実質的に期間の定めのない契約と異ならない場合や,雇用継続に対する労働者の期待利益に合理性がある場合は,解雇権濫用法理が類推され,解雇権濫用,信義則違反または不当労働行為として雇用契約の解雇が許されないような事実関係の下に,雇止めが許されない場合がある。〔中略〕 そうすると,被告において,原告に対し,本件雇用契約3が原則として更新され,同契約による雇用関係が継続されると期待させるような行為をとったとはいえず,原告もそのような認識を有していたとはいえない。 ウ 本件に特有の事情と雇止めの可否〔中略〕 しかし,前述したとおり,仮に,原告が主張するように,被告において,労働者派遣法違反を犯しており,これを指摘され,やむなく直接雇用せざるを得なくなったとしても,だからといって,それ以上に,期間の定めのない契約を締結する義務までが発生するわけではなく,また,期間の定めのある契約を締結した後,契約期間が満了した際,契約を更新する義務があるというわけでもない。 なお,当該雇用契約の期間中の業務内容やその他の処遇に関して,原告の指摘するような問題があったとしても,これらの点は,後記慰謝料請求のところで,考慮するのが相当である。 (3) まとめ 以上によると,原告と被告との間に,本件雇用契約3が締結されたが,同契約期間(平成18年1月31日まで)の満了をもって,原告と被告との間の雇用契約関係は終了したということができる。〔中略〕 6 不法行為の成否その1〔中略〕 したがって,被告の違法な解雇を理由とする不法行為が成立する余地はないというべきである。〔中略〕 7 不法行為の成否その2〔中略〕 しかし,同じく後述するように,本件雇用契約3の締結に至る経緯に照らすと,本件雇用契約3において命じられた業務内容は,不法行為の成立を認めざるを得ないと考える。〔中略〕 以上によると,前記(3)で述べたとおり,リペア作業の必要性を否定することができないとしても,その必要性の程度が高いものであったとはいえず,また,あえて原告に担当させる必然性もなかったということができる。そして,被告が,原告に対し,他の従業員との接触を長期間にわたり制限することとなるリペア作業を命じることは,本件雇用契約3の締結に至る経緯を前提とする限り,原告に対し,精神的苦痛を与えるものであり,被告としては,そのことを十分に認識することができたと考えられる。 また,上記精神的苦痛の程度は大きいと認められる。 |