ID番号 | : | 08571 |
事件名 | : | 地位確認等請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 新国立劇場運営財団事件 |
争点 | : | 劇場を管理運営する法人に対しオペラ歌手が出演契約上の地位保全と賃金支払を求めた事案(原告敗訴) |
事案概要 | : | 劇場施設を管理運営する法人とオペラ歌手との間で結ばれ、毎年更新されてきた1年単位の出演基本契約が更新されないのは、労働契約の一方的な解約であり認められないとして、オペラ歌手が労働契約上の地位確認及び賃金の支払を求めた控訴審である。 第一審東京地裁は、本件契約は労働契約ではないとして請求を棄却、オペラ歌手が控訴した。これに対し第二審東京高裁は、契約メンバー出演基本契約は、オペラ公演に優先的に出演申込みをすることを予告するとともに、契約メンバーとの間で個別公演出演契約が締結される場合に備えて、各個別出演契約に共通する報酬の内容、額、支払方法などをあらかじめ定めておくことを目的とするものであって、個別の出演申込みに対して、契約メンバーは最終的に諾否の自由を有していたというにとどまり、契約メンバー出演基本契約を締結しただけではオペラ歌手はオペラ出演の義務を負わず、したがって、報酬請求権も生じないことから、労基法、労組法が適用される前提となる労働契約関係が成立しているとはいえないとして、原審を維持し、控訴を棄却した。 |
参照法条 | : | 労働基準法9条 労働組合法7条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事)/成立/成立 労基法の基本原則(民事)/労働者/オペラ歌手 |
裁判年月日 | : | 2007年5月16日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成18(ネ)2490 |
裁判結果 | : | 棄却(上告、上告受理申立) |
出典 | : | タイムズ1253号173頁 労働判例944号52頁 |
審級関係 | : | 一審/08467/東京地/平18. 3.30/平成17年(ワ)4266号 |
評釈論文 | : | 小俣勝治・労働法律旬報1663・1664号63~71頁2008年1月25日 |
判決理由 | : | 〔労働契約(民事)-成立-成立〕 〔労基法の基本原則(民事)-労働者-オペラ歌手〕 契約メンバー出演基本契約は,契約メンバーに対して,今後被控訴人から出演公演一覧のオペラ公演に優先的に出演申込みをすることを予告するとともに(これに対し,登録メンバーは,契約メンバーではまかなえないときに出演契約の申込みがされる。),契約メンバーとの間で個別公演出演契約が締結される場合に備えて,各個別出演契約に共通する,報酬の内容,額,支払方法等をあらかじめ定めておくことを目的とするものであると解される(継続的に売買取引をする場合において,売買の基本となる支払条件等をあらかじめ定めておく「基本契約」のようなものと理解される。)。もちろん,契約メンバー出演基本契約を締結するに当たって,被控訴人は,契約メンバーが出演公演一覧のオペラに出演することを当然期待していたということができる(それ故あらかじめ出演を予定する公演やそのスケジュールを示し,これらすべてに出演可能なことという条件を示して契約メンバーを公募していた。)し,契約メンバーも,それらに出演する心づもりで契約メンバーになるのが通常であると推認されるが,上記契約の定め方や実態等に照らすと,それはあくまで事実上のものにとどまり,被控訴人からの個別の出演申込みに対して,契約メンバーは最終的に諾否の自由を有していたというべきである(そのため,契約メンバーだけでは合唱団の人員が足りなくなることも想定して,登録メンバー制度も設けられていた〔中略〕)。なお,確かに,出産,育児以外の理由による個別出演契約辞退者の数はそれほど多くないが,被控訴人の主催するオペラ公演は我が国における最高水準のオペラ公演であり,その合唱団に参加することは,本来,プロの声楽家にとって極めて意義があることであるから,ソロ活動等自分のキャリアにとってより意義のある活動が予定されている場合以外は参加したいと思うのが普通であること(公知の事実)を考えると,個別出演契約を辞退した者の数がそれほど多くないという事実は,上記認定判断を左右するものではない。 そして,被控訴人からの個別の出演申込みを承諾して個別公演出演契約を締結して初めて,特定の公演に参加したり,それに必要な稽古に参加する義務が生じ,また,逆に報酬を請求する権利が発生するものというべきである。 このように,契約メンバー出演基本契約を締結しただけでは,控訴人は未だ被控訴人に対して出演公演一覧のオペラに出演する義務を負うものではなく,また,オペラ出演の報酬を請求する具体的な権利も生じないものであるから,その余の点を判断するまでもなく,本件で控訴人と被控訴人との間に労働基準法,労働組合法が適用される前提となる労働契約関係が成立しているといえないことは明らかである。 したがって,控訴人の労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める請求は理由がないし,また,賃金の支払を求める請求も理由がない。 |