ID番号 | : | 08578 |
事件名 | : | 賃金等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 山本デザイン事務所事件 |
争点 | : | コピーライターが時間外・休日・深夜労働をしたとして、会社に対し割増賃金の支払を求めた事案(労働者一部勝訴) |
事案概要 | : | デザイン事務所は、広告・印刷物に関する企画・制作及び販売を業とする有限会社であり、コピーライターとして勤務していた者が解雇されたため、デザイン事務所に対し時間外労働等の割増賃金の支払を求めた事案である。 東京地裁は、〔1〕給与には割増賃金が含まれているというデザイン事務所の主張に対し、コピーライターの給与明細には割増賃金が支給されている旨の記載がなく、通常の賃金と割増賃金とを区別できないから基本給の中に含まれていたとはいえないし、また、基本給を基本給・時間外手当・深夜手当などに分けて支給したと考えても、実質的に基本給を減額することになり、このことにコピーライターの同意があったとは認められず、これにより割増賃金を支払ったと認めることもできないとした。また、〔2〕タイムカードへの手書記載は出退勤の実態をほぼ正確に反映したものであること、〔3〕勤務時間は18時30分までの8時間30分労働であること、〔4〕コピーライターという職業の勤務実態に照らすと、作業の合間に生じる空き時間は、広告代理店の指示があれば直ちに作業に従事しなければならない時間であり、デザイン事務所の指揮監督下にあると認めるのが相当であり労働時間に当たるとした上で、コピーライターの請求を認容した。 |
参照法条 | : | 労働基準法32条 労働基準法37条 労働基準法114条 |
体系項目 | : | 賃金(民事)/割増賃金/割増賃金の算定方法 労働時間(民事)/労働時間の概念/手待時間・不活動時間 労働時間(民事)/労働時間の概念/タイムカードと始終業時刻 雑則(民事)/付加金/付加金 |
裁判年月日 | : | 2007年6月15日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成17(ワ)21343 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却(確定) |
出典 | : | 労働判例944号42頁 労経速報1982号17頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔賃金(民事)-割増賃金-割増賃金の算定方法〕 〔労働時間(民事)-労働時間の概念-手待時間・不活動時間〕 〔労働時間(民事)-労働時間の概念-タイムカードと始終業時刻〕 〔雑則(民事)-付加金-付加金〕 1 月額の所定賃金に時間外,休日及び深夜の割増賃金が含まれていたか否か 〔中略〕 (1)平成17年1月まで 平成17年1月までは給与明細書上は基本給とされているだけで,月額の所定賃金のほかに時間外,休日及び深夜の割増賃金が支給されている旨の記載がないことについては争いがないところ,毎月一定時間分の時間外勤務手当を定額で支給する場合には,割増率が所定のものであるか否かを判断し得ることが必要であり,そのためには通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外,休日及び深夜の割増賃金に当たる部分とが判別し得ることが必要であると解されるから(最高裁平成6年6月13日判決(判例時報1502号149頁),同昭和63年7月14日判決(労働判例523号6頁)参照),被告のような支給の仕方では不十分であり,上記基本給の中にこれら割増賃金が含まれていたと認めることはできない。 被告代表者は,基本給の中に割増賃金を含めて支給することについて原告を含むすべての従業員の同意を得たと供述するが(同人の尋問調書5頁),同供述は,客観的な裏付けが全くないばかりでなく,基本給の中に月40時間分の時間外勤務手当及び40時間分の深夜勤務手当が含まれていたとする被告の主張とも必ずしも一致しないのであって(代表者の上記供述は,基本給の中に一切の時間外勤務手当及び深夜勤務手当が含まれていたとするものとしか解されない。),信憑性を認めることはできず,採用することができない。 〔中略〕 (2)平成17年2月以降について 上記(1)の判断を前提とすると,41万0000円の基本給を基準として,月40時間分の時間外割増賃金として業務手当11万6500円,月40時間分の深夜割増賃金として深夜手当2万3300円を支給するという方法は,通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別し得るから,時間外及び深夜の割増賃金の支給の一方法として許される。ただ,本件においては,平成17年1月時点での原告の基本給は55万0000円であったから,これを基本給41万0000円,調整手当200円,業務手当11万6500円,深夜手当2万3300円に,それぞれ分けて支給することとすることは,基本給を減額することを意味し,原告にとっては不利益処分となるから,このことについて原告の同意が必要とされるところ,原告の同意を得ていないことは被告の自認するところであり,証拠によっても原告が同意した事実を認めることはできない。 したがって,原告に対する関係では,平成17年2月以降についても上記の月額55万0000円に時間外,休日及び深夜の割増賃金が含まれていたと認めることはできない。 2 原告の勤務時間について (1)タイムカードの記載の正確性について 〔中略〕 原告の供述に沿う記載がみられることに照らすと,信用に値すると思われるのに対し,被告は何ら具体的な反証をしない。そもそも,使用者には労働者の勤務時間を把握する義務があり,タイムカードに手書きの記載があるのに何ら是正を求めることなく放置してきたことに照らすと,被告は同記載を事実として受け入れてきたと推認されるのであって,このことと前記原告本人尋問の結果とを併せて考えると,原告の供述どおりタイムカードの記載は原告の出退勤の実態をほぼ正確に反映したものと認めるのが相当である。 (3)原告の勤務実態について 〔中略〕 イ 以上を総合すると,作業の合間に生ずる空き時間は,広告代理店の指示があれば直ちに作業に従事しなければならない時間であると認められ,広告代理店の指示に従うことは被告の業務命令でもあると解されるから,その間は被告の指揮監督下にあると認めるのが相当であり,労働時間に含まれると認められる。 6 付加金について 上記認定にかかる原告の時間外勤務の実態に加え,証拠により認められる,同実態について原告をはじめとする従業員から被告に対して時間外勤務手当の支給及び人員不足の改善についての申入れがされていたにもかかわらず,ごく少額の休日手当等を支払ったことがあるだけで,被告がそのいずれにも応じてこなかったこと(甲13(1ないし5),14,原告本人尋問調書34頁),他方,労働基準監督署の是正勧告を受けた後は時間外勤務についての届出をするとともに(上記4),時間外勤務手当の支給についての是正が図られるに至ったこと(上記1(2))等の事情に照らすと,労基法114条に基づく付加金として,500万円の支払を命ずるのが相当である。 |