全 情 報

ID番号 : 08581
事件名 : 損害賠償請求控訴(2100号)、同附帯控訴事件(4794号)
いわゆる事件名 : 昭和シェル石油(賃金差別)事件
争点 : 石油会社の女性職員が定年退職後に在職中賃金差別を受けたとして損害賠償を求めた事案(労働者勝訴)
事案概要 : 石油会社に採用され、合併に伴って新会社に移籍した職員が、定年退職した後に在職中賃金について女性であることを理由に差別を受けたとして、不法行為に基づく損害賠償を求めた控訴審である。 第一審東京地裁は、職員が女性であることを理由に賃金について差別的取扱いを行っていたとして損害賠償を命じ、職員が控訴した(新会社も附帯控訴)。これに対し第二審東京高裁は、まず、均等法(平成9年法律92号改正前)8条は努力義務規定であるが、不法行為の成否についての違法性の判断基準とすべき雇用関係についての私法秩序には同条の趣旨も含まれるとした。 そして、〔1〕合併前企業においてランク格付けや本給額に著しい男女格差が存し、合併後企業においても同様の格差が存する場合、当該格差が生じたことにつき合理的な理由が認められない限り旧会社における男女格差と同質のもの、性の違いによるものと推認されること、〔2〕合併に際して旧会社の行った格付けをそのまま採用して職員を低い職務資格等級に移行させたことは労基法4条に違反すること等から、改めて不法行為の成立を認めた。
参照法条 : 日本国憲法14条
労働基準法4条
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律8条
民法709条
民法724条
体系項目 : 労基法の基本原則(民事)/男女同一賃金、同一労働同一賃金/男女同一賃金、同一労働同一賃金
労基法の基本原則(民事)/均等待遇/男女別コ-ス制・配置・昇格等差別
裁判年月日 : 2007年6月28日
裁判所名 : 東京高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成15(ネ)2100、平成18(ネ)4794
裁判結果 : 一部認容(原判決一部変更)、一部棄却(上告、上告受理申立て)
出典 : 時報1981号101頁
労働判例946号76頁
審級関係 : 一審/08108/東京地/平15. 1.29/平成6年(ワ)4336号
評釈論文 :
判決理由 : 〔労基法の基本原則(民事)-男女同一賃金、同一労働同一賃金-男女同一賃金、同一労働同一賃金〕
〔労基法の基本原則(民事)-均等待遇-男女別コ-ス制・配置・昇格等差別〕
四 格差の合理的理由の存否、不法行為の成否について   (1) はじめに  被控訴人と同学歴(高卒)・同年齢の男性社員との間で、昭和石油当時、ランクの格付け、定期昇給額及びこれらを反映した本給額において著しい格差が存し、合併後も職能資格等級及びこれを反映した本給額等において著しい格差が存したこと、昭和石油及び控訴人において、女性社員と男性社員との間で、昭和石油におけるランクの格付け・同一ランクにおける定期昇給額・同一年齢における本給額において著しい格差が存し、合併時の職能資格等級の格付け及び控訴人における職能資格等級やその昇格、定昇評価ひいてはこれらを反映した本給額において著しい格差が存していた〔中略〕。このような場合、被控訴人について、男性社員との間に格差を生じたことにつき合理的な理由が認められない限り、その格差は、男女間において存した上記格差と同質のものと推認され、また、この男女間格差を生じたことについて合理的な理由が認められない限り、その格差は性の違いによるものと推認するのが相当である。〔中略〕 g まとめ    (a) 労働基準法四条は、「使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的な取扱いをしてはならない。」と定めている。昭和石油とシェル石油の合併に伴い、昭和石油における職能資格制度であるランク制度におけるランク付けを控訴人の職能資格等級に移行する際の取扱いも、職能資格等級が賃金管理を行う基準であり、賃金表も職能資格等級別に作成されているのであるから、賃金についての取扱いに該当するところ、前記のとおり、昭和石油とシェル石油の合併に伴い、昭和石油におけるランクから控訴人における職能資格等級に移行するにあたり、何ら合理的な理由なく、男女間で著しい取扱いの相違があったものであり、移行に当たって昭和石油の行った被控訴人の控訴人における職能資格等級G3への格付け、これをそのまま採用し、その後も後記のとおり昭和六一年一月にG2に昇格させたのみでその状態を退職まで維持した控訴人の措置は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしたものと認められ、これにより被控訴人は、合併前D2ランクであった男性と同じ職能資格等級G1に格付けされないのみか、昭和石油では一ランク下のD3ランクの男性全員よりも低いG3に格付けられる損害を受けた。昭和石油及び控訴人の行為は故意による不法行為に該当する。〔中略〕 しかし、均等法八条が「努めなければならない。」と努力義務を定めているのは、まさに事業者に努力する義務を法律上課しているのであって、「労働者の配置及び昇進について、女子労働者に対して男子労働者と均等な取扱いをする」という法の定めた実現されるべき目標が、法律施行後に達成されていなくても、同法に違反するとして、行政上の規制や罰則の対象となるものはなく、民事上もそのことのみで、債務不履行や不法行為を構成するものではないが、他方、法が、事業者に同条の目標を達成するように努めるべきものと定めた趣旨を満たしていない状況にあれば、労働大臣あるいはその委任を受けた婦人少年室長が同法の施行に関し必要があると認めて事業者に対し、報告を求め、又は助言、指導もしくは勧告をすることができる(同法三三条)という行政的措置をとることができるのであり、単なる訓示規定ではなく、実効性のある規定であることは均等法自体が予定しているのであり、上記目標を達成するための努力をなんら行わず、均等な取扱いが行われていない実態を積極的に維持すること、あるいは、配置及び昇進についての男女差別を更に拡大するような措置をとることは、同条の趣旨に反するものであり、被控訴人主張の不法行為の成否についての違法性判断の基準とすべき雇用関係についての私法秩序には、上記のような同条の趣旨も含まれるというべきである。    (c) 前記のような滞留年数表の存在、前記一(1)ウ(ア)に認定した職務資格等級に関する状況によれば、控訴人は、原判決別紙四記載のような職能資格等級の決定基準や昇格評価基準を公表していたものの、実際の運用においては、合併以降少なくとも平成五年まで、滞留年数表と同旨の基準、即ち、男性社員は学歴別年功制度を基本に置き、一定年齢以上はこれに職能を加味し、昇格の時期に幅を持たせて学歴が高卒の者の場合G1までは年功に重きを置き、標準的な者でS2まで、優秀な者は少なくともM4A以上までの昇格を予定する昇格管理を行う一方、高卒女性社員については、高卒男性とは別の昇格基準、即ちG3までは男性と同じく年功で昇格するが、G2以上への昇格には同学歴男性より長い年限を必要とし、一定の等級(S2)以上への昇格を想定しないものを設けて昇格管理を行っていたとみることができる。  このような取扱いは、まさしく、労働者の昇進について、女子労働者に対して男子労働者と均等な取扱いをしないことを積極的に維持していたということができる。〔中略〕  被控訴人は、会社から知らされていた事実は、「新会社における人事諸制度の概要及び労働諸条件等について」と題する書面(甲一三一)や自分のランク(細分されたランクを除く。)程度であったが、昭和二六年三月二〇日昭和石油にアルバイトとして勤務し始め、同年八月一日に正式に採用され、その後継続的に職場で労務を提供し続けてきたのであるから、その間、後輩男性の発言、総務部長などの上司との面接、「資料と報告」と題する冊子などから、上記認定のような会社内に男女間格差が存在し、自己が不利益を受けていることを認識していたと認めるのが相当であり、当裁判所が不法行為の成立を肯定した昭和六〇年一月一日以降の時点においても、賃金等の支払を受けるたびに、損害及び加害者を認識していたものと推認される。その当時、「資料と報告」に記載されていることを超えて、他の従業員の格付け、賃金等を正確に把握することはできなかったが、そのことから損害の発生を認識していなかったということにはならない。  控訴人が当審の第一回口頭弁論期日(平成一五年八月五日)において消滅時効を援用したことは顕著であるから、本訴が提起された平成六年三月八日から遡って三年より前の不法行為による損害賠償請求権については、時効により、消滅したこととなる。