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ID番号 : 08582
事件名 : 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 : 北川建設・南野興業事件
争点 : 除草作業中飛んできた異物により左眼を失明した作業員が、損害賠償を求めた事案(原告勝訴)
事案概要 : 国の委託を受けて多摩川沿いの堤防の除草作業に従事中、刈払機により飛んできた石様の異物を左眼に受けて失明したアルバイト作業員が、派遣先の下請会社1及び元請会社2を相手取り、債務不履行、不法行為による損害賠償を求めた事案である。 横浜地裁は、国から本件作業を請負った元請会社2は、これを下請会社1に下請けさせ、下請会社1は複数の人材派遣業者から作業員の派遣を受けて作業に当たらせていたのであり、下請会社・元請会社はいずれも、刈払機が石等の異物を飛散させて生ずる事故の危険性を作業員に周知徹底し、ゴーグルの着用等を遵守させてその安全に配慮すべき義務を負っており、また、作業員を指揮監督すべき下請会社・元請会社の従業員にも同様の注意義務があった。しかしながら、下請会社・元請会社が対応したとする新規入場者教育や安全管理ミーティング等は開催実態も確認できないような状態であり、ゴーグルについても、購入はしたものの内部が曇って視界を阻害しかえって危険を招くことがあるとして、使用についての判断を各派遣元リーダーに委ねていたということで、下請会社・元請会社には安全配慮義務違反があり、損害賠償責任があるとした。
参照法条 : 民法415条
民法623条
民法709条
民法715条
労働基準法2章
体系項目 : 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/安全配慮(保護)義務・使用者の責任
労基法の基本原則(民事)/労働者/委任・請負と労働契約
裁判年月日 : 2007年6月28日
裁判所名 : 横浜地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成17(ワ)3588
裁判結果 : 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 : タイムズ1262号263頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔労働契約(民事)-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
〔労基法の基本原則(民事)-労働者-委任・請負と労働契約〕
 2 被告らの責任について   (1) 上記認定によれば、国から本件作業を請け負った被告北川は、これを被告南野に下請けさせ、被告南野は、東山土木を含む複数の人材派遣業者から作業員の派遣を受けて、同作業に当たらせていたものであり、被告らは共同して当該作業員らを指揮監督していたものであるから、被告らは、いずれも原告ら作業員に対し、刈払機が石等の異物を飛散させて生ずる事故の危険性を周知徹底した上、ゴーグルの着用、刈払機による作業場所付近への立入禁止、付近に人がいる際の刈払機の使用禁止等を遵守させて、その安全に配慮すべき義務を負っており、また、作業員を指揮監督していた被告らの従業員には、同様の措置をとるべき注意義務があったものというべきであって、これについては被告らも争わないところである。  そして、被告らは、上記安全配慮義務及び注意義務(以下、併せて「本件義務」という。)を十分に尽くしていたと主張し、前記認定によれば、被告らは、新規入場者教育、安全管理ミーティング及び安全巡視の実施、安全衛生協議会の開催や安全教育・訓練の実施等によるほか、派遣元業者に提供し得るようにゴーグルなどの保護具を購入するなどして、安全管理を行う態勢を整えていたものというべきである。〔中略〕  そして、前記認定によれば、作業員の人数は全体でも高々30名程度であり、各派遣元毎に作業班を組ませていたのであるから、各派遣元毎に当日の作業に従事する作業員の名簿を作成させ、これに基づいて新規入場者の有無を点検し、作業開始前に集合した作業員を点呼するなり、「安全KYミーティング記録」の参加者氏名欄への署名と照合するなりすれば、被告らが新規入場者の有無を把握することに何ら困難はなかったものというべきである。  したがって、被告らは、作業員らに新規入場者教育を行うための手段を尽くしていたものということはできない。〔中略〕  そうすると、被告らは安全管理ミーティングを行う態勢をとっていたものではあるが、これが、毎朝、全作業員を対象として必ず行われていたものとまでいうことはできない。〔中略〕   (4) さらに、ゴーグルの着用については、前記認定によれば、被告らは、作業員らに支給するためにゴーグルを購入し、これを各派遣元に提供し得る態勢を整えていたものの、内部が曇って視界を阻害し、かえって危険を招くことがあるとして、その着用について、各派遣元のリーダーらの判断に委ねていたものであるから、作業員らにゴーグルの着用を励行させるべき本件義務を尽くしていたものということはできない。〔中略〕   (5) 前記認定によれば、原告は、刈払機の刃で足を切るおそれがあるから刈払機による作業場所には近付かないようにと注意されたのみで、本件作業に伴う事故の危険性については何ら教示されず、ゴーグルの着用や刈払機による作業場所との間に確保しておくべき距離などについて何ら指示を受けないまま本件作業に従事していたものというべきであるところ、安全確保のために注意すべきこれらの点については、被告らが新規入場者教育や安全管理ミーティングなどの機会に周知徹底すべきものであったのに、上記説示のとおり、被告らは、その周知徹底を怠っていたというべきであるから、被告ら及び被告ら従業員には本件義務違反があるものといわざるを得ない。  よって、被告らは原告に対し、安全配慮義務違反又は不法行為(使用者責任)に基づいて、後記認定の原告の損害につき賠償すべき責任を負うというべきである。   (6) なお、被告らは、本件作業のために原告を被告らに派遣した東山土木の責任について縷々主張するが、東山土木の責任の有無に拘わらず、被告らが責任を負うべきことは上記説示のとおりであるから、東山土木の責任に関する被告らの主張については判断するまでもなく理由がないというべきである。