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ID番号 : 08583
事件名 : 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 : アデコ事件
争点 : カード会社等に派遣され、約1年後に雇止めされた派遣社員が派遣会社に地位確認等を求めた事案(労働者敗訴)
事案概要 : 派遣会社に採用されカード会社等に派遣されてテレマーケティングスタッフのマネジメント業務に従事した後、約1年後に雇止めされた派遣社員が、派遣会社を相手取り雇用契約上の地位確認等を求めた事案である。 大阪地裁は、派遣会社と労働者との間に締結された契約は期間の定めのある雇用契約として更新されてきたものであり、本件契約が期間の定めのない労働契約と同視することはできないのみならず、平成17年10月以降の雇用継続に対する派遣社員の期待利益に合理性があるとは認められないとし、また、雇止めについても有効と判断した。さらに、派遣先でストレスを感じた苦痛への慰謝料請求については、派遣先で被った精神的苦痛は、主として未経験の業務をうまく遂行できなかったことによるものであり、派遣会社が虚偽の記載をした経歴書を派遣先に示したために高い業務遂行能力を要求されたことによるものではないとして、本件精神的負荷ないしストレスと虚偽記載との因果関係は認めず、したがって、損害賠償請求も理由がないとして棄却した。
参照法条 : 労働基準法2章
体系項目 : 解雇(民事)/短期労働契約の更新拒否(雇止め)/短期労働契約の更新拒否(雇止め)
労基法の基本原則(民事)/労働者/派遣労働者・社外工
配転・出向・転籍・派遣/派遣/派遣
裁判年月日 : 2007年6月29日
裁判所名 : 大阪地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18(ワ)1272
裁判結果 : 棄却(控訴後和解)
出典 : 労働判例962号70頁
労経速報1983号3頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔解雇(民事)-短期労働契約の更新拒否(雇止め)-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
〔労基法の基本原則(民事)-労働者-派遣労働者・社外工〕
〔配転・出向・転籍・派遣-派遣-派遣〕
前記認定のとおり,原告は,面接の際,期間の定めのある契約社員として雇用される旨の説明をC課長から受けた後,平成14年12月18日,原告と被告間の雇用契約書(甲4の1)を作成し,同契約書中には,契約期間について「2003年1月1日より2003年12月31日までとする。」旨の一義的で明確な記載がある。また,原告は,上記雇用契約書を作成した後も,契約期間の定めの記載がある甲4号証の2ないし8(甲4の1を含め,いずれも成立に争いはない。)に署名・押印しているのであるから,原告と被告間の雇用契約は,期間の定めのあるものと認められる。 〔中略〕 本件では,原告と被告間の雇用契約書の期間の定めと異なる合意をしたと認めるべき特段の事情は証拠上認められない。  結局,前記認定のとおり,原告と被告間の雇用契約は,当初,期間の定めのある契約社員としての雇用契約を締結する前の段階の準備的・暫定的な雇用関係(アルバイト)として,これよりも広く解約権を留保した雇用契約関係を設定する旨の合意が成立し,その後,甲4号証各枝番のとおりの期間の定めのある雇用契約が成立したものと認められる。   (2) 争点(2)について 〔中略〕 原告と被告は,平成17年8月31日,両者間の雇用契約関係について話し合いの機会を持ち,その際,被告から原告に対して雇用継続の話題も出されたものの,担当業務についての条件が折り合わず,結局,同日中には雇用契約更新の合意に至らなかったのであり,かかる認定を覆すに足る証拠はなく,他に,原告主張の事実を認めるに足る証拠はない。   (3) 争点(3)について    ア 解雇の効力について  本件契約は,期間の定めのない契約とはいえず,雇用契約終了の原因も契約期間満了によるものであって,解雇によるものではない。  したがって,その余の点について判断するまでもなく,解雇無効の点に関する原告の主張は理由がない。    イ 雇止めの効力について 〔中略〕 <1>原告と被告間の雇用につき,甲4号証の1ないし8のとおり,契約期間満了に際して契約書が作成されていること,<2>bカードでのSV業務終了を告げる際,原告は,自分でも就職先を見つける努力をして欲しい,新しい就職先が見つからない場合,契約期間を短縮することになるかも知れない旨伝えられていたこと,<3>その後,原告は,被告に対し,本件虚偽記載をめぐって明確な不信感を表明して非難をし,今日に至っていること,<4>原告は,病気休暇をとるなどして約2か月間休んだりしたこと,<5>原告は,平成15年11月ころに被告と話し合いの機会をもったものの,本件虚偽記載をめぐって被告を非難し,担当業務についてSV業務に就きたい旨の希望を表明しても,その希望が直ちに受け入れられないとされる状況にあったこと,<6>被告は,原告の就労先であった神戸事務所の閉鎖に伴い,平成17年3月末をもって原告との雇用契約を終了しようとしたところ,原告が労働基準監督署へ和解の申し立てをする等し,同監督署の指導がされた結果,原告と被告との間で,更新条件につき平成17年9月末を最終とする旨の記載のある雇用契約を締結していること,以上の事情を総合勘案すると,本件契約が期間の定めのない労働契約と同視することはできないのみならず,平成17年10月以降の雇用継続に対する原告の期待利益に合理性があるとは認められない。 〔中略〕 本件では,本件契約が期間の定めのない雇用と異ならない状態であったか,雇用継続に対する原告の期待利益に合理性は認められないのであるが,仮にこれを肯定したとしても,〔中略〕<1>ないし<6>記載の事情のほか,原告は,bカードでのSV業務を上手く遂行することができずに同所での就労を終えたこと,被告は,トラブルを回避して穏便に進めようと判断したことや原告が労災保険申請をしたこともあって,原告と被告間の雇用契約が更新されていたこと,原告の雇止めは平成17年9月末日に原告の勤務先であった梅田キャリアセンターが閉鎖されることに伴うものであること,以上の事情を総合勘案すると,本件契約の雇止めについて,解雇であれば解雇権濫用にあたるような事由も認められない。 〔中略〕  ア 解雇ないし雇止めに関する損害賠償請求について  本件契約は期間満了により終了しており,原告の労働契約上の権利を有する地位はないのであるから,これがあることを前提とする〔中略〕解雇ないし雇止めに関する損害賠償請求は理由がない。 〔中略〕  前記認定のとおり,原告は,bカードにおけるSV業務を上手く遂行することができなかったものであり,これに伴うストレスないし精神的負荷を負ったことが認められる。〔中略〕 原告が実質的なアウトバウンド業務に従事し,ひどく難渋していたような事情は認められず,アウトバウンド業務に関して原告が負荷を感ずることがあったとしても,社会通念上,受忍限度内のことと解するのが相当である。 〔中略〕 これらは,旧知の同僚等のいない,かつ,新しい体制を構築しようとする職場において,未経験の者が新しい職場にて就業する場合(このような場合は,社会生活の中ではしばしば見受けられることである。)にしばしば経験することであって,原告の負った負荷ないしストレスが,社会通念上受忍すべき範囲を超えるものと認められない。また,原告の負った負荷ないしストレスは,本件虚偽記載の存否に関わるものというよりも,SV経験のないことや,原告自身の管理監督職への適格性・OJTによる業務吸収能力・対人関係処理能力などの要因により,SV業務を円滑にこなすことができなかった結果によるものと解される。 〔中略〕 そもそも,原告は,SVや管理職の経験がないにもかかわらず,管理職を募集していると考えてSV業務に応募したものであり,その後も研修を通じて,SV業務が如何なる業務かについてある程度理解し,あるいは概略的なイメージを持つことができた(なお,現実に就労しなければ分からないことまで事前に理解する必要はない。)にも関わらず,自己がSV業務の経験がないことを理解しながら,事前に他の業務に就くことを申し出ることもせずに,自ら希望してbカードの SV業務についたものである。  そして,SVないし管理職経験のない者が自らこれらの職業を選択し,相当大きな苦労をしながらも,これをこなしていくことも正常な社会生活上の営みといえるところ,そのような選択をした者が経験不足等により相応の負荷を負担することも相当といえ,社会通念上相当と認められる範囲を逸脱するような特段の事情のない限り,業務遂行に伴う負荷ないしストレスについても受忍すべきである。このことは原告についても妥当するのであって,本件記録上,原告の負った負荷が社会生活上相当と認められる範囲を逸脱するものと認めるに足る証拠はない。