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ID番号 : 08588
事件名 : 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 : 宇宙航空研究開発機構事件
争点 : 研究開発事業を営む独立行政法人の定年退職者が再雇用を前提とした地位確認等を求めた事案(労働者敗訴)
事案概要 : 宇宙航空分野における研究開発事業を営む独立行政法人を定年退職した従業員が、「再雇用規則」(平成15年10月1日制定)による再雇用を前提とした労働契約上の地位確認及び賃金支払等を求めた事案である。 東京地裁は、定年退職後、特別の欠格事由のない限り、本人が希望すれば従前と同一の条件を持って再雇用するという労働慣行が成立していたといえるかどうかについて、法人においては、定年退職者は、特別の欠格事由がない限り本人が希望すれば従前と同一の条件をもって再雇用するとの労働慣行が成立していたとは認められず、Xの再雇用拒否に裁量権の逸脱、濫用があったとは認められないとして、従業員の請求を棄却した。
参照法条 : 労働基準法2章
体系項目 : 退職/定年・再雇用/定年・再雇用
裁判年月日 : 2007年8月8日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18(ワ)12334
裁判結果 : 棄却(控訴)
出典 : 労働判例952号90頁
労経速報1982号25頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔退職-定年・再雇用-定年・再雇用〕
(7) 原告に対する再雇用拒否  被告は,平成16年度(平成17年3月末)の再雇用に当たり,定年退職者26名中再雇用を希望する者が16名いるところ,そのうち原告については定年退職前直近5年間の人事考課において総合評価Eが3回以上あることから,再雇用規則にいう「(1) 従前の勤務実績が良好な者」の要件を満たさない者と判断し,平成17年2月,原告を再雇用しない旨決定した。これに基づき,被告人事部長であった訴外Aは,平成17年2月28日,原告に対し,定年退職後の再雇用をしない旨通告した(乙3,証人Aの供述)。  2 特別の欠格事由がない限り,再雇用する旨の労働慣行の存否   (1) 以上認定の事実によれば,被告において,本件再雇用拒否当時において,定年退職後,特別の欠格事由のない限り,本人が希望すれば従前と同一の条件を持って再雇用するという原告所論の労働慣行が成立していたことを認めるに足りる証拠がない。被告における再雇用の実績が前記認定のとおりであるし,本件再雇用制度の趣旨から言っても,独立行政法人に移行した被告の置かれている立場から言っても,希望者全員を従前と同一の条件で再雇用する意思を予め一般的に表示しているとは考え難いところである。   (2) したがって,原告の「被告は,将来定年に達する労働者に対して,特段の欠格事由のない限り再雇用する旨,予め一般的に申込みの黙示の意思表示をしていた。」旨の主張には理由がない。現に前記のとおり,被告は,原告に対し,本件再雇用拒否のとおり,その再雇用を拒否する旨の明示の意思表示をしているものであり,原・被告間に再雇用契約が成立している旨の原告の主張は,その前提を欠いて失当である。   (3) よって,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。  3 本件再雇用拒否の当否   (1) 前記認定の事実に照らして鑑みるに,原告が執着していた研究内容は,被告において当面必要とするものではなかったことが認められ,また,具体的に成果を上げた様子も窺われないところである。また,原告は,本件証拠調べの経緯からも明らかなとおり,やや人の話を聴かず,その結果思いこみの強い傾向が窺え,これが被告における研究内容に関する自己主張の強さ,固さにも表れているところと解される。   (2) この点が是正されない限り,招聘職員として再雇用したとしても,被告が期待する業務推進は期待できないのであるから,被告において,前記認定の人事考課結果を踏まえ,原告を招聘職員として再雇用しない旨判断したことはやむを得ない判断であったものと思料する。   (3) したがって,被告による本件再雇用拒否に裁量権を逸脱・濫用した違法は見受けられない。   (4) ただし,原告は,当然に再雇用されるものと思いこんでいて,再就職活動をしないまま定年退職の直前を迎え,わずか1か月前に再雇用しない旨の通告を受けたものであって,定年退職後の再就職に差し支えたことが窺えるから,高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(甲3)等の趣旨に鑑みれば,もっと事前に予告する等の配慮が望まれる。被告の制度内容に照らせば,原告にはE評価が3回以上付くことが確定した平成16年の年初においては,原告が平成17年4月1日以降再雇用されることはないと言っていい状況にあったものと思われるので,育成面談その他の機会を利用して,原告に定年退職後の生活を考える機会を与えることが望ましかったものと思料する。