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ID番号 : 08592
事件名 : 残業代支払請求事件
いわゆる事件名 : ビル代行(ビル管理人・不活動時間)事件
争点 : 妻と住み込みで就業するビル管理人が、休日時間外労働等の割増賃金の支払を求めた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 : 会社から管理業務の委託を受けているビルに妻とともに住み込みで就業しているビル管理人が、休日時間外労働等の割増賃金の支払を求めた事案である。 名古屋地裁は、所定の時間外業務(決まって時間外に従事した業務)と所定労働時間に挟まれた、現実には労働に従事していない、いわゆる不活動時間は、種々の確認作業や緊急時の対応などが義務づけられていたことから、原則として、会社の指示に基づき業務に従事することを義務づけられ、会社の作業上の指揮監督下にある時間として労働時間に該当すると認めるのが相当であるとした。その上で、原則として労働時間と認められる不活動時間であっても、実態として労働の必要が極めて乏しく、管理人ら自身も遊興のため自由に外出するなど、業務に従事するため会社に拘束されていると認められず、又は、会社において業務に従事させるため拘束しているとは認識していないと認められるような特段の事情がある場合には、労働時間と認めることはできないとしてこれを控除することとして、請求の一部を認容した。
参照法条 : 労働基準法32条
労働基準法114条
賃金の支払の確保等に関する法律6条1項
体系項目 : 労基法の基本原則(民事)/労働者/ビル管理人
労働時間(民事)/労働時間の概念/手待時間・不活動時間
賃金(民事)/割増賃金/法内残業手当
雑則(民事)/付加金/付加金
賃金(民事)/賃金の支払の確保等に関する法律/賃金の支払の確保等に関する法律
労働時間(民事)/労働時間の概念/住み込みと労働時間
裁判年月日 : 2007年9月12日
裁判所名 : 名古屋地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成16(ワ)3972
裁判結果 : 一部認容、一部棄却(確定)
出典 : 労働判例957号52頁
労経速報1985号24頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔労基法の基本原則(民事)-労働者-ビル管理人〕
〔労働時間(民事)-労働時間の概念-手待時間・不活動時間〕
〔賃金(民事)-割増賃金-法内残業手当〕
〔雑則(民事)-付加金-付加金〕
〔賃金(民事)-賃金の支払の確保等に関する法律-賃金の支払の確保等に関する法律〕
〔労働時間(民事)-労働時間の概念-住み込みと労働時間〕
(2) 判断  (ア) 本件不活動時間は、原則として、被告の指示に基づき業務に従事することを義務づけられ、被告の作業上の指揮監督下にある時間として労働時間に該当すると認めるのが相当である。その理由は、以下に述べるとおりである。  まず、原告の勤務場所は、被告の顧客企業のオフィスであり、しかも、所定労働時間中は小荷物の発着処理などといった同社の一定の業務を割り当てられ、同社社員と同様に執務することが期待されていたともいえる〔中略〕上、所定の時間外業務を含めて勤務においては制服の着用が義務づけられていた。そうすると、制服に着替えて所定の時間外業務を開始すれば、次の所定の時間外業務や所定労働時間までの間も、BS名古屋社員らからは既に勤務に就いたものと見られるなど、その指示等により業務に従事せざるを得ない状況にあったといえる。そして、原告は、職場に住込みで勤務するものとされ、午後10時までの間に種々の確認をすることと緊急時には必要な対応をすることを義務づけられていた。そうすると、原告としては、例えば、社員が忘れ物など急用で出勤してきたり、あるいは社員が残業していれば、その間に何らかの対応を求められる可能性があった。このように、本件不活動時間中の原告は、通常、緊急事態やBS名古屋社員の指示による業務に従事する可能性のある状況にあった。  次に、これが被告の指示に基づくものと認められるかを見るに、本件委託契約に基づいて長年管理人を派遣している被告は上記のような状況を十分に知る機会を有したこと、本件委託契約上、管理人業務についてあいまいな表現を用いる〔中略〕一方、BS名古屋社員からの個別の指示に対応する必要がない旨の記載はなく、かえって、平成5年2月1日付け管理人勤務表〔中略〕には、記載のない事項は客先と打ち合わせの上適宜実施する旨記載していることに、被告が残業に関し本件訴訟において割増賃金の支払対象となることを自認している休日の所定労働時間を労働時間と扱わず、一部とはいえ本件不活動時間を労働時間として申告するよう指示したこと〔中略〕も考え併せると、被告は、原告の勤務状況が上記のようなものであることを認識した上で、これを積極的に容認していたものと認められ、少なくとも黙示に指示したものというべきである。  これに対し、実態として労働の必要が極めて乏しく、原告自身も遊興のため自由に外出するなど、業務に従事するため被告に拘束されていると認められず、又は、被告において業務に従事させるため拘束しているとは認識していないと認められるような特段の事情がある場合には、所定の時間外業務と所定労働時間との間の時間であっても労働時間と認めることはできない。  そこで、以上のような観点から本件不活動時間について以下順次検討する。  (イ) 営業日について  本件不活動時開中、原告が、モーニングサービスの利用を除き、遊興等のため外出することはごくまれであった。また、所定労働時間外にBS名古屋社員に対応することもあった。よって、営業日の不活動時間は、原則として労働時間に該当すると認めるのが相当である。しかし、他方、以下の時間については労働時間と認めることはできない。〔中略〕  以上によると、営業日の不活動時間中、労働時間と認められるのは、朝の始業時までの間に、平成15年8月31日までが2時間の残業、同年9月1日以降が1時間の残業、夜の終業時以降が同年8月31日までが3時間の残業、同年9月1日以降が1時間の残業である。そして、これに最終巡回の30分が加わり、かつ、この時間は深夜労働となる。〔中略〕  また、休業日にBS名古屋社員が時間外に出入りすることもあったが、それは平均すると月に1回にも満たない(〈証拠略〉)。  さらに、本件委託契約及び原告への業務指示において、休業日に原告主張の最終巡回をすること、その他所定労働時間外に戸締まりや火の元などを確認することは義務づけられておらず、出社したBS名古屋社員が退出した後に原告が何らかの具体的な対応をしたとの事実を認めるに足りる証拠はないこと(〈人証略〉)に照らし、原告が、所定労働時間を超えて、被告の指示に基づき業務に従事するため拘束されていたとはいえず、本件不活動時間を労働時間と認めることはできない。〔中略〕 被告は原告に対し、未払賃金債務の元本全額に相当するものとして上記金額を支払う旨指定し、これについて原告も異議を述べなかったものというべきであり、上記金額は弁済期の先に到来したものの元本から順次充当されるものと認めるのが相当である。  これに対し、原告は、上記金額が原告ら夫婦の雇用契約上の労働者たる地位と管理員居室の使用関係に関する紛争に関する和解金として支払われたものであると主張するが、上記経過及び約定書(〈証拠略〉)の記載内容からしても採用することができない。  よって、被告の一部弁済の主張は理由がある。  これによると、原告が被告に請求できる割増賃金の額は別紙1(1)欄の記載のとおりとなる。 5 争点(3)(賃確法6条1項の適用)について  前記3の割増賃金残額の支払義務を争うことに合理的な理由があったとは認められないから、被告の主張は採用できない。  従って、被告は原告に対し、賃確法6条1頂により未払賃金に対する退職の日の翌日(それ以降に支払日が到来するものは支払日)から年14.6%の遅延損害金の支払義務を負う。 6 争点(4)(労働基準法114条の基づく付加金の支払義務)について  本件に現れた諸事情を総合すれば、原告が求めるように、発生した割増賃金の割増部分と同額の付加金の支払いを命じるのが相当であり、これに反する被告の主張は採用できない。  従って、被告は原告に対し、本件訴訟提起まで2年以内の平成14年11月分から平成16年3月までの間の割増賃金につき割増部分と同額の労働基準法114条の基づく付加金の支払義務を負う。