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ID番号 : 08606
事件名 : 損害賠償請求控訴事件
いわゆる事件名 : 北海道銀行(自殺)事件
争点 : 融資担当の銀行員の自殺につきその父が安全配慮義務違反を理由に損害賠償を求めた事案(原告敗訴)
事案概要 : 銀行融資担当として就業していた銀行員が自殺したことにつき、その父が、銀行に対し安全配慮義務違反を理由に損害賠償を求めた控訴審である。 第一審札幌地裁は、銀行に安全配慮義務違反はなかったとして請求を棄却し、父が控訴。これに対し第二審札幌高裁は、銀行員は相当量の時間外勤務を負う中、思うように販売実績を上げることができず、会議において厳しく注意されるなどして、相当の精神的負担を感じており、そのために軽症うつ病エピソードに罹患していたことも一つの原因となって自殺したものと推認されるとした上で、銀行には部下に対する指導として許される限度を超えた過度に厳しい指導を行った事実は認められず、また銀行員の精神状態に特段配慮し、労働時間又は業務内容を軽減するなどの措置を採るべき義務が生じていたということもできないとして銀行の安全配慮義務違反を否定、一審判決を支持し、控訴を棄却した。
参照法条 : 民法415条
民法709条
体系項目 : 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 : 2007年10月30日
裁判所名 : 札幌高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成17(ネ)73
裁判結果 : 棄却(上告)
出典 : 労働判例951号82頁
審級関係 : 一審/札幌地/平17. 1.20/平成14年(ワ)2587号
評釈論文 :
判決理由 : 〔労働契約(民事)-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
エ以上によれば,特にcについて過酷な業務が強いられていたわけではなく,cの上司による部下に対する指導として許された限度を超えた過度に厳しい指導があったわけではないが,cは,平成12年10月,本件推進担当に任命され,本件支店及びcに課せられた投資信託の販売目標を達成するべく熱心に仕事に取り組んでいたが,思うように販売実績を上げることができず,本件渉外会議において,aから厳しく注意されるなどして,相当の精神的負担を感じており,そのために軽症うつ病エピソードに罹患していたことも一つの原因となって自殺したものというべきである。 3 争点(2)(被控訴人の過失又は債務不履行の有無)について (1) 一般に,使用者は,その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身を損なうことがないよう注意する義務を負うと解され,その義務違反があった場合には,雇用契約上の債務不履行(いわゆる安全配慮義務違反)に該当するとともに,不法行為上の過失をも構成すると解すべきである。 (2) 前記説示のとおり,cは仕事上相当の精神的負担を感じており,そのために軽症うつ病エピソードに罹患したことも一つの原因となってcは自殺したものというべきである。 しかし,冬季休暇を取った際に引継書を提出せずに仕事を休み,電話連絡もつかなかったという事情はあるものの,その後にcが出勤した同月15日以降,cには被控訴人において把握し得る異常な言動はなく,また,その他にcが軽症うつ病エピソードに罹患していることを窺わせる事情を被控訴人において把握していたとも認められず,さらに,cから健康状態等を理由に業務の変更等を求める申し出もなかったことに照らすと,被控訴人において,cの自殺等不測の事態が生じうる具体的危険性まで認識し得る状況があったとは認められない(cの後輩として親しく付き合っていたと認められるdやeも,cには思い悩んでいた様子はなかった旨述べている〔中略〕。)から,被控訴人において,cの精神状態に特段配慮し,労働時間又は業務内容を軽減するなどの措置を採るべき義務が生じていたということはできない。また,平成13年2月19日,bがcに対しiに関するファームバンキングサービスの解約について確認した際のやり取りに,特段不適切な点は認められないし,cは,bから解約について確認されると突然本件支店を飛び出し,そのまま行方不明になり,その3日後自殺に至ったのであるから,被控訴人において,cの自殺を防止するための措置を採ることができたとは認められない。