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ID番号 : 08611
事件名 : 解雇予告手当等請求事件
いわゆる事件名 : 泰進交通事件
争点 : 労組からタクシー会社に労働者供給され契約終了により雇止めとなった者が解雇予告手当等の支払を求めた事案(労働者敗訴)
事案概要 : 職業安定法上の労働者供給契約に基づいて労働組合からタクシー会社に労働者供給され、タクシー運転手として業務に従事していた者らが、労働者供給契約の終了に伴い会社から解雇されたとして、解雇予告手当及びそれと同額の付加金の支払を求めた事案である。 東京地裁は、会社都合による使用の解除の場合に、労働基準法の解雇に関する規定の適用が排除されると解することは雇用の安定の方針にそぐわないものとなり、解雇予告手当については、労働協約に定められていない事項として労働基準法20条に定める解雇予告の規定が適用されるものと解するのが相当とした。その上で、本件においては、労働契約関係は期間満了により終了したものであることから解雇予告手当の対象とはならず、当該使用関係が労働契約関係であるものの、労働協約を前提とし、当該協約は1年ごとの更新制であることから、会社との労働契約関係もこれと軌を一にした有期労働契約関係であると解され、原契約期間が満了した日をもって雇止めされたことになり原告らを契約期間中に解雇した事実はないとして、解雇予告手当等の請求を否認した。
参照法条 : 職業安定法45条
労働基準法20条
労働基準法2章
体系項目 : 解雇(民事)/解雇予告/期間満了と解雇予告
解雇(民事)/短期労働契約の更新拒否(雇止め)/短期労働契約の更新拒否(雇止め)
解雇(民事)/変更解約告知・労働条件の変更/労働組合による労働者供給事業と有期契約
裁判年月日 : 2007年11月16日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成19(ワ)1748
裁判結果 : 棄却(確定)
出典 : 労働判例952号24頁
労経速報1991号8頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔解雇(民事)-解雇予告-期間満了と解雇予告〕
〔解雇(民事)-短期労働契約の更新拒否(雇止め)-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
〔解雇(民事)-変更解約告知・労働条件の変更-労働組合による労働者供給事業と有期契約〕
(11) 被告と原告ら組合員との使用関係は、本件供給契約の存続を前提としつつ、本件労働協約に定めのない事項については労働基準法や被告の就業規則等が適用され、雇用保険法の適用等の面では被告が事業主となってその雇用責任を負う特殊な労働契約関係であると解される。〔中略〕 本件労働協約は、本件協約書と本件付属協定書が一体となって効力を発するものであり、双方の文書が合致する平成3年7月5日が当事者双方が効力発生の意思をもって署名捺印している日付と解され、すなわち、同日が本件労働協約の有効期間の開始日と解される。 (2) したがって、その期間満了日は翌年の7月4日となる。本件労働協約が以後1年ごとに自動更新されてきた事実は当事者間に争いがないから、平成17年7月5日に自動更新された本件労働協約の満了日は平成18年7月4日であると認められる。 (3) 被告は、期間満了1か月以上前の平成18年5月30日に新運転東京に対して本件労働協約の改廃の申し出をしているから、本件労働協約の自動更新の途はなく、かつ、被告の月間営業収入を基準として月額での賃金体系への変更を迫る硬い態度を見て新運転東京において改廃の協議を断念したことから、本件労働協約の期間が満了した平成18年7月4日をもって本件供給契約が終了したものである。〔中略〕 これら使用の解除は、直接の雇用関係では解雇の場合をいうものと解され、その場合の特則と解される。したがって、上記使用の解除の場合には労働基準法の解雇に関する規定の適用がないと解する余地も否定できないところである。 (3) しかし、昭和42年に旅客自動車運送事業運輸規則が改正され、被告を含む旅客運送事業者が事業用自動車の運転者を常時選任しておかなければならないものとされ、日々雇い入れられる者を運転者として選任することができなくなった趣旨は、当時の参議院運輸委員会会議録(〈証拠略〉)によれば、「日雇いでない安定した雇用契約のもとに良質の事故のないサービスができることを期待してのこと」、「今の組合員のままでもって新しい運輸規則に基づいて労働協約を改正させ、安定した雇用の形態に行くように指導したい」、「労働者供給事業をやっている組合は、その事業を依然として継続できるところ、現在そういう組合に入っている人たちがよりよき労働条件の下において働きうること、雇用契約の期間が長くなることにより、ひいては雇用の安定に伴ってサービスの改善になり、事故防止につながること」であることが窺われる。 (4) そうだとすると、被告の都合による上記使用の解除の場合に、労働基準法の解雇に関する規定の適用が排除されると解することは、雇用の安定の方針にそぐわないものとなる。解雇予告手当については、本件労働協約に定められていない事項として、労働基準法20条に定める解雇予告の規定が適用されるものと解するのが相当である。  ただし、本件においては原告ら・被告間の労働契約関係は、期間満了により終了したものであるから、解雇予告手当の対象とはならないと解されることは後記のとおりである。 (5) 原告ら・被告間の上記使用関係が労働契約関係であるものの、本件労働協約の存続がなければ成り立たないという点で特殊な性質を有するものであることは前記のとおりであるところ、本件労働協約は1年ごとの更新制であることから、原告ら・被告間の労働契約関係もこれと軌を一にした有期労働契約関係であると解される。この点本件労働協約締結時に既に新運転東京から被告に供給されていた原告A及び原告Dについては、上記締結・発効と軌を一にした平成3年7月5日から、あらためて1年ずつの有期労働契約が成立しているものと解され、その後供給されることとなった原告B及び原告Cについては当初の供給時から次の7月4日までの有期労働契約が成立し、次いで7月5日から翌年7月4日までの1年間の有期労働契約に移行したものと解される。 (6) そうすると、原告らはいずれも、本件労働協約の自動更新に伴って、平成17年7月5日から1年間契約更新されたものであるところ、本件供給契約の解消に伴い、契約期間が満了した平成18年7月4日をもって雇止めされたことになる。 (7) したがって、本件においては、被告が原告らを契約期間中に解雇した事実は認められないから、労働基準法20条適用の前提を欠く。よって、原告らは、被告に対して、解雇予告手当を請求することはできない。