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ID番号 : 08612
事件名 : 地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 : 中野区(非常勤保育士)事件
争点 : 自治体に再任用を拒否された非常勤保育士らが、地位の確認、未払給与支払等を求めた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 : 自治体に任用期間1年で採用され10回前後にわたり再任用された後、再任用拒否された特別職の非常勤職員(保育士)らが、解雇権濫用の法理が類推適用されるとして地位の確認、未払給与の支払及び期待権侵害を理由とする損害賠償を求めた控訴審である。 第一審東京地裁は、保育士らの地位は任用行為によってのみ認定されるとの理由で地位確認と賃金の請求は退けつつ、再任用の期待を抱かせながらYが職員らを再任用しなかった点について期待権侵害を認め、損害賠償請求の一部を認容したところ、双方が控訴。これに対し第二審東京高裁は、現行法では解雇権濫用法理を類推適用して再任用を擬制する余地はないとして、第一審同様自治体の再任用義務を認めなかったが、期待権侵害による損害額の算定について報酬1年分程度の慰謝料額が相当であるとして、増額を認めた(ただし、保育士らのうち1名についてはその後臨時職員として1年間従事した事情が減額要素として考慮された。)。
参照法条 : 地方自治法172条
地方公務員法3条3項3号
地方公務員法4条2項
労働基準法18条の2
民法629条1項
体系項目 : 労基法の基本原則(民事)/労働者/保育士
労基法の基本原則(民事)/国に対する損害賠償請求/国に対する損害賠償請求
解雇(民事)/短期労働契約の更新拒否(雇止め)/短期労働契約の更新拒否(雇止め)
裁判年月日 : 2007年11月28日
裁判所名 : 東京高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18(ネ)3454
裁判結果 : 一部変更、一部控訴棄却(確定)
出典 : 時報2002号149頁
タイムズ1274号168頁
労働判例951号47頁
労経速報1996号3頁
東高民時報58巻1~12号10頁
判例地方自治303号32頁
審級関係 : 一審/08490/東京地/平18. 6. 8/平成16年(ワ)5565号
評釈論文 : 志田なや子・賃金と社会保障1464号45~50頁2008年4月25日 清水敏・労働法律旬報1670号19~32頁2008年4月25日 志田なや子・労働法律旬報1670号6~9頁2008年4月25日 勝亦啓文・労働法律旬報1670号14~18頁2008年4月25日 村田哲夫、岸本孝之・判例地方自治306号4~8頁2008年9月 稲葉一将・判例地方自治306号101~104頁2008年9月
判決理由 : 〔労基法の基本原則(民事)-労働者-保育士〕
〔労基法の基本原則(民事)-国に対する損害賠償請求-国に対する損害賠償請求〕
〔解雇(民事)-短期労働契約の更新拒否(雇止め)-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
(5) 一審原告らは,平成15年度に,任用期間を同年4月1日から平成16年3月31日までの1年間として再任用されたものであり,平成16年度において新たな再任用行為がなかった以上,争点(2)で検討する解雇権濫用の法理が類推適用されない限り,上記任期終了と同時に,当然に公務員としての地位を失うというほかない。一審原告らの地位は任用行為の内容によってのみ決定されるのであるから,期間を1年間として任用されている以上,一審原告らが再任用を請求する権利を有することはない。〔中略〕 そこで,地方公共団体における非常勤職員について見ると,まず,反復継続して任命されてきた非常勤職員の側では,上記のような期間の定めのない就労の意思があったとしても,任命する地方公共団体の側では,非常勤職員については条例による定数化がされないため(地方自治法172条3項),報酬等に関する予算措置もあって任期を1年と限っているのであるから,上記のような期間の定めのない任命の意思を考えることができない。また,任命行為は行政行為であって,当事者間の諾成契約のように契約当事者の明示又は黙示の意思表示の合致のみによっては任命の効力は生ぜず,任命権者による告知によって効力を生ずるものであるから,期間の定めのない任命行為を認定することも,当事者双方の意思を推定する規定である民法629条1項を類推適用することも困難であり,任期を1年として任命された地方公共団体における非常勤職員については,東芝柳町工場事件判決や日立メディコ事件判決の法理を適用することができないものといわざるを得ない。 (4) 本件においては,一審原告らの主張するように私法上の雇用契約の場合と,公法上の任用関係である場合とで,その実質面においては,多数回の更新の事実や,雇用継続の期待という点で差異がないにもかかわらず,労働者の側にとってその法的な扱いについて差が生じ,公法上の任用関係である場合の労働者が私法上の雇用契約に比して不利となることは確かに不合理であるといえる。しかし,行政処分の画一性・形式性を定めた現在の関係法令を適用する限りは,当事者双方の合理的意思解釈によってその内容を定めることが許されない行政処分にこの考え方を当てはめるのは無理があると考えられ,現行法上は,解雇権濫用法理を類推して,再任用を擬制する余地はないというほかはない。〔中略〕 (2) 前記1の認定事実によれば,一審被告は,一審原告らが非常勤保育士の任用を希望した際や,任用された際に,前記のとおり,一審原告らの非常勤保育士としての任用は公法上の任用関係であり,期間が厳格に定められていて当然に再任用を請求する権利が発生する余地はなかったのであるから,将来,疑義を生じることのないようにそのことを説明すべき必要性が高い事情にあったにもかかわらず,一審原告らがその説明を受けていなかったものであり,却って,一審被告にとり保育士を確保する必要性があったことから,採用担当者において,長期の職務従事の継続を期待するような言動を示していたこと,一審原告らの職務内容が常勤保育士と変わらず継続性が求められる恒常的な職務であること,それぞれ9回から11回と多数回に及ぶ再任用がされ結果的に職務の継続が10年前後という長期間に及んだが,再任用が形式的でしかなく,実質的には当然のように継続していたことに照らすと,一審原告らが再任用を期待することが無理からぬものとみられる行為を一審被告においてしたという特別の事情があったものと認められる。したがって,前記の一審原告らの任用継続に対する期待は法的保護に値するものと評価できるものと解する。 そして,このように,一審原告らの任用の際には,長期間の職務従事に対する期待を抱かせるかのような説明がされ,その後の再任用手続も,本人の意思を明示的に確認しないで再任用が常態化していたことに照らせば,その任用に制度上は期間の限定があるとされていることを認識していたとしても,自ら退職希望を出さない限り,当然に再任用されるとの期待を一審原告らが抱くのはごく自然なことである。しかも,一審被告が本件再任用拒否をした後,パートの保育士を採用して,非常勤保育士に代わるものとして保育業務を継続していることにより,その継続性に対する期待が客観的であることが裏付けられている。 (3) 以上のとおり,一審原告らが再任用されるとの期待は,法的保護に値するというべきであるところ,一審被告は一審原告らを再任用せず,一審原告らの上記期待権を侵害したのであるから,一審被告は,一審原告らに対して,その期待権を侵害したことによる損害を賠償する義務を負うべきである。