全 情 報

ID番号 : 08613
事件名 : 地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 : 朝日新聞社(国際編集部記者)事件
争点 : 英字新聞のフリー記者3名が雇用契約に基づく地位確認及び賃金の支払を求めた事案(労働者敗訴)
事案概要 : 英字新聞社編集部で翻訳、記事執筆の業務に就き報酬を得ていた記者ら3名が、契約打ち切りの通告を受け、雇用契約に基づく地位確認及び賃金の支払を求めた控訴審である。 第一審東京地裁は、記者らの仕事には記事の選択等につき諾否の自由があり、また原稿料が勤務日数に応じて支払われていたとしても簡便な方法として採用していたに過ぎず、さらに勤務時間も拘束は緩やかであったことなどから、記者らのいずれにも労働者性はないと判断して請求を棄却した。これに対し第二審東京高裁は、まず記者ら3名には、採用時に正社員ではないこと、正社員登用への可能性もないこと及び社会保険もないことと等の説明をし、記者らもこれに応じ、原稿料として報酬を受領し、個人事業者として申告もしていた以上、雇用契約が成立していたとはいえず、また個別に業務や報酬等の実態をみても、記者ら3名いずれにも実質的に雇用契約に基づいて就労していたとは認められないとして、控訴を棄却した。
参照法条 : 労働基準法1章
民法623条
民法651条
体系項目 : 労基法の基本原則(民事)/労働者/フリーランス記者
労働契約(民事)/成立/成立
裁判年月日 : 2007年11月29日
裁判所名 : 東京高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成19(ネ)2238
裁判結果 : 棄却(上告)
出典 : 労働判例951号31頁
労経速報1991号17頁
審級関係 : 一審/08541/東京地/平19. 3.19/平成17年(ワ)14552号
評釈論文 :
判決理由 : 〔労基法の基本原則(民事)-労働者-フリーランス記者〕
〔労働契約(民事)-成立-成立〕
2 控訴人らの被控訴人における業務が雇用契約によるものか否かを判断する。 (1) 国際編集部においては、記事作成についての不足人員を確保するため、出向社員、派遣社員によるほか、正規の入社試験を経て社員を採用することなく、記事作成(朝日新聞の記事を翻訳することを含む。)の業務を外部に委託する形式をとることとし、採用時において、正社員ではないこと、正社員に登用される可能性もないこと(別に社会人採用の試験制度が設けられていた。)、その身分から社会保険がないこと(雇用契約ではないこと)を説明し、その了解を得た上で採用し、原稿料として報酬を支払う旨の契約、記事原稿の作成業務を委託する契約を締結し、この者をフリーランスの記者と称して、就業規則の適用がなく、勤務時間の制約、職務専念義務もない、正社員とは異なる扱いをしていたものである(証人D、〈証拠略〉)。  控訴人らは、いずれも上記説明を受け、これを理解して業務に就き、原稿料として報酬を受領し、個人事業者として所得を申告していたものである。後記のとおり、英字新聞における新聞記事の作成が高度の専門性を要し、その記事の確保を目的に契約をしたもので、控訴人らが社員とは異なる扱いを受けていたものであり、その業務が、国際編集部においてその机や備品・設備を使用して勤務時間内に他の社員らスタッフと協力して行うものという側面を有し、報酬の計算が執務したとする日数に日額を乗じて計算する方式であり、個々の記事原稿に要する労務を算定しこれを基礎にすることをしていないこと、控訴人Aが記事を作成し、控訴人B、控訴人Cにおいてはデスクの指示する記事作成をするという業務の具体的な遂行形態においては、社員である記者がする業務とさほどの差異がないといえることを斟酌しても、控訴人らの業務が雇用契約によるものと認めることはできない。また、国際編集部において、翻訳業務につき語数を単位に出来高として報酬を支給する形態の勤務者が存在し、控訴人らがこのような者とは明らかに異なる形態で業務に就いていたといえるが、このことから控訴人らの業務が雇用契約によるものとまでいうことはできない。 (2) 控訴人Aについて〔中略〕  報酬額は、申告した日数に一定額を乗じた計算をしていたが、出勤し勤務したか否かのチェックがあるわけではなく、一定の出勤日数を確保することによってその能力に応ずる仕事が期待できたことから、上記計算方法がとられたものであって、勤務日における労務の提供に対する対価であると評価すべきものではない。控訴人Aに対しては、「有給休暇」名目で、日数を年7日ないし10日加算する扱いがされるようになったが、これも、計算の基礎とする日額を増やさずに、報酬を引き上げるための計算方法というべきものであり、控訴人Aに有給休暇が与えられていたものではなかった。  控訴人Aは、記事作成の業務委託を受け、その報酬として原稿料を受領することを承諾していたものであり、記事原稿を完成させるには、デスク、外国人コピーエディターらスタッフの協力を得る必要があり、そのため出勤し仕事を完成させていたのであり、上記のような報酬計算がされていたからといって、これを雇用契約によるものということはできない。〔中略〕 (3) 控訴人Bについて〔中略〕 控訴人Bの業務は専門性の高い英字新聞における経済記事原稿の作成であり、主として、特定の朝日新聞の記事を与えられ、これを正確でわかりやすい記事原稿に翻訳作成することであり、その業務を円滑に進め、締め切りに間に合わせるため、出勤した上、デスク、外国人コピーエディターらスタッフの協力を得て速やかに仕事を完成させていたのであるから、個々の記事作成業務の委託を受けてその完成をめざし、その対価が支払われていたと見ることも十分可能というべきである。また、指示された記事の翻訳をしていたことや、デスクや外国人コピーエディターらから上記のような指示を受けることは、業務の性質から当然の事柄であって、このことをもって職務の従属性が決せられるものではない。  そして、業務の対価が、日数を基礎に計算されているが、控訴人Bは、その経験や能力を評価されて業務につき、成果をあげ、一定レベルの仕草が期待でき、勤務したか否かのチェックをすることなく一定の出勤日を確保することによってその能力に応ずる仕事が期待できたことから、上記計算方法がとられたものであって、勤務日における労務の提供に対する対価であると評価すべきものではない。  控訴人Bは、期間を1年に限定し更新をする雇用契約の経験があり、被控訴人との契約に際し、これとは異なる期間の定めがない契約であること、しかし、正社員とはまったく異なるものであること、雇用契約に伴う社会保険はなく、原稿料が支払われ、業務は他の業務と平行してできることを説明され、いつ契約が解除となるやもしれないことを理解して業務に就き、原稿料として報酬を受け取り業務を続けていたものであるから、雇用契約が結ばれたということはできない。 (4) 控訴人Cについて〔中略〕 控訴人Cの業務は、専門性がある英字新聞の原稿記事の作成であり、指示された情報欄の作成という個々の業務の完成を目的とするものと評価できるものであるし、勤務時間は、業務を完成させるのに差し支えがなければ、特にこれに拘束されるものではなく、その勤務時間が管理がされていたのでもなかった。また、報酬は、原稿料であって、控訴人Cが指定された日(土日を除く平日)に出勤しをことを前提に、控訴人Cが申告した日数を基礎に日額を乗じて算定されていたが、控訴人Cは、上記記事作成に応じた能力があることが期待でき、一定の出勤日を確保することによってその能力に応ずる仕事が期待できたことから、上記計算方法がとられたものであって、勤務日における労務の提供に対する対価であると評価すべきものではない。控訴人Cが、情報欄の様々な記事の作成を依頼されていたからといって、上記の判断が左右されるものではない。  控訴人Cは、正杜員とはまったく異なるものであること、雇用契約に伴う社会保険はなく、原稿料を受け取るものであることを承認して業務に就いたものであり、雇用契約によって業務に就いていたと認めることはできない。