ID番号 | : | 08623 |
事件名 | : | 損害賠償・立替金請求等上告事件 |
いわゆる事件名 | : | 神奈川都市交通事件 |
争点 | : | 業務災害で休職したタクシー乗務員が、賃金、休業手当、損害賠償等を会社に求めた事案(労働者敗訴) |
事案概要 | : | 業務上負傷による疾病のため休職を命じられていたタクシー乗務員が、治ゆ後タクシー乗務復帰までの間の賃金、休業手当、休業補償差額、損害賠償等を会社に求めた上告審である。 第一審横浜地裁は、休業補償給付を受けていれば会社は災害補償全部を免れるとして請求を棄却。第二審東京高裁は、復帰までの間の事務職について、債務の本旨に従った履行の提供とはいえないとして賃金・休業補償等の請求を認めない一方、休業補償については、会社は労災保険法による給付が行われる限度においては労基法84条1項により補償の責めを免れるものの、休職期間中は平均賃金の60パーセントを休業補償として支払うべき義務を負うとして、労災保険法の休業補償支給打切り以降分の支払を命じた。 これに対し最高裁第一小法廷は、賃金・休業補償等の請求については第二審の判断を支持しつつ、休業補償については、乗務員が労災保険法適用事業に使用される労働者であり、労基法76条1項に基づく休業補償請求の範囲が本件事故を原因とする休業の最初の3日間に係る分を含まないことは明らかであるから、会社は同法84条1項により76条の休業補償義務を免れるとして、控訴審を破棄した。 |
参照法条 | : | 労働基準法26条 労働基準法76条 労働基準法84条1項 労働者災害補償保険法14条 労働者災害補償保険法12条の8第1項2号 |
体系項目 | : | 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償 休職/傷病休職/傷病休職 労災補償・労災保険/損害賠償等との関係/労基法との関係 労災補償・労災保険/損害賠償等との関係/労災保険と損害賠償 |
裁判年月日 | : | 2008年1月24日 |
裁判所名 | : | 最高一小 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成18受1154 |
裁判結果 | : | 破棄自判(被上告人控訴棄却)(確定) |
出典 | : | 労働判例953号5頁 |
審級関係 | : | 控訴審/08466/東京高/平18. 3.22/平成15年(ネ)3620号/平成15年(ネ)6131号 一審/横浜地/平15. 6. 5/平成13年(ワ)257号/平成13年(ワ)567号 |
評釈論文 | : | 小宮文人・法学セミナー53巻9号133頁2008年9月 |
判決理由 | : | 〔労働契約(民事)-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕 〔休職-傷病休職-傷病休職〕 〔労災補償・労災保険-損害賠償等との関係-労基法との関係〕 〔労災補償・労災保険-損害賠償等との関係-労災保険と損害賠償〕 3 原審は、被上告人の主位的請求及び予備的請求のうちの労働基準法26条に基づく休業手当請求をいずれも棄却したが、予備的請求のうちの同法76条1項に基づく休業補償請求については、次のとおり判断して、被上告人の請求を認容した。 (1) 被上告人は、本件事故により、業務上負傷し、療養のため労働をすることができず、上告人に疾病休職を命じられて休職していた。このような場合、上告人は、労働者災害補償保険法による給付が行われる限度においては、労働基準法上の補償の責めを免れると解されるものの、休職期間中は、被上告人に対し、平均賃金の60%の休業補償金を支払うべき義務を負うと解するのが相当である。 (2) 被上告人は、平成11年7月15日までは労働者災害補償保険法に基づく全額の休業補償給付を受けたが、本件不支給決定により、その翌日から同年8月31日までの間は、通院日のみを休業日と認められ、20万3364円の休業補償給付を受けたにとどまり、同年9月1日以降、休業補償給付を受けることができなくなった。この事情の下においては、上告人は、同年7月16日以降、被上告人がタクシー乗務員として復職するまでの間、被上告人に対し、上記金額を控除した額の休業補償金を支払うべき義務を負う。 4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は次のとおりである。 労働者が、労働基準法76条に定める休業補償と同一の事由について、労働者災害補償保険法12条の8第1項2号、14条所定の休業補償給付を受けるべき場合においては、使用者は、労働基準法84条1項により、同法76条に基づく休業補償義務を免れると解するのが相当である(最高裁昭和48年(オ)第927号同49年3月28日第一小法廷判決・裁判集民事111号475頁参照)。すなわち、労働者災害補償保険法の適用事業に使用されている労働者に関しては、同法14条1項に基づき休業補償給付が支給されないこととされている休業の最初の3日間に係る分を除き、使用者は、およそ労働基準法76条に基づく休業補償義務を免責されることとなるのである。 これを本件についてみると、前記事実関係によれば、被上告人が労働者災害補償保険法の適用事業に使用されている労働者であり、被上告人の労働基準法76条1項に基づく休業補償請求の範囲が本件事故を原因とする休業の最初の3日間に係る分を含まないことは明らかであるから、上告人は、同法84条1項により、同法76条に基づく休業補償義務を免れるものというべきである。 そうすると、被上告人の同条1項に基づく休業補償請求を認容した原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決中上記請求に関する部分は破棄を免れない。そして、以上説示したところによれば、上記請求は理由がないから、これを棄却した第1審判決は正当であり、上記部分については被上告人の控訴を棄却すべきである。 なお、被上告人は、上記請求と選択的に、労働基準法26条に基づく休業手当請求をしているが、前記事実関係によれば、〈1〉 被上告人が就業規則の定めに従い上告人の指定医による治ゆの診断を受けて試乗勤務を経た後である平成12年4月15日まで、上告人が被上告人のタクシー乗務への復職を認めなかったことには正当な理由があり、〈2〉 この間、上告人が、職種をタクシー乗務員として採用されたことの明らかな被上告人からの事務職としての就労の申入れを受け入れるべき義務があったものということはできないから、被上告人の休業は、使用者の責めに帰すべき事由によるものではないことが明らかであり、上記休業手当請求にも理由がないといわざるを得ない。そうすると、第1審判決中、上記休業手当請求を棄却した部分は正当であるから、これに対する被上告人の控訴を棄却することとする。 |