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ID番号 : 08626
事件名 : 賃金等請求事件
いわゆる事件名 : 日本マクドナルド事件
争点 : ハンバーガー直営店の店長が、会社に対して過去2年分の割増賃金の支払等を求めた事案(労働者勝訴)
事案概要 : 就業規則において店長以上の職位の従業員を労基法41条2号の管理監督者として扱っているハンバーガー販売会社の直営店の店長が、会社に対して過去2年分の割増賃金の支払等を求めた事案である。 東京地裁は、労基法の労働時間等の労働条件は最低基準を定めたもので、これを超えて労働させる場合に所定の割増賃金を支払うべきことは全ての労働者に共通する基本原則であり、管理監督者とは、企業経営上の必要から、経営者と一体的な立場で労働条件の枠を超えて事業活動することもやむを得ないような重要な職務と権限を付与され、また、賃金等の待遇においても優遇措置が取られている者のことをいうとし、その上で、本件店長は、アルバイトの採用や育成、勤務シフトの決定等の権限を有し、店舗運営について重要な職責を負ってはいるがその権限は店舗内の事項に限られ、企業経営上の必要から経営者と一体的な立場での重要な職務と権限を付与されているとはいいがたく、賃金実態も管理監督者の待遇として十分とはいい難いとして、管理監督者に当たるとは認められないと判示した。
参照法条 : 労働基準法37条
労働基準法41条2号
体系項目 : 労働時間(民事)/裁量労働/裁量労働
労働時間(民事)/労働時間の概念/店長の就業時間
裁判年月日 : 2008年1月28日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成17(ワ)26903
裁判結果 : 一部却下、一部認容、一部棄却(控訴)
出典 : 時報1998号149頁
タイムズ1262号221頁
労経速報1997号3頁
審級関係 :
評釈論文 : 山本圭子・労働法学研究会報59巻8号18~23頁2008年4月15日 小川英郎・季刊労働者の権利274号100~105頁2008年4月 水町勇一郎・NBL882号22~29頁2008年6月1日 河津博史・銀行法務21.52巻7号45頁2008年6月 本久洋一・法学セミナー53巻7号125頁2008年7月 高谷知佐子・月刊監査役545号84~85頁2008年8月 岩出誠・ジュリスト1363号136~139頁2008年9月15日 山本圭子・労働判例963号5~15頁2008年10月15日
判決理由 : 〔労働時間(民事)-裁量労働-裁量労働〕
〔労働時間(民事)-労働時間の概念-店長の就業時間〕
 (ウ) 以上によれば、被告における店長は、店舗の責任者として、アルバイト従業員の採用やその育成、従業員の勤務シフトの決定、販売促進活動の企画、実施等に関する権限を行使し、被告の営業方針や営業戦略に即した店舗運営を遂行すべき立場にあるから、店舗運営において重要な職責を負っていることは明らかであるものの、店長の職務、権限は店舗内の事項に限られるのであって、企業経営上の必要から、経営者との一体的な立場において、労働基準法の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえような重要な職務と権限を付与されているとは認められない。  イ 店長の勤務態様について  (ア) 店長は、店舗従業員の勤務シフトを決定する際、自身の勤務スケジュールも決定することとなるが、各店舗では、各営業時間帯に必ずシフトマネージャーを置くこととされているので、シフトマネージャーが確保できない営業時間帯には、店長が自らシフトマネージャーを務めることが必要となる。  原告の場合、自らシフトマネージャーとして勤務するため、同年7月ころには30日以上、同年11月から平成17年1月にかけては60日以上の連続勤務を余儀なくされ、また、同年2月から5月ころにも早朝や深夜の営業時間帯のシフトマネージャーを多数回務めなければならなかった(甲4、原告本人)。その結果、後記第3、3(1)で認定するとおり、時間外労働が月100時間を超える場合もあるなど、その労働時間は相当長時間に及んでいる。  店長は、自らのスケジュールを決定する権限を有し、早退や遅刻に関して、上司であるOCの許可を得る必要はないなど、形式的には労働時間に裁量があるといえるものの、実際には、店長として固有の業務を遂行するだけで相応の時間を要するうえ(原告や証人Aの試算では、月150時間程度となっている。甲44、50)、上記のとおり、店舗の各営業時間帯には必ずシフトマネージャーを置かなければならないという被告の勤務態勢上の必要性から、自らシフトマネージャーとして勤務することなどにより、法定労働時間を超える長時間の時間外労働を余儀なくされるのであるから、かかる勤務実態からすると、労働時間に関する自由裁量性があったとは認められない。〔中略〕  (ウ) また、被告は、店長が行う労務管理、店舗の衛生管理、商圏の分析、近隣の商店街との折衝、店長会議等への参加等の職務は、労働時間の規制になじまないものであると主張する。  しかしながら、前記第3、2(3)ア記載のとおり、店長は、被告の事業全体を経営者と一体的な立場で遂行するような立場にはなく、各種会議で被告から情報提供された営業方針、営業戦略や、被告から配布されたマニュアル(甲45)に基づき、店舗の責任者として、店舗従業員の労務管理や店舗運営を行う立場であるにとどまるから、かかる立場にある店長が行う上記職務は、特段、労働基準法が規定する労働時間等の規制になじまないような内容、性質であるとはいえない。  ウ 店長に対する処遇について  (ア) 証拠(乙60)及び弁論の全趣旨によれば、平成17年において、年間を通じて店長であった者の平均年収は707万184円(この額が前記第3、2(2)カ(イ)記載のインセンティブプランからの支給額を含むのであるか否かは不明であるが、一応含まないものとして検討する)で、年間を通じてファーストアシスタントマネージャーであった者の平均年収は590万5057円(時間外割増賃金を含む)であったと認められ、この金額からすると、管理監督者として扱われている店長と管理監督者として扱われていないファーストアシスタントマネージャーとの収入には、相応の差異が設けられているようにも見える。  しかしながら、前記第3、2(2)カ(ア)で認定したとおり、S評価の店長の年額賃金は779万2000円(インセンティブを除く。以下同様)、A評価の店長の年額賃金は696万2000円、B評価の店長の年額賃金は635万2000円、C評価の店長の年額賃金は579万2000円であり、そのうち店長全体の10パーセントに当たるC評価の店長の年額賃金は、下位の職位であるファーストアシスタントマネージャーの平均年収より低額であるということになる。また、店長全体の40パーセントに当たるB評価の店長の年額賃金は、ファーストアシスタントマネージャーの平均年収を上回るものの、その差は年額で44万6943円にとどまっている(なお、被告の主張によると、店長の年額賃金には深夜割増賃金相当額(定額)として16万8000円(月額1万4000円×12)が含まれていることになるが(就業規則15条)、後記のファーストアシスタントマネージャーの月平均時間外労働時間に照らすと、深夜労働に対する賃金を除いた比較では、その差はより少額になるものと推認される)。  また、証拠(甲54)によると、店長の週40時間を超える労働時間は、月平均39.28時間であり、ファーストアシスタントマネージャーの月平均38.65時間を超えていることが認められるところ、店長のかかる勤務実態を併せ考慮すると、上記検討した店長の賃金は、労働基準法の労働時間等の規定の適用を排除される管理監督者に対する待遇としては、十分であるといい難い。  (イ) また、被告では、前記第3、2(2)カ(イ)で認定した各種インセンティブプランが設けられているが、これは一定の業績を達成したことを条件として支給されるものであるし(したがって、全ての店長に支給されるものではない)、インセンティブプランの多くは、店長だけでなく、店舗の他の従業員もインセンティブ支給の対象としているのであるから、これらのインセンティブプランが設けられていることは、店長を管理監督者として扱い、労働基準法の労働時間等の規定の適用を排除していることの代償措置として重視することはできない。  (ウ) なお、仮に、前記(ア)で検討した店長の平均年収が、上記のインセンティブプランに基づき支給されたインセンティブを含むものであれば、被告における店長の賃金が管理監督者に対する待遇として不十分であることは、一層明らかであるといえる。  エ 以上によれば、被告における店長は、その職務の内容、権限及び責任の観点からしても、その待遇の観点からしても、管理監督者に当たるとは認められない。  したがって、原告に対しては、時間外労働や休日労働に対する割増賃金が支払われるべきである。