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ID番号 : 08630
事件名 : 療養補償給付等不支給処分取消請求事件(4号)、障害補償給付不支給処分取消請求事件(12号)
いわゆる事件名 : 山口精機事件
争点 : 同僚の弁当を買って工場に戻る途中事故に遭い傷害を負った者が、療養補償給付等を求めた事案(労働者勝訴)
事案概要 : 金型製造会社の従業員が、当日夜勤のため出ていた同僚に依頼されて、自転車で社外に出て弁当を買って戻る途中交通事故に遭い、頸髄損傷等の傷害を負ったため療養補償給付等を申請したところ不支給とされたため、これの取消しを国に求めた事案である。 岐阜地裁は、〔1〕労働者災害補償保険法に基づく保険給付の対象は、業務上の事由等による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等の業務災害であるところ、業務災害といえるためには、労働者が労働契約に従って使用者の指揮命令ないし支配下にあることが必要と解され、〔2〕しかし、通常の業務運営上予定されていないような突発的な事態が発生した場合における労働者の行為が、当該事業者の業務運営上、緊急性、必要性があり、同事業者と労働契約を結んだ労働者として行うことが期待されるものであれば業務遂行性があるものと解すべきであり、〔3〕同僚の依頼を受け、夜食を手配するリーダーに代わって手配業務を行うことには、緊急性、必要性があり、会社の労働者として合理的に期待された行為であったと認められるとして、従業員の弁当購入行為に業務遂行性を認めた。
参照法条 : 労働者災害補償保険法7条
労働者災害補償保険法12条の8
労働者災害補償保険法13条
労働者災害補償保険法14条
労働者災害補償保険法15条
体系項目 : 労災補償・労災保険/業務上・外認定/通勤途上その他の事由
労災補償・労災保険/補償内容・保険給付/療養補償(給付)
労災補償・労災保険/補償内容・保険給付/障害補償(給付)
裁判年月日 : 2008年2月14日
裁判所名 : 岐阜地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18行(ウ)4、平成19行(ウ)12
裁判結果 : 認容(控訴)
出典 : タイムズ1272号169頁
労働判例968号196頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-通勤途上その他の事由〕
〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-療養補償(給付)〕
〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-障害補償(給付)〕
 2 業務遂行性の有無について   (1) はじめに  ア 労災保険法1条は、労働者災害補償保険は、業務上の事由等による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等(以下「業務災害」という。)に対して、迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行う旨定めている。  そして、同法は、労働者の業務上の負傷等に関する保険給付を定め(同法7条1項1号)、具体的な保険給付の種類として、療養補償給付(同法12条の8第1項1号)、休業補償給付(同項2号)、障害補償給付(同項3号)などを設けている。  イ すなわち、これらの各保険給付の対象は、業務災害であり、業務災害といえるためには、労働者が労働契約に従って使用者の指揮命令ないし支配下にあること(いわゆる「業務遂行性」)が必要であると解される。  ウ そして、負傷等の原因となった行為が、当該労働者の本来の担当業務や特別の業務命令に基づくものである場合に業務遂行性が認められることは当然であるが、このような場合でなくとも、通常の業務運営上予定されていないような突発的な事態が発生した場合に、特別な業務命令なく行った、自己の担当外の行為であっても、当該行為が、当該事業者の業務運営上、緊急性、必要性があり、同事業者と労働契約を結んだ労働者として行うことが期待されるものであれば、業務遂行性があるものと解するべきである。〔中略〕   (3) 業務遂行性の有無についての判断  ア 前記認定判断のとおり、放電班においては、できるだけ現物で夜食を支給するとの了解事項があったから、山口精機は、次郎に対し、平成14年1月2日の夜食を手配しておくべきであった。ところが、一色リーダーがその手配を失念していたため、山口精機は、同日、次郎が出勤した時点で、夜勤者が期待する夜食の手配を怠っていたことになる。そうすると、原告の本件買出行為は、客観的に見て、山口精機(一色リーダー)が怠った夜食の手配を肩代わりしたという見方ができる。  もっとも、放電班の夜勤者の夜食を手配することは、原告の担当業務でなく、本件買出行為は、特別な業務命令に基づく行為でないことも明らかであるから、本件買出行為に業務遂行性が認められるためには、山口精機の業務運営上、かかる行為に緊急性、必要性があり、同社の従業員として期待される行為であることが必要であると考えられる。以下このような緊急性、必要性があったかを検討する。  イ(ア) 前記認定事実によれば、山口精機においては、従業員が、休憩中に、夜食を買いに出掛けることは禁止されていなかったことが認められるものの、証人一色昭夫の証言(12頁)及び同次郎の証言(8、9頁)によれば、本件当日唯一の夜勤者であった次郎が工場外に夜食を買いに出掛けることは困難であったことが認められる。  そうすると、次郎は、平成14年1月2日、第三者に夜食の購入を依頼する以外に、夜食の支給を受けることは事実上不可能であったといわざるを得ない。  換言すれば、次郎が同日出勤した後の時点では、次郎以外の従業員(基本的には、普段夜食の手配業務を行っている一色リーダー)が、山口精機の次郎に対する上記債務を履行するため、通常夜勤者が夜食を食べる午前零時ころまでに次郎の夜食を手配する業務上の緊急の必要性があったものと解される。  (イ) ところで、前記認定事実によれば、次郎は、自分で管理棟のセキュリティシステムを解除することができないため、同僚であり、兄でもある原告に依頼して、出勤時に同行し、同システムを解除してもらったことが認められる。  そして、管理棟自体は、次郎の作業場所ではないが、タイムカードの打刻や着替えなど業務に付随する行為が行われる場所であることからすると、次郎が、平成14年1月2日に夜勤に従事するためには、誰かに管理棟のセキュリティシステムを解除してもらう業務上の必要性があったものと認められ、次郎と同居する同僚である原告が次郎の依頼を受けて同システムを解除したことは合理的な行動であり、原告のかかる行動には、業務遂行性があったものと認められる。  すなわち、原告は、他の業務(セキュリティシステムの解除)のため出勤し、その業務を終えたところで、次郎の夜食が手配されておらず、これを手配する緊急の必要がある事態に遭遇し、本件買出行為に及んだことになる。  (ウ) そして、コンビニエンスストア等で弁当を購入するという行為は、単純な作業で、誰でもこれを行うことが可能なものであり、原告又は次郎が、普段夜食を手配している一色リーダーにその旨知らせ、夜食を届けてもらうより、前記のとおり業務のため出勤し、その業務を終えた原告が弁当を購入しに出掛ける方が簡易、迅速であり、人件費等の面で会社にとっても有利であるから、原告が、次郎から依頼を受けて、一色リーダーに代わって、夜食の手配業務を行うことには、緊急性、必要性があり、山口精機の労働者として合理的に期待された行為であったと認められる。  ウ したがって、本件買出行為には、業務遂行性はあるものと認められる。〔中略〕  3 本件各不支給決定の違法性  前記2の認定判断のとおり、本件買出行為には業務遂行性が認められるから、本件買出行為に業務遂行性がないとして、本件各給付申請に対し、各給付を支給しないとした本件各不支給決定は、違法であると認められる。