全 情 報

ID番号 : 08633
事件名 : 配転無効確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 : 東日本電信電話・エヌ・ティ・ティエムイー事件
争点 : 電信電話会社従業員らが、首都圏への営業職としての配転の無効等を争った事案(労働者敗訴)
事案概要 : 電信電話会社が人件費削減を目的として新会社に外注委託することになった業務に従事していた従業員らが、当該新会社への出向か会社に在籍し続けるかで後者を選択した結果、担当業務がなくなったことを理由になされた首都圏への営業職としての配転は、職種・勤務地を限定する労働契約に反し、仮に会社に配転命令権があったとしても権利濫用に当たり無効であるとして配転先で勤務する義務のないことの確認等を求めた控訴審である。 第一審東京地裁は、会社の経営改革に合理性があり、かつ、従業員らへの配転命令にも業務上の必要性が認められるとして配転命令を有効と判断し、請求を棄却した。これに対し第二審東京高裁は、新会社への移行対象業務に従事していた従業員らを配転する業務上の必要性があり、本件雇用形態選択制度が選択を強制するものでない以上年齢差別には当たらず、したがって、不当な動機・目的があるとはいえないし、本件は労使が協議して策定した枠組みの中で行っており、配転を方便とした不利益処分ともいえないとして、一審判断を支持し、控訴を棄却した。
参照法条 : 労働基準法2章
民法623条
体系項目 : 配転・出向・転籍・派遣/配転命令の根拠/配転命令の根拠
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 : 2008年3月26日
裁判所名 : 東京高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成19(ネ)2475
裁判結果 : 棄却(上告)
出典 : 労働判例959号48頁
労経速報2003号3頁
審級関係 : 一審/08545/東京地/平19. 3.29/平成14年(ワ)20737号
評釈論文 :
判決理由 : 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠-配転命令の根拠〕
〔労働契約(民事)-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
中期経営改善施策の実施中も、競争激化により、NTTグループの市場でのシェアは、平成13年度時点で、長距離通信(県間通信)、地域通信(県内通信)とも減少し続けていたほか、固定電話契約者数も減少し、料金値下げ競争により収支が悪化し、平成13年11月時点で、被控訴人会社の営業収入も平成12年度の約2兆7900億円から平成13年度の約2兆5700億円と2200億円減少し、経常利益も平成12年度の141億円から平成13年度は約75億円に落ち込むことが判明し、平成14年度には更なる経常利益の減少が想定される事態となったことから、今後の営業収益の減少に耐え得るより抜本的、効率的な事業計画として、本件構造改革を実施することとしたものであるから、控訴人らの上記主張は理由がない。〔中略〕 控訴人らに対しては勤務場所又は職種が変更される旨を定める被控訴人会社社員就業規則60条又は被控訴人ME就業規則58条の適用があり、控訴人らと被控訴人らとの間では勤務場所や職種の限定が労働契約の内容となっていたとはいえないから、被控訴人らは業務上の必要に応じ、その裁量により控訴人らの勤務場所を決定することができるものというべきであるが、転勤、特に転居を伴う転勤は、一般に、労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないから、使用者である被控訴人らの転勤命令権は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することの許されないことはいうまでもないところ、当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときなど、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではないというべきであって、上記業務上の必要性についても、当該転勤先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当でなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきものである(東亜ペイント事件判決。最高裁昭和61年7月14日第二小法廷判決)。  そして、『労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など』は上記のとおり『企業の合理的運営に寄与する』といえるかどうかを判断する際の例示として掲げられているものであって、上記各例示に該当しないからといって直ちに『企業の合理的運営に寄与する』といえないことになるものではないが、本件においては、本件各配転が『労働力の適正配置』や『業務運営の円滑化』の観点からみて、『企業の合理的運営に寄与する』ものであることは前記のとおりである。  また、配転命令の業務上の必要を判断する場合に、何が企業の合理的運営に寄与するかは、配転命令が個々の事情に基づいて行われる場合と、本件のように労使が協議して策定した枠組みの中で全社的な事情に基づいて大量の配置転換命令を同時に行う場合とでは自ずと相違があるものといえるものであって、この点については、日産自動車村山工場事件判決(最高裁判所平成元年12月7日第一小法廷判決)が、10数年から20数年にわたって機械工として勤務していた約500名余の従業員のほぼ全員について、各人の経歴や経験技能や個人的希望等を個別的に考慮することなく他の部門に異動させ、全員に職種変更を生じた事案について、『本件異動を行うに当たり、対象者全員についてそれぞれの経験、職歴、技能等を各別にしんしゃくすることなく全員を一斉に村山工場の新型車生産部門へ配置替えすることとしたのは、労働力配置の効率化及び企業運営の円滑化等の見地からやむを得ない措置として容認し得るとした原審の判断は、正当として是認することができ』ると判断しているところである。  以上の検討結果によれば、本件各配転が労働者に利益をもたらさないから無効であるとの控訴人らの上記主張は理由がないことが明らかである。〔中略〕 控訴人らの当審における各控訴人の個別的な不利益についての主張は、いずれも基本的には原審からの主張の繰り返しであり、それについての判断は各控訴人について説示したとおりであって、控訴人らは本件各配転によって単身赴任や遠距離通勤を余儀なくされ、これによって控訴人ら及びその家族の寂しさや日常生活上の不便が生じていることはうかがえるものの、子の監護養育や親の介護に具体的な支障を生じたとまで認められず、また、配転に具体的な支障があったものともいい難く、単身赴任や遠距離通勤によって一般的に生じ得る範囲の不利益にとどまるものというべきである。そして、本件構造改革がインターネットを中心とするネットワークに移行しつつある通信業界の構造変化に対応するために被控訴人会社の人的物的リソースを収益力強化に資する部門に集中することを目指したものであって、満了型を選択して被控訴人会社にとどまった者については、市場性、収益性が高い首都圏エリアの法人営業に人員を集中させることが労働力の適正配置、業務の能率推進、業務運営の円滑化の観点から合理的な判断であること、また、満了型を選択した社員を地元の新会社に在籍出向させることは本件構造改革の中核である雇用形態選択制度に沿わないものである上、新会社で再雇用された社員の不公平感をあおり、その勤務意欲を削ぐ結果となることからみても、移行対象業務に従事していた控訴人らを配転する必要性は高く、その配転先として首都圏が候補とされたことにも業務上の必要性が認められるものといえるのであるから、控訴人らに生じた前記不利益は、配転に伴い労働者が通常甘受すべき程度の不利益にとどまるものというほかない。