ID番号 | : | 08643 |
事件名 | : | 地位確認等請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 松下プラズマディスプレイ事件控訴審判決 |
争点 | : | 電気機器製造会社の下請会社労働者が、発注会社に対して地位確認・賃金等を求めた事案(労働者勝訴) |
事案概要 | : | 電気機器製造会社の工場において、業務請負の形式を取りつつ、実際には電気機器製造会社が下請会社の労働者に対して直接指揮命令を行うという違法状態にあった後、短期雇用契約が結ばれ、雇止めされた事案において、労働者が、電気機器製造会社に対して雇用契約上の地位の確認等を求めた控訴審である。 第一審大阪地裁は、指揮命令関係があっても賃金支払関係がない場合は雇用契約関係は成立せず、労派遣法上の直接雇用についても、実際に契約の申込みがなく、その後6か月間の直接雇用を経てなされた雇止めは有効であるとして斥けたが、直接雇用契約締結までの経緯を勘案すると、労働者に精神的苦痛を与えたとして不法行為による賠償を命じた。これに対し第二審大阪高裁は、労働者・電気機器製造会社間の契約関係について、電気機器製造会社の指揮命令のもと電気機器製造会社従業員と混在して作業するという労働実態から、電気機器製造会社・下請会社間の契約は職安法44条及び労基法6条に違反し、強度の違法性を持つものとして公序に反し無効とした。また、黙示の合意による労働者・電気機器製造会社間の労働契約の成立についても、前記契約の無効を前提として、電気機器製造会社が労働者を直接指揮命令し、労働者はこれに対して労務を提供したとして、その成立を認めた。 |
参照法条 | : | 民法90条 民法623条 労働基準法6条 労働者派遣事業の適正運営確保及び派遣労働者の就業条件整備法35条の2 職業安定法44条 |
体系項目 | : | 労基法の基本原則(民事)/労働者/委任・請負と労働契約 労働契約(民事)/基準法違反の労働契約の効力/基準法違反の労働契約の効力 解雇(民事)/短期労働契約の更新拒否(雇止め)/短期労働契約の更新拒否(雇止め) 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償 |
裁判年月日 | : | 2008年4月25日 |
裁判所名 | : | 大阪高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成19(ネ)1661 |
裁判結果 | : | 一部変更、一部控訴棄却(上告) |
出典 | : | 時報2010号141頁 タイムズ1268号94頁 労働判例960号5頁 労経速報2009号7頁 |
審級関係 | : | 一審/08569/大阪地/平19. 4.26/平成17年(ワ)11134号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労基法の基本原則(民事)-労働者-委任・請負と労働契約〕 〔労働契約(民事)-基準法違反の労働契約の効力-基準法違反の労働契約の効力〕 〔解雇(民事)-短期労働契約の更新拒否(雇止め)-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕 〔労働契約(民事)-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕 2 雇用契約の成否及びその内容〔中略〕 平成16年3月20日以降も、1審被告は上記違法状態(幾多の労働者派遣法違反)下で1審原告を就業させることを認識していた若しくは容易に認識し得るものであったこと、平成17年4月27日に1審原告が就業状態が労働者派遣法等に違反していると認識して直接雇用を申し入れた後も1審原告をして就業させたこと等を考慮すれば、1審被告・パスコ間、1審原告・パスコ間の各契約は、契約当初の違法、無効を引き継ぎ、公の秩序に反するものとして民法90条により無効というべきである。 したがって、1審被告・パスコ間、1審原告・パスコ間の各契約は締結当初から無効である。〔中略〕 そうすると、無効である前記各契約にもかかわらず継続した1審原告・1審被告間の上記実体関係を法的に根拠づけ得るのは、両者の使用従属関係、賃金支払関係、労務提供関係等の関係から客観的に推認される1審原告・1審被告間の労働契約のほかなく、両者の間には黙示の労働契約の成立が認められるというべきである。〔中略〕 (3) 本件雇用契約3における期間の定めの有無、効力 1審原告・本件労働組合、1審被告の交渉を経て、本件契約書の作成により本件雇用契約3が締結されたことによって、別紙2のとおり、賃金が時給1600円となるなど、前記(1)の黙示の労働契約の内容が変更されたというべきところ、本件契約書には、契約期間を「平成17年8月22日から平成18年1月31日(但し、平成18年3月末日を限度として更新することがある。)」、業務内容を「PDPパネル製造-リペア作業及び準備作業などの諸業務」、契約更新を「契約の更新はしない(但し、平成18年3月末日を限度としての更新はあり得る)。契約の更新は、契約期間満了時の業務量、1審原告の勤務成績・態度・能力、1審被告の経営状態により判断する」との記載があるものの、1審原告は、同代理人弁護士作成の内容証明郵便をもって有期とされる契約期間と従前従事していた封着工程ではない業務内容につきこれを不利益としてそれぞれ異議を留めた上で、本件契約書を作成したものであるから、同契約書どおりの期間の定め、更新方法及び業務内容の合意が成立したとはいえず、他方、期間の定めのないこととする合意やPDP製造封着工程の業務に限ってこれを行うとの合意があったとも認められない。〔中略〕 4 雇用契約の帰趨 (1) 解雇の有無及びその効力 両者間の雇用契約は、平成17年8月22日の本件契約書による合意以降期間2か月毎に更新され、同年12月22日から同様に期間2か月として更新されていたから、1審被告が同月28日、平成18年1月31日の満了をもって1審原告との雇用契約が終了する旨通告し、その後その就業を拒否していることは、解雇の意思表示にあたる。 1審被告は、PDPリユース計画において必要となるテストサンプル数確保の目処が付いたなどとして上記意思表示をしたところ、前提となるリペア作業への配置転換は無効であり、上記封着工程の業務作業が終了したなどの事情は見当たらないから、上記解雇の意思表示は解雇権の濫用に該当し無効というべきである。 (2) 雇止めの成否 仮に解雇の意思表示でなく、雇止めの意思表示としても、上記契約は、期間2か月、かつ更新できるものであり、平成16年1月以降多数回に渡って更新されていた上、1審原告の従事していた封着工程は現在も継続されており明らかに臨時的業務でなく、その雇用関係はある程度の継続が期待されていたところ、上記のとおり、雇止めの意思表示は、解雇の場合には解雇権の濫用に該当するものであり、更新拒絶の濫用として許されないというべきである。 (3) したがって、1審原告は、1審被告に対し、別紙3の内容の雇用契約上の権利を有する地位にあるから、1審原告の請求は上記内容の権利を有する地位にあることを求める限度で理由がある。 (4) 賃金 1審原告が1審被告から受領した賃金は、上記解雇又は雇止めの意思表示の直近3か月である平成17年11月から平成18年1月まで月平均24万0773円(毎月末日締、翌月25日支払)であるから、1審原告はその主張どおり平成18年2月分以降、同額の賃金請求権を有し、口頭弁論終結後を含め、賃金支払請求を認めることができる。 したがって、1審原告の賃金支払請求は理由がある。 5 不法行為の成否 前記認定・説示によれば、1審被告が1審原告にリペア作業への従事を命じた業務命令並びに解雇又は雇止めの意思表示は不法行為を構成し、これによる1審原告の精神的苦痛に対する慰謝料は各45万円合計90万円をもって相当と認められる。 したがって、1審原告の不法行為に基づく慰謝料請求は、90万円及び内45万円に対する平成17年11月23日(不法行為〔リペア作業従事の業務命令〕後である訴状送達日の翌日)から、内45万円に対する平成18年3月9日(不法行為〔解雇又は雇止め)後である請求の趣旨の変更申立書送達日の翌日)から、各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。 |