全 情 報

ID番号 : 08650
事件名 : 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 : トラストシステム事件
争点 : 服務規律、職務専念義務違反を理由に解雇されたシステムエンジニアが地位保全等を求めた事案(労働者勝訴)
事案概要 : 情報処理業界向けのサービス業を営む会社YのシステムエンジニアXが、派遣先で繰り返し行った長時間にわたる電子メールの私的使用や、私的な要員派遣業務のあっせん行為が、服務規律、職務専念義務に違反していたとして解雇されたのは解雇権の濫用であるとして、地位保全と未払賃金の支払等を請求した事案である。 東京地裁はまず、本件はもともと合意解約であるとのYの主張については否認しつつ、会社が行ったのは懲戒解雇であって普通解雇ではないとのXの主張も否認した上で、XがIPメッセンジャーの機能を利用して就業時間中に頻繁に私的なやりとりをしていたことは服務規律や職務専念義務に違反するが、コンピューターなど情報機器を一定の限度において私的に利用することは通常黙認されていることや、Xの行為が本訴提起前には何ら問題とされていなかったことなどに照らすと、解雇事由として過大に評価すべきではなく、派遣要員のあっせん行為や能力不足も解雇を理由付けるほどのものとは認められないと判断し、本件は解雇権の濫用に当たるとして請求を認容した。
参照法条 : 労働基準法2章
体系項目 : 解雇(民事)/解雇事由/勤務成績不良・勤務態度
裁判年月日 : 2007年6月22日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成17(ワ)13295
裁判結果 : 一部認容、一部却下
出典 : 労経速報1984号3頁
審級関係 :
評釈論文 : 成田史子・ジュリスト1358号186~188頁2008年6月15日
判決理由 : 〔解雇(民事)-解雇事由-勤務成績不良・勤務態度〕
 1 合意解約の有無
 被告は、原告との雇用契約は合意解除された旨主張し、Bの陳述書(乙13)にはこれに沿い、同人が平成17年3月9日に原告に対し退職を勧告したところ、後刻原告から3月20日に退職したい旨の電話があり、さらに同月14日になって、電話で、自主退職はせず、会社都合による解雇として欲しい旨の申入れがあったため、被告の社長もこれに同意し、本件解雇の通知をしたものである旨の記載があるが、他方、原告本人はこれを否定する供述をしていること、仮にそのような経緯で形式的に解雇通知を発するに至ったのであれば、わざわざ詳細な経緯や理由を付した別紙を添付する必要もなかったのであるから、これらの点にかんがみて上記記載は直ちに採用し難く、他に上記主張を認めるに足りる証拠はない。
 したがって、雇用契約が合意解除された旨の原告の主張は、理由がない。
 2 本件解雇の意思表示の有無〔中略〕
被告が本件解雇の通知に当たり、その理由として添付した別紙の記載によれば、現状では原告が働くべき事業を探すことが難しく、このまま雇用を継続すれば被告に損失が生ずることが本件解雇の理由であることは容易に理解することができ、そこには、原告の非違行為等も挙げられず、企業秩序の維持のための解雇であることを窺わせる記載もないのであるから、本件解雇が懲戒解雇の趣旨ではないことは容易に看取し得るところであるというべきであり、退職金の支給がなかったことについては、原告が解雇の効力を争っている事実に照らしてこれを必ずしも重視することはできず、したがって、本件解雇の意思表示は普通解雇としての効力を認め得るというべきである。
 3 本件解雇についての解雇権濫用の有無〔中略〕
原告の私用メールなどについては、原告の義務に違反するところがあるといわざるを得ないが、これを解雇理由として過大に評価することはできず、また、要員の私的あっせん行為についても、そのような事実が窺われるとする余地はあるものの、これを認めるに足りず、このような被告が主張する服務規律違反、職務専念義務違反については、解雇を可能ならしめるほどに重大なものとまでいうことはできない。また、被告の指摘する原告の能力不足についても、上記のとおり、解雇を理由づけるほどまでに能力を欠いているとは認め難い。そして、これらの事情を総合すると、原告の勤務態度、能力につき全く問題がないとはいえないものの、これをもってしても、いまだ原告を解雇するについて正当な理由があるとまでいうことはできず、本件解雇は、解雇権の濫用として、その効力を生じないものといわざるを得ない。