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ID番号 : 08653
事件名 : 賃金等請求控訴事件
いわゆる事件名 : マッキャンエリクソン事件
争点 : 降級された広告代理店の従業員が、元の等級にあることの確認と差額賃金の支払を求めた事案(労働者勝訴)
事案概要 : 広告代理店の従業員が、給与等級7級(管理職)から6級(非管理職)に降級されたことを不服として、会社に対し、給与等級7級の地位にあることの確認と降級前後の差額賃金の支払を請求した事案である。 第一審の東京地裁は、元の等級にあることの確認を求めることの訴えの利益について、等級の違いは、差額賃金だけを決める指標にとどまらず、より広く会社における待遇上の階級をも表すものである以上、確認の利益があるとしたうえで、前記降級の基準は、著しい能力の低下・減退があったか否かによって判断されるのが相当であるところ、本件ではそのような事実は認められないとして、従業員の請求をほぼ認容した。 第二審の東京高裁は、元の等級にあることの確認を求めることの訴えの利益について、当事者間の紛争解決に有効な手段であり、確認の利益があると第一審同様の判断をし、会社の賃金規程において降級の基準を定め、降級は例外的なケースに備えての制度であるとの注釈を加えていたことは、降級を行うには、同基準に照らし、その根拠となる具体的事実を必要とし、その事実に基づき、本人の顕在能力と業績が、本人が属する資格に期待されるものと比べて著しく劣っていると判断することができることを要するのであり、本件ではそのような事実は認められないとして、原判決を維持した。
参照法条 : 民事訴訟法134条
労働基準法9章
体系項目 : 賃金(民事)/賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額/賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
裁判年月日 : 2007年2月22日
裁判所名 : 東京高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18(ネ)5492
裁判結果 : 棄却(確定)
出典 : 労働判例937号175頁
審級関係 : 第一審/東京地/平18.10.25/平成17年(ワ)2672号
評釈論文 : 水口洋介・季刊労働者の権利269号92~95頁2007年4月 原俊之・労働法学研究会報58巻16号22~27頁2007年8月15日 藤原稔弘・民商法雑誌139巻3号144~155頁2008年12月
判決理由 : 〔賃金(民事)-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額〕
 1 当裁判所も,被控訴人の請求のうち給与等級7級の労働契約上の地位を有することの確認請求は理由があり,差額賃金請求についても原判決が認容した限度で理由があるから,これらを認容すべきであるが,被控訴人のその余の請求は理由がないからこれを棄却すべきものと判断する。〔中略〕
 「降級の基準について上記のとおり定める新賃金規程が就業規則であることについては当事者間に争いがないところ,新賃金規程に基づき控訴人が行う人事評価は,事柄の性質上使用者である控訴人の裁量判断にゆだねられているものであるが,控訴人が就業規則である新賃金規程において上記のとおり本人の顕在能力と業績が属する資格(=給与等級)に期待されるものと比べて著しく劣っていることという降級の基準を定め,「本人の顕在能力と業績」に着目することにより,職務遂行上外部に表れた従業員の行為とその成果が当該資格に期待される水準に著しく劣っていることを降級の基準としているのであって,このことに,「降級はあくまで例外的なケースに備えての制度と考えています。著しい能力の低下・減退のような場合への適用のための制度です。通常の仕事をして,通常に成果を上げている人に適用されるものではありません。」との注釈を加えている趣旨にかんがみれば,新賃金規程の定める上記の降級の基準は使用者である控訴人の裁量を制約するものとして定められており,新賃金規程の下で控訴人が従業員に対し降級を行うには,その根拠となる具体的事実を必要とし,具体的事実による根拠に基づいて本人の顕在能力と業績が属する資格(=給与等級)に期待されるものと比べて著しく劣っていると判断することができることを要するものと解するのが相当である。〔中略〕
 「(ウ) 以上によれば,控訴人が従業員に対して降級を行うには,周知性を備えた就業規則である新賃金規程の定める降級の基準に従ってこれを行うことを要するのであり,新賃金規程の下で控訴人が従業員に対し降級を行うには,その根拠となる具体的事実を必要とし,具体的事実による根拠に基づき,本人の顕在能力と業績が,本人が属する資格(=給与等級)に期待されるものと比べて著しく劣っていると判断することができることを要するものと解するのが相当である。控訴人が人事評価の結果に即して降級の内規を定めて運用を行っていることは上記のとおりであるが,人事評価の結果当該内規に該当したからといって直ちに就業規則である新賃金規程の定める降級の基準に該当するものということはできないのであり,具体的事実による根拠に基づき,本人の顕在能力と業績が,本人が属する資格(=給与等級)に期待されるものと比べて著しく劣っていると判断することができることを要するものというべきである。したがって,本件降級処分が有効であるというためには,控訴人は,根拠となる具体的事実を挙げて,本人の顕在能力と業績が,本人が属する資格(=給与等級)に期待されるものと比べて著しく劣っていることを主張立証することを要するものというべきである。以下,この見地から検討を進めることにする。」〔中略〕
「被控訴人に対する本件降級処分が有効であるというためには,控訴人は,具体的事実による根拠を挙げて,被控訴人の顕在能力と業績が7級に期待されるものと比べて著しく劣っていると判断することができるものであることを示す必要があるというべきところ,」に改める。
 3 以上によれば,被控訴人の請求のうち給与等級7級の労働契約上の地位を有することの確認請求は理由があり,差額賃金請求についても原判決が認容した限度で理由があるから,これらを認容すべきであるが,被控訴人のその余の請求は理由がないからこれを棄却すべきである。