ID番号 | : | 08657 |
事件名 | : | 遺族補償給付及び葬祭料不支給処分取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | アイランド包装・羽曳野労働基準監督署長事件 |
争点 | : | 心筋梗塞で死亡した包装加工会社の労働者の妻が遺族補償給付等の不支給処分取消しを求めた事案(妻敗訴) |
事案概要 | : | 60歳を超えて役員待遇として包装加工会社に雇用され、自宅で心筋梗塞を発症し死亡した労働者Aの妻Xが遺族補償給付及び葬祭料を請求し、不支給決定がなされたため、その取消しを求めた事案である。 大阪地裁はまず、虚血性心臓疾患(心筋梗塞など)は、Aが従事した業務が過重であったため血管病変などをその自然の経過を超えて増悪させ、虚血性心臓疾患を発症させた場合には業務に内在する危険が現実化したとして業務起因性(相当因果関係)を認めることができる、と判断の基準を示した。 次に、死亡したAの時間外労働時間数は発症までの6か月間において月に70時間を超える時期があったが、これを大きく下回る時期も相当程度あったこと、週1日以上は休暇で就労していなかったこと、また、同人は他の社員から指揮命令を受けておらず、業務との関連性が明らかでない雑談などで時間を過ごしていたこともあったこと、その業務内容は、他の社員に対するアドバイスなどで業務遂行の結果につき職務上の責任を負うようなものではなかったことなどから、労働時間の長さ及び労働の内容の両面において過重負荷だったとは認められず、業務起因性は認められないとして、Xの請求を棄却した。なお、Aは自動車を運転して片道約1時間20分をかけて通勤していたが業務過重性判断において通勤時間を単純に加算することは相当ではないとした。 |
参照法条 | : | 労働者災害補償保険法16条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険/業務上・外認定/業務起因性 労災補償・労災保険/補償内容・保険給付/遺族補償(給付) 労災補償・労災保険/業務上・外認定/脳・心疾患等 |
裁判年月日 | : | 2007年3月14日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成17行(ウ)50 |
裁判結果 | : | 棄却(控訴) |
出典 | : | 労働判例948号60頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕 〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-遺族補償(給付)〕 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕 虚血性心臓疾患(心筋梗塞等)に関する病態,発症機序及び医学的知見等(〈証拠省略〉)に照らすと,虚血性心臓疾患は,通常,基礎となる血管病変等が,日常生活上の種々の要因により,徐々に進行・増悪して発症に至るものであって,労働者が従事した業務が過重であったため,血管病変等をその自然の経過を超えて増悪させ,虚血性心臓疾患を発症させた場合には,業務に内在する危険が現実化したとして業務起因性(相当因果関係)を認めることができる。〔中略〕 Cのタイムカードに記載された就業時間は,月に70時間を超える時期があったが,これを大きく下回る時期も相当程度あったといえる(このことは,別紙1のとおり,平成11年12月26日から平成12年12月14日までの1年間を各月ごとにみても大きくは異ならない。)。 また,〔中略〕Cは,別紙1の「労働時間」の欄のとおり,平成12年12月15日の胸痛発症前の6か月間,毎週日曜日は就労しておらず,土曜日は25日のうち15日就労しておらず,結局,休日等で就労しなかった日数は,発症前1か月(11月15日~12月14日)で8日,発症前2か月(10月16日~11月14日)で7日,発症前3か月(9月16日~10月15日)で8日,発症前4か月(8月17日~9月15日)で8日,発症前5か月(7月18日~8月16日)で11日,発症前6か月(6月18日~7月17日)で9日であったと算定され,前記時間外労働時間数と併せみると,Cは,時間外労働時間数が比較的多い時期においても,週1日以上は休日等で就労しておらず,2日以上連続して就労しないことも少なくなかったと認められる。 加えて,〔中略〕Cは,入社当初,D社長から業務内容を伝えられた後は,D社長及び他の社員から業務について具体的な指揮命令を受けておらず,自分で具体的な業務内容及び就労時間について判断していたこと,午前8時ころに出勤して社内掃除をした後,所定就業時間である午前8時30分から午後5時30分まで(うち所定休憩時間1時間)業務に従事しており,他の従業員とともに,相当時間にわたり社内で現場作業等に従事していたこともあったが,この他に,事務所内の机の前で,本を読んだり,他の社員と雑談をしたりする等,業務との関連性が明らかではない時間を過ごしていたこともあったことが認められる。〔中略〕 Cのタイムカードに記載された就業時間は,恒常的に長時間に及ぶものであったとは認められない。 また,前記<1>(当番)については,当番があったと主張される日が本件発症の9か月以上前であり,当番を担当したことが,Cの業務の過重性に関する判断を左右するものとはいえない。〔中略〕 前記<2>(棚卸作業)については,〔中略〕Cが年2回(3月下旬,9月下旬),会社での棚卸作業に従事し,その際に終業時刻が遅くなっていたことは認められるが,棚卸作業の期間は1回に数日程度であり,Cの業務内容及び就労態様〔中略〕に照らすと,棚卸作業に従事していたことをもって業務が過重であったとは認められない。 前記<3>(東京出張)については,平成12年4月7日,株式会社g産業の代表者と東京に出張したというもので,本件発症から8か月以上前の1日のことであり,業務の過重性に関する判断を左右するものではない。 以上のとおり,前記<1>ないし<3>は,いずれもCの業務の過重性を根拠付けるものとはいえない。〔中略〕 Cの業務内容は,<1>生産管理及び営業について,他の社員から相談を受け,アドバイスをする,<2>営業について,入社当初,得意先を紹介するために営業担当者に同行する,<3>午前8時から30分程度,他の社員とともに社内清掃に従事する,<4>週何日か,情報収集のために関連会社に出かける,<5>週何日か,抹茶ミルクの包装作業の際,作業現場に立ち会い,時には作業の応援をする,<6>年2回の棚卸しの際,棚卸作業の応援をする,等というものであり,営業に関するノルマ等,自己の業務遂行の結果につき職務上の責任を負うような立場になかったことが認められる。 また,〔中略〕抹茶ミルクの包装作業は,主に50歳以上の女性パートが分担して作業に従事するものであり,作業内容は,1日に数回程度のハンドリフトによる運搬作業を含め,いずれも特に力を要するような作業ではなかったこと,Cは,抹茶ミルクの作業現場に立ち会っていたが,これは,日本ヒルスコーヒーの在職中,抹茶ミルクの商品開発に携わっていたことから,D社長に対し,抹茶ミルクの作業現場に立ち入りたいと申し出たことによるものであったことが認められる 加えて,Cが,その業務内容及び就労態様について,D社長及び他の社員から指揮監督を受けておらず,自分で具体的な業務内容及び就労態様について判断していたことは,前記(2)アのとおりである。〔中略〕 前記<1>(製造現場への関与)については,〔中略〕Cが現場作業に立ち会うのは,抹茶ミルクの包装作業が行われる週に数日程度であり,緊急を要する際,作業人員が足りない際等に応援として現場作業に従事していたことは認められるが,作業の内容自体は過重なものとは認められず,また,この包装作業が行われる際,Cが常に作業に従事していたとまでは認められない。 前記<2>(Cの制服の汚れ)については,〔中略〕Cが,抹茶ミルクの包装作業の際,会社から貸与された制服1着を着用して作業室Aに入っていたこと,この制服を週末に自宅に持ち帰り,その都度,原告が洗濯していたことは認められるが,原告の供述等を考慮しても,Cの制服の汚れをもって,Cが会社での現場作業に長時間従事していたことを認めることはできない。 前記<3>(会社に対する貸金)については,Cが従事した業務の内容に直接関連する性質のものとは認め難く,この貸金に関する事情は業務の過重性に関する判断を左右するものとはいえない。〔中略〕 Cが従事した業務は,労働時間の長さ及び労働の内容の両面において,心筋梗塞の発症に至るような過重負荷になるものであったとは認められない。このことは,発症の日を平成12年12月15日と考えても,結論に変わりない。 イ たしかに,〔中略〕Cは,自動車を運転して片道約1時間20分をかけて会社に通勤していたことが認められ,また,その結果,Cは,終業時刻が遅くなった際,睡眠時間を長くとも5時間程度しかとれない日があったことが窺われる。しかし,少なくとも業務の過重性の判断において,通勤時間を単純に加算して労働時間を算定することは相当とはいえない。 また,原告は,Cが,スポーツマンタイプで,健康状態に特段問題がなかったにもかかわらず,a包装に入社した後は,自宅でも疲れる様子をみせ,平成12年夏ころから,傍から見てもやせて,食欲も減退し,無口で愛想がなくなる等,疲労が激しい状態であったと主張するが,前記1(4)のとおり,Cは,そのころ,出血性胃潰瘍及び大腸憩室症と診断され,c医院において治療を受けていたのであるから,上記のような健康状態であっても不思議ではない。また,Cが,a包装に雇用されたのは平成11年7月であるが,その前である平成10年12月12日にも,同様の症状を呈し,c医院において治療を受けたことが窺われ,平成12年夏ころの健康状態について,a包装における業務の過重性との関係を認めるのは困難である。〔中略〕 ウ 以上を総合すると,Cの死亡につき業務起因性があるとは認められない。 4 結論 よって,Cの死亡が業務上の事由によるものではないとして,遺族補償給付及び葬祭料を不支給とした本件処分は適法であり,本件処分の取消しを求めた原告の本訴請求は理由がないから棄却することし,主文のとおり判決する。 |