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ID番号 : 08658
事件名 : 賃金請求事件
いわゆる事件名 : 国民銀行事件
争点 : 解散した銀行に対し、元従業員が時間外勤務手当を請求した事案(元従業員敗訴)
事案概要 : 経営が破綻し清算手続中である銀行Yに対し、元従業員(X1ら15名。現在は営業譲渡先の銀行Aに再雇用され勤務中)が、始業前時間外勤務に対する時間外勤務手当の支払を請求した事案である。 東京地裁は、同請求は、労働基準法115条により2年を経過していることから時効により消滅したと判断した上で、債務承認がなされているとのXらの主張については、債務者が時効の完成後に債務の承認をした場合には、時効完成の事実を知らなかったときでも、信義則に照らし、その後その債務についてその時効の完成を援用することは許されないと解すべきであるところ、時間外勤務手当に関する銀行側(代表清算人ら)の立場は既に時効が完成している以上支払うことはできないというものであり、時効完成後に行われた団体交渉においても一貫してその旨を説明することに終始し、それと異なる趣旨の発言は一切していないことが認められるとして、X1らが主張する時効中断事由についていずれも認めず、Yの時効援用を認め、元従業員らの請求を棄却した。
参照法条 : 労働基準法115条
体系項目 : 賃金(民事)/割増賃金/支払い義務
雑則(民事)/時効/時効
賃金(民事)/賃金の支払い原則/賃金請求権と時効
裁判年月日 : 2007年7月11日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成16(ワ)27709
裁判結果 : 棄却
出典 : 労経速報1978号23頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔賃金(民事)-割増賃金-支払い義務〕
〔雑則(民事)-時効-時効〕
〔賃金(民事)-賃金の支払い原則-賃金請求権と時効〕
 1 消滅時効の成否について
  (1)原告らは平成10年8月分から平成12年8月分までの時間外勤務手当を請求するところ,同手当は賃金としての性質を有するものであるから,2年間これを行使しないことにより時効によって消滅する(労基法115条)。本件訴訟を提起したのが平成16年12月27日であることは裁判所に顕著な事実であり,原告の請求する直近の時間外勤務手当の支払時期(平成12年9月20日)から起算しても2年が経過していることは明らかであるから,時効中断等が認められない限り,原告の請求は棄却を免れない。そこで,原告らの主張する時効中断事由について判断する。〔中略〕
組合の上記申入れは,職員に対する一時金,退職金の支払ないしは上乗せをめぐる交渉の中で,支払の根拠の1つとして挙げられたものにすぎず,時間外勤務手当そのものを請求したものとは評価しがたいばかりか,上記申入れに対しても被告はこれに応ずるかのような発言をした事実は一切認められないのであるから(かえって,後記(3)によれば,組合は始業時間前の時間外勤務について時間外勤務手当の支払を求めたのは平成16年2月17日の第2回団体交渉においてが最初だったことが認められるのであり,このことに照らすと,未だその請求がない平成12年8月7日の時点で被告がこれを認めるということはそもそもあり得ないことである。),この日において原告らの主張する債務の承認があったと認めることはできない。
 したがって,債務の承認についての原告らの主張は理由がない。〔中略〕
原告らは,被告が上記一連の団体交渉において時間外勤務手当を支払う旨の発言をしたと主張し,中でも,平成16年7月13日には,「実際に調べてみて,我々が見ても時間外労働手当の未払はあった。結果が出て未払があれば,それについて労基署に報告する。」と発言し,賃金未払の事実を認めたと主張する。しかし,平成16年7月13日の団体交渉の際の発言については,A代表清算人は,終業時刻後の時間外勤務の実態についての調査について言及したことは認めるものの,本件訴訟において原告らが請求する始業時刻前の時間外勤務に関して時間外勤務手当を支払う旨の発言をしたことは明確に否定する供述をし(被告代表者の尋問調書16,19頁),他には同発言をしたと認めるに足りる証拠はないばかりか,かえって,B委員長は,証人として,被告が始業時刻前の時間外勤務に対して時間外勤務手当を支払う旨の発言はしていない旨を明確に認めているばかりでなく,被告側が既にした時効の援用を撤回する旨の発言はしていないことも明確に認めるなど(同証人の証言調書27,37頁),上記発言とは全く正反対の供述をしているのであって,このことに照らしても,上記主張は採用することができない。
 さらに,B証人は,被告の担当者が「裁判とか和解になれば支払う」,「はっきりしたものは支払わなければならない」などと述べたとも供述するが(同26,36,37頁),かかる発言は法的義務があることが認められれば支払うというごく当然のことを述べたにすぎないことが明らかであり,仮に同発言があったとしても,これをもって時間外勤務手当を支払う旨の発言と認める余地はない。
   ウ 以上の認定事実を総合すると,組合が上記一連の団体交渉前に始業時刻前の時間外勤務について時間外勤務手当を請求した事実はなく,組合もそのことを前提として交渉に臨んでいたこと,始業時刻前の時間外勤務についての時間外勤務手当に関する被告の立場は,既に時効が完成している以上支払うことはできないというものであり,団体交渉においては一貫してその旨を説明することに終始し,それと異なる趣旨の発言は一切していないことが認められる。
 そうすると,時効の援用が信義則上許されないとする原告らの主張はその前提を欠くことになる。
  (4)以上のとおりであるから,原告らの主張する時効中断事由についてはいずれもこれを認めることができない。