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ID番号 : 08670
事件名 : 損害賠償等請求事件
いわゆる事件名 : 阪急交通社(男女差別)事件
争点 : 旅行代理店会社の元女性従業員が、在勤中の職能資格等級の差別的取扱いを理由に損害賠償を請求した事案(労働者一部勝訴)
事案概要 : 旅行代理店会社Yに勤めていた元女性従業員Xが、在勤中に職能資格等級につき女性であることを理由に差別的な取扱いを受けたとして、不法行為を理由とする損害賠償として、差別がなければ格付けされ支給を受けることのできたであろう賃金等と既払い賃金等との差額分の支払い及び慰謝料を請求した事案である。 東京地裁は、Y社では従業員について男性を優遇し、女性を上位の職能等級に登用しない傾向にあり、Xについてもそのような会社の処遇傾向が当てはまり、YのXに対する平成2年以降の処遇は妥当性を欠くものとして、あるいは少なくとも平成11年以降は上記のような不当な取扱いが推認されるものとして不法行為を構成するものといわざるを得ず、それゆえXは不当な差別待遇により低い等級に据え置かれることにより、その後に現実に支給された賃金との差額相当分の損害を被ったものと認定した。ただ、その範囲はXの職能等級の昇格につき証拠上認定可能な年限昇格制による保障の限度に止まるとした上で、消滅時効にかからない期間(催告から3年以内)の賃金格差に限り損害として認めた(慰謝料についても一部認容)。
参照法条 : 労働基準法4条
労働基準法2章
民法709条
民法710条
体系項目 : 労基法の基本原則(民事)/均等待遇/男女別コ-ス制・配置・昇格等差別
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償請求
裁判年月日 : 2007年11月30日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成17(ワ)27196
裁判結果 : 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 : 労働判例960号63頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔労基法の基本原則(民事)-均等待遇-男女別コ-ス制・配置・昇格等差別〕
〔労働契約(民事)-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
被告は、従業員につき男性を優遇し、女性を上位の職能等級に登用しない傾向にあり、原告についてもそのような被告の処遇傾向が当てはまり、被告の原告に対する処遇は平成2年以降は妥当性を欠くものとして、あるいは少なくとも平成11年以降は上記のように不当な取扱いが推認されるものとして不法行為を構成するものといわざるを得ない。
 それゆえ、原告は、平成2年4月1日以降、少なくとも監督職3級の職能等級による賃金を得ることができたのに、被告の原告に対する不当な差別待遇により一般職1級、その後はJ―1に据え置かれることにより、その後の現実に支給された賃金との差額相当分の損害を被ったものである。〔中略〕
損害を知るとは、その程度や数額を具体的に詳細に知ることまでを要するものとはいえないこと、原告は同年度入社の男性社員と比べて職能等級が低いことを在職当時から認識しており、職能等級の金額については被告の労働組合から発行されている組合員必携などによる賃金関係の資料を参照してある程度は特定可能であることからすると、原告が被告を退職した時点において、被告に対する賠償請求が事実上可能な程度には原告は自分の昇格差別による損害を知っていたものと考えられ、比較対照者に支給されている賃金の具体的な数額を単に確定し得ないからといって原告が本訴提起直前まで権利行使をし得なかったとはいえないものというべきである。〔中略〕
 原告は、被告の原告に対する不当な男女差別による退職金及び一時金(賞与)を含む賃金の差額分を損害として賠償請求しているところ、月例賃金及び一時金(賞与)については、継続的・回帰的給付として、各支給日に相当する日に損害としての差額が発生していると考えることができ、上記のように平成16年12月16日から遡って平成13年11月25日支給分(11月分)までの賃金及び同年12月10日支給分の一時金(賞与)については既に3年以上経過しているから消滅時効が完成していることになり、同年12月分の既払い賃金とこの時点のS―3の月例賃金との差額分についてのみ時効が完成していないものと考えられる。
 その金額は、原告が退職時に既にJクラスの最上号の月額11万4000円(第1基本給)を受給していたようであることからすると、証拠(〈証拠略〉)によれば、原告が平成2年4月1日にS―3へ昇格していて、その後平成13年12月の退職時までの11年間同職級にあったとして、仮に原告の第1基本給がS―3の第1基本給の上限の月額14万8000円であったとして、第2基本給については、平成2年に原告が監督職(S―3)に昇格していたとすると、平成13年時には毎年1号昇号するとして平成2年4月1日にS―3になったとすると平成13年の退職時には12号の11万0400円になっていて、資格手当として6万9800円として(役付手当は前記のようにポスト(職位)と職能資格はリンクしていないことからすると、原告の請求には理由がないものというべきである。)、別紙賃金債権目録1(月例賃金)の退職時の原告に支給された賃金額合計29万2840円との差額は3万5360円となる。それゆえ、原告は被告に対し、消滅時効の成立していない平成13年12月分の賃金分につき1月当たりの差額分である3万5360円を請求できることになる。
 次に、退職金について見るに、原告が受け取ることができるのは、〈1〉基礎額に定年まで勤務したとする勤続年数に対応した係数を乗じた通常の退職金額、〈2〉早期退職特別加算金700万円(満54歳)、〈3〉期間限定特別加算金の合計額である。
 そして、弁論の全趣旨(原告最終準備書面添付資料13ないし15)によれば、原告に実際に支給された退職金は、上記〈1〉と〈2〉の合計が2180万1394円であるところ、上記〈1〉の通常の退職金については、退職金算定基礎額は、第一退職金基礎額が仮にS―3の上限として14万2830円、第二退職金基礎額が平成2年に監督職(S―3)に昇格したとして毎年1号ずつ昇号したとして12号の4万5700円、移行調整金として、第一退職金基礎額見合分がS―3の12号として5640円と第二退職金算定基礎額見合分600円の合計19万4770円×支給率74.42(定年まで勤務したとみなした場合の支給率)に〈2〉の700万円を合計しても上記既払い金額を下回るので差額は生じず、期間限定特別加算としても、既払金額が499万4000円のところ、上記第一退職金基礎額14万2830円と第二退職金基礎額4万5700円に移行調整金が上記同様に既払金額で計上されている3万6520円を上回るものでない以上、その合計金額に20ヶ月を乗じたとしても原告が既払金額として受け取った499万4000円を上回ることはできない。
 それゆえ、退職金については原告には差額は生じていないものといわなければならない。
 さらに、慰謝料について見るに、前記の争点(1)において認定判断したように、原告は平成2年4月1日以降平成13年12月28日の退職日まで本来であれば監督職(S―3)に職能等級が昇格することができていたはずのところを被告の不当な査定により一般職(J―1)に据え置かれ、〔中略〕その間、原告は上司なり被告に直接あるいは組合を通じてどうして自分が昇格しないのかを繰り返し問い続け、昇格しないことが原告にとって相当程度のストレスなり精神的負担となっていたことが認められる。このような原告の精神的な負担なり重みについては、上記消滅時効との関係で年度毎に分断して金額を算定することは難しいほか、むしろ、平成2年以降で考えたとしても原告の上記のような行動態様にかんがみると年次を追うごとにその精神的な負担は増大するものと考えることができるから最後の年の平成13年12月16日以降の分として捉えることもまた難しいものといわなければならない。
 上記のような事情に加えて、前記2、争点(1)で認定判断したように被告が原告以外にも女性を上位の職能等級に登用しない傾向を有し、会社の上層部を含む組織的な不当な対応をしていること、原告自身も昇格しないことへの苛立ちと苦痛から会社へ嫌気がさして早期退職を選択するに至っている面が見受けられることなど、結局のところ、本件記録に現れた一切の事情を斟酌したとして、積年の原告の精神的な苦痛を慰謝するためには100万円を慰謝料として定めるのが相当と考える。
 そして、本件事案の内容、困難度、審理の経過、認容額、その他一切の事情を総合して、相当因果関係のある弁護士費用として20万円を認めるのが相当である。
 したがって、被告は上記に認定判断したところの合計額の債務を負っており、原告は不法行為による損害賠償として上記請求をしているところ、当該債務は期限の定めのない債務であり、催告を要することなく損害の発生と同時に遅滞に陥るものであると考えられることからすると、原告が請求している訴状送達日とされる時点では被告は上記債務について既に遅滞に陥っているものというべきである。