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ID番号 : 08671
事件名 : 労働者災害補償保険給付不支給処分取消請求上告事件
いわゆる事件名 : 藤沢労基署長(大工負傷)事件
争点 : 大工が、指の切断による労災申請に対する不支給処分の取消しを求めた事案(大工敗訴)。
事案概要 : 工務店Aが受注したマンション建築工事について請負で内装作業に従事していた大工Xが、右手中指、環指、小指を切断したことを理由に請求した療養補償給付及び休業補償給付について不支給とした労働基準監督署長Yの処分の取消しを求めた事案である。 第一審の横浜地裁は、労災保険法にいう労働者の概念は労働基準法上の概念と同義であるとした上で、Xは下請業者による指揮監督の下に労働していたとはいえず、報酬も作業時間と無関係に定められるものが大部分であり、自ら所有する工具で作業をすることが多いなど事業者性が認められ、専属性も高くはなかったなどとして、労働者性を否認しXの請求を棄却、第二審の東京高裁も、第一審を支持した。 上告審の最高裁第一小法廷は、本件作業の実態を第一審・第二審判決と同様に認定し、労務の提供には当たらず、報酬も仕事の完成に対して支払われたものであって労務提供の対価と見るのは困難であるとして労働者性を否認し、Xの上告を棄却した。
参照法条 : 労働基準法9条
労働者災害補償保険法7条1項
体系項目 : 労基法の基本原則(民事)/労働者/委任・請負と労働契約
労災補償・労災保険/労災保険の適用/使用者・事業主
裁判年月日 : 2007年6月28日
裁判所名 : 最高一小
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成17行(ヒ)145
裁判結果 : 棄却(確定)
出典 : 労働判例940号11頁
裁判所時報1438号1頁
時報1979号158頁
タイムズ1250号73頁
審級関係 : 第一審/08296横浜地/平16. 3.31/平成15年(行ウ)9号
控訴審/東京高/平17. 1.25/平成16年(行コ)174号
評釈論文 : 本久洋一・法学セミナー53巻1号119頁2008年1月 川口美貴・労働法律旬報1667号15~24頁2008年3月10日 宮里邦雄、高井伸夫、千種秀夫・労働判例951号92~97頁2008年4月1日 藤原稔弘・判例評論592(判例時報1999)196~201頁2008年6月1日 國武英生・日本労働法学会誌111号150~158頁2008年5月 谷口豊・平成19年度主要民事判例解説〔別冊判例タイムズ22〕320~321頁2008年9月 日野勝吾・東洋大学大学院紀要45号1~24頁2009年3月
判決理由 : 〔労基法の基本原則(民事)-労働者-委任・請負と労働契約〕
〔労災補償・労災保険-労災保険の適用-使用者・事業主〕
 1 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 (1) 上告人は、作業場を持たずに1人で工務店の大工仕事に従事するという形態で稼働していた大工であり、株式会社A(以下「A」という。)等の受注したマンションの建築工事についてB株式会社(以下「B」という。)が請け負っていた内装工事に従事していた際に負傷するという災害(以下「本件災害」という。)に遭った。
 (2) 上告人は、Bからの求めに応じて上記工事に従事していたものであるが、仕事の内容について、仕上がりの画一性、均質性が求められることから、Bから寸法、仕様等につきある程度細かな指示を受けていたものの、具体的な工法や作業手順の指定を受けることはなく、自分の判断で工法や作業手順を選択することができた。
 (3) 上告人は、作業の安全確保や近隣住民に対する騒音、振動等への配慮から所定の作業時間に従って作業することを求められていたものの、事前にBの現場監督に連絡すれば、工期に遅れない限り、仕事を休んだり、所定の時刻より後に作業を開始したり所定の時刻前に作業を切り上げたりすることも自由であった。
 (4) 上告人は、当時、B以外の仕事をしていなかったが、これは、Bが、上告人を引きとどめておくために、優先的に実入りの良い仕事を回し、仕事がとぎれないようにするなど配慮し、上告人自身も、Bの下で長期にわたり仕事をすることを希望して、内容に多少不満があってもその仕事を受けるようにしていたことによるものであって、Bは、上告人に対し、他の工務店等の仕事をすることを禁じていたわけではなかった。また、上告人がBの仕事を始めてから本件災害までに、約8か月しか経過していなかった。
 (5) Bと上告人との報酬の取決めは、完全な出来高払の方式が中心とされ、日当を支払う方式は、出来高払の方式による仕事がないときに数日単位の仕事をするような場合に用いられていた。前記工事における出来高払の方式による報酬について、上告人ら内装大工はBから提示された報酬の単価につき協議し、その額に同意した者が工事に従事することとなっていた。上告人は、いずれの方式の場合も、請求書によって報酬の請求をしていた。上告人の報酬は、Bの従業員の給与よりも相当高額であった。
 (6) 上告人は、一般的に必要な大工道具一式を自ら所有し、これらを現場に持ち込んで使用しており、上告人がBの所有する工具を借りて使用していたのは、当該工事においてのみ使用する特殊な工具が必要な場合に限られていた。
 (7) 上告人は、Bの就業規則及びそれに基づく年次有給休暇や退職金制度の適用を受けず、また、上告人は、国民健康保険組合の被保険者となっており、Bを事業主とする労働保険や社会保険の被保険者となっておらず、さらに、Bは、上告人の報酬について給与所得に係る給与等として所得税の源泉徴収をする取扱いをしていなかった。
 (8) 上告人は、Bの依頼により、職長会議に出席してその決定事項や連絡事項を他の大工に伝達するなどの職長の業務を行い、職長手当の支払を別途受けることとされていたが、上記業務は、Bの現場監督が不在の場合の代理として、Bから上告人ら大工に対する指示を取り次いで調整を行うことを主な内容とするものであり、大工仲間の取りまとめ役や未熟な大工への指導を行うという役割を期待して上告人に依頼されたものであった。
 2 以上によれば、上告人は、前記工事に従事するに当たり、Aはもとより、Bの指揮監督の下に労務を提供していたものと評価することはできず、Bから上告人に支払われた報酬は、仕事の完成に対して支払われたものであって、労務の提供の対価として支払われたものとみることは困難であり、上告人の自己使用の道具の持込み使用状況、Bに対する専属性の程度等に照らしても、上告人は労働基準法上の労働者に該当せず、労働者災害補償保険法上の労働者にも該当しないものというべきである。上告人が職長の業務を行い、職長手当の支払を別途受けることとされていたことその他所論の指摘する事実を考慮しても、上記の判断が左右されるものではない。
 以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。