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ID番号 : 08672
事件名 : 解雇無効確認等請求事件(935号)、労働契約上の地位確認等請求事件(523号)
いわゆる事件名 : 協同商事(懲戒解雇)事件
争点 : 運送会社の運転手らが懲戒解雇権の濫用を争い、地位確認・賃金支払等を求めた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 : 運送会社Yにおいて、〔1〕服務規定違反を理由に懲戒解雇された運転手X1~X3(甲事件)、〔2〕配転命令違反や無断欠勤などを理由に懲戒解雇された運転手X4~X7(乙事件)が、それぞれ解雇権の濫用を争い、地位確認・賃金支払等を求めた事案である。 さいたま地裁川越支部は、〔1〕甲事件について、勤務態度不良や始末書の提出拒否、取引先などに対して会社の経営状況が危ない旨や会社に仕事を回さないで欲しいという趣旨の話をしたことなどは就業規則に違反する行為ではあるが、懲戒解雇事由に該当するとまではいえないとして、懲戒解雇を無効と判断した。また、Yの普通解雇が成立するとの主張については、解雇の具体的事由を明らかにしておらず、非違行為への懲戒権行使として解雇したものであり、普通解雇の意思表示が含まれているとはいえないとしてこれを退けた。 〔2〕乙事件については、職務を運転業務に限定する旨の合意はなく、その職務を市場などでの分荷作業に変更する配転命令は労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を課すものではなく、業務上の必要性が認められることから配転命令権の濫用に当たらず、また、組合活動に対する嫌悪を配転命令の決定的理由とする不当労働行為としてなされたものともいえないとして、懲戒解雇を有効と判断した。
参照法条 : 労働基準法2章
体系項目 : 懲戒・懲戒解雇/懲戒権の濫用/懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/服務規律違反
懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/業務妨害
懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/職務懈怠・欠勤
懲戒・懲戒解雇/懲戒解雇の普通解雇への転換・関係/懲戒解雇の普通解雇への転換・関係
裁判年月日 : 2007年6月28日
裁判所名 : さいたま地川越支
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成15(ワ)935、平成16(ワ)523
裁判結果 : 認容(935号)、棄却(523号)(控訴)
出典 : 労働判例944号5頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用-懲戒権の濫用〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-服務規律違反〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務妨害〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務懈怠・欠勤〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒解雇の普通解雇への転換・関係-懲戒解雇の普通解雇への転換・関係〕
乙事件原告4名が被告に雇用される間は運転業務以外に従事することはないと認識していたとしても,それは労働者側の一方的な認識にとどまるものであって,使用者である被告の側もそのような認識を有し,かつ,労働契約締結の際に乙事件原告4名の職種を運転業務に限定することをその内容に盛り込んでいたとまでは,認定できない。
 乙事件原告4名は,求人募集広告の記載が運転手を募集するものとなっていたことを強調するが,そもそも求人募集広告は労働契約締結の意思表示そのものではなく,いわゆる申込の誘因というべきものであって,使用者である被告の労働契約締結の意思表示は,あくまで就業規則に示された内容によっていたものというべきであり,将来にわたって職種を限定する旨の明示又は黙示の合意があったと認めることはできない。
 したがって,乙事件原告4名及び被告間の労働契約において職種限定の特約があったことを根拠に,乙事件原告4名に対する配転命令が無効であるとする主張は,採用できない。〔中略〕
前記求人募集広告(〈証拠略〉)には,月収につき「250,000円~350,000円※仕事量により異なります。」との記載があるが,当該記載をもって,被告がそのような収入を乙事件被告らに対し保障したと解することはできない。
 時間外手当は,深夜の時間外手当を含め,時間外に労務提供をした実績に応じた対価として支給されるものであり,扱う業務量や配送距離,職場の体制等によって増減せざるを得ない性質のものである。
 また,被告が提出した川島センターにおける従業員の給与明細によれば,従業員名が匿名で対象期間も短いため,その勤務実態が明らかではないが,配転後の職場においても,大型手当はともかく,時間外手当については現に支給されていることが認められる(〈証拠略〉)。原告Cが配転命令に従い川島センターに勤務した際の時間外手当の月額は,勤務日数の減少がないのに従前に比べ大幅に低額となっているが,それも1か月の実績に過ぎず,手当の減額による不利益のあり得ることは否定できないとしても,それが労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものとまではいい難い(〈証拠略〉,原告C)。〔中略〕
平成15年中に相当数の従業員が退職した上,車検を更新した車両も少なからず存在していたのであるから,平成16年になってからは,運転業務に従事していた従業員が乗車する車両の車検切れを迎えた際にも,分荷作業への配置転換の必要性は,相対的に低下したものと考えられる(なお,川島センターは,平成15年中に閉鎖されている。)。しかし,被告は,前認定のとおり,その後も,経営縮小の目的に沿って人員整理を進めており,原告D及び同Eに対する配転命令のなされた当時のみならず,原告F及び同Gに配置転換を命じた当時においても,その必要性がなくなったとか,経営縮小のため,配置転換の方法によることが裁量権を濫用,逸脱したとまで認めることはできない。〔中略〕
本件配転命令が,不当労働行為により無効ということはできない。また,被告が,その経営縮小のため,乙事件原告らに対する処遇として配置転換を選択したことについては,前記経営縮小の必要性や当時の物流事業部の人員,車両の状況,同原告らに任意退職の打診も行っていることなどの事情を総合すると,被告の裁量の範囲内であり,客観的に合理的理由を欠くものということはできない。
(4) 以上のところからすれば,乙事件原告らに対する配転命令は有効である。したがって,乙事件原告らが配転命令に違反することは,配転先である川島センターや上尾市場における業務遂行に支障を来すばかりでなく,物流事業部4課においても不要な人員を抱えること等によりその業務に悪影響をあたえるものであって,就業規則29条(6)の「業務上の指揮命令に違反した時」に該当し,その情状が重いというべきであるから,就業規則30条(8)に定める懲戒解雇事由に該当することが認められる。〔中略〕
原告Aにつき,懲戒解雇時に解雇事由とされたのは,ア(ア)ないし(ウ)の行為と考えられるところ,その懲戒事由の該当性や違法性に対する判断は前示のとおりであり,また,ア(エ)のうち戒告の対象である行為より前の行為につき被告が解雇時に認識し,かつ,それを訴訟において解雇事由として追加主張することが許されるとしても,それが何らかの懲戒事由に該当し得るとはいえ,原告Aに対する懲戒解雇は,社会通念上相当なものとして認めることはできず,権利濫用として無効というべきである。〔中略〕
原告Bの行為は,就業規則29条(6)に該当するものであり,懲戒解雇事由に該当するとまではいい難い。被告の取引相手であるV1との関係悪化に繋がり得る行為であったという点で軽微なものとはいい難いものの,懲戒解雇事由に直ちに該当するものと認めることはできない。〔中略〕
原告Cのア(ア)a(b)及びb(c)の行為は,懲戒解雇事由に当たる可能性を有するものではあるが,直ちに懲戒解雇を相当とするものとは認め難い。その解雇は,社会通念上相当と是認しうるものとはいい難く,被告は,解雇権を濫用したものというべきである。〔中略〕
(2) 普通解雇は,社会的,法的意味を異にするから,懲戒解雇の意思表示がされたからといって当然には普通解雇の意思表示がなされたことにはならないが,懲戒解雇の意思表示をした者が,同一事実につき,普通解雇事由にも該当するとして,予備的に普通解雇の意思表示をすることは可能である。しかし,甲事件原告らに対しては,懲戒解雇の意思表示はしているものの,原告A及び同Cについては,その具体的事由が明らかではなく,また,原告Bに対しては,解雇理由書に具体的事実を摘示しているものの,摘示された就業規則の条項とその事由との関係は明らかではない。そうすると,被告のした懲戒解雇の意思表示に普通解雇の意思表示が含まれていると直ちに認めることはできず,むしろ,本件の事実関係に照らせば,被告は,甲事件原告らの非違行為に対する懲戒権の行使として,解雇の意思表示をしたものと認められる。〔中略〕
(2) 被告が甲事件原告らの就労を拒んでいることは明らかであり,懲戒解雇が無効である以上,甲事件原告らが被告に対し,同原告らが解雇後の賃金支払い請求権を有しているものと認められるところ,就業規則によれば,その金額はその主張のとおりであると認められる。なお,本件証拠上,甲事件原告らが解雇された後,他で就労又は自営して収入を得ていることがうかがわれるが,その旨の主張やその金額を確定し得る証拠はなく,それを控除することはできない。