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ID番号 : 08674
事件名 : 退職金請求事件
いわゆる事件名 : ルックジャパンほか事件
争点 : 広報会社の解散に伴い解雇された従業員らが、退職金規程に基づき退職金の割増しを求めた事案(労働者敗訴)
事案概要 : 広報会社の解散に伴い解雇された従業員(X1~X3)らが、退職金規程4条の「就業規則第40条第12項第3号(事業の縮小等による解雇)又は会社の解散によって解雇される者に対する退職金は、第2条で得た退職金の額と、当該金額に100分の100を限度とした割合を乗じて得た額の合計額とする」との条項に基づき、Y社代表者清算人に対して退職金の割増しの支払を求めるとともに、いずれもY社の株主であったY1・Y2らに対し、会社が会社債務を弁済しないうちに会社財産を株主に分配しており、会社は株主に対して取戻請求権を有すると主張し、同取戻請求権を行使しない会社に代位して持ち株数に応じた退職金相当額の会社財産の取戻しを求めた事案である。 東京地裁は、まず退職金規程4条の規定自体を恩恵的なものでなく割増しの給付を受ける権利をうたったものと認めた上で、しかしその内容は「限度とした割合」との文言から100分の0から100分の100までの割合を会社が決めるものと解するほかないとして、会社が割合を決めない以上その裁量に従わざるを得ないと判断し、X1らの請求を棄却した(取戻請求権についても理由がないとして退けた)。
参照法条 : 労働基準法2章
労働基準法9章
体系項目 : 賃金(民事)/退職金/退職金の法的性質
賃金(民事)/退職金/破産・倒産と退職金
裁判年月日 : 2007年12月21日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18(ワ)15445
裁判結果 : 棄却(確定)
出典 : 労働判例957号16頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔賃金(民事)-退職金-退職金の法的性質〕
〔賃金(民事)-退職金-破産・倒産と退職金〕
第4条が、功労金を定めた第11条のように「支給することができる。」という文言と異なり、断定的な規定の仕方をしていることに照らすと、原告らの主張するとおり、単なる恩恵的給付ではなく、割増の給付を受ける権利を有することを定めたものと解するのが相当である。
2 第4条の権利の内容
 次に、第4条が定めた権利の内容については、第4条の文言をみる限り、「限度として」という文言により、100分の0から100分の100までの範囲で、使用者が定めた割合の金額を加算するという趣旨と解するほかない。したがって、第4条が定めた権利の内容は、使用者が決定した割合の金額について権利を有するというものといわざるを得ない。
 そして、その割合については、第4条は何らよるべき基準を明確にしておらず、退職金規程全体を通じても、他によるべき基準は見当たらないから、使用者は割合を決するに当たっては裁量を有しており、その裁量を行使しない以上は、従業員がこれを求めることはできないというべきである。このことは、あたかも、就業規則に「昇級」又は「昇格」を「させることがある。」との規定がある場合に、使用者の発令によってその効力を生じると解されることから、従業員が裁判所に対して具体的な昇給又は昇格を求めることができないのと同様である。
 したがって、被告会社が原告らに対して第4条に基づく加算の割合を決定しなかった以上、原告らがこれを求めることはできないといわざるを得ない。〔中略〕
第4条は、断定的な規定の仕方であり、必ず加算しなければならない規定の形式となっていることから、単なる恩恵的給付ではないと解すべきことは、上記説示のとおりである。しかし、その加算内容について、100分の0から100の幅をもたせ、その割合を決しない限り具体的な額が明らかにならない形の規定になっていることも事実であり、そこには裁量の余地があるといわざるを得ない。そして、その裁量を行使し得るのは使用者以外にはあり得ない。
 したがって、被告会社が原告らに加算をしなかったということは、加算の割合について0とする旨の裁量を行使した結果であり、裁判所がその当否を論ずることはできないといわざるを得ない。〔中略〕
原告らの主張するところは、退職金額を加算する理由として理解できないではない。しかし、そのようにする必要があれば、会社解散の場合などについて割増率を0とするなどという選択の余地のない退職金規程を定めれば済むことであり、現にそのようにしなかった以上、それは規定の仕方が拙劣であったというほかない。いったん新規程が有効に成立し、その解釈として採り得ない以上、退職金額の加算が原告らの期待するほどに十分ではなかったとしても、それはやむを得ないというほかない。もっとも、退職金規程を制定したのは被告会社であって原告らではないから、規定の仕方の拙劣さによって原告らが不利益を被るのは一見すると不合理のようでもあるが、退職金規程に限らず就業規則というのは本来使用者が一方的に制定するものである上、本件においては原告Bは従業員代表として署名しているのであることを考慮すれば、何らの不合理もないということができる〔中略〕
事情が異なるから加算割合も異なるものにする必要があるというのであれば、それぞれ別個の規定を設けて、それぞれに一義的に裁量の余地のない文言を用いれば足りることであり、そうしていない以上、そこに裁量の余地を認めざるを得ないのであって、原告らが主張する点は上記のような裁量を否定する要素とはなり得ないというべきである。したがって、解散時に被告会社が資産を有していたか否かは本件の結論を左右しない。〔中略〕
第4条は、あくまでも第2条の退職金額についての加算を定めていることはその文言からも明らかであって、規定の位置からもその性質からもそこに功労金が含まれると解される余地はない〔中略〕
被告会社の解散が、経営の逼迫等廃業のやむなきに至ってのものとは事情を異にするものであることが認められるから、そのような場合、使用者の一方的な都合で離職を余儀なくされる従業員の立場を慮る必要性があることも理解できるが、ここでは解散の当否及び清算業務の適否という会社法上の問題と退職金請求権の存否という労働法上の問題とは切り離して考える必要がある。もちろん、前者の事情が後者の問題に直接影響するような退職金規程の定めになっているのであれば格別、そのような規定の仕方になっていない以上、いくら解散が不当であるといってみても、そのことから直ちに第4条の加算を認めることはできない。〔中略〕
本件においては、退職金規程の改定は、被告会社の解散が懸念される中で行われたというのであるから、その際に上記のような従業員に対する退職金の割増をする必要を感じたのであれば、使用者の裁量の余地のない加算規定を制定すればよかったのであり、そのようにすることは十分に可能であった。むしろ、証拠(〈証拠略〉)及び弁論の全趣旨によれば、第2条の金額は、旧規程では、原告Aが254万6667円、原告Bが116万9167円、原告Cが190万6667円であったのが、新規程によれば、原告Aが674万3333円、原告Bが352万9166円、原告Cが524万1667円と、それぞれ2.65倍、3.02倍、2.75倍となっていることが認められ、第2条だけでも従業員に手厚くする措置を一定限度講じていることに照らして、そのような必要性を感じていたことは明らかであって、仮にそれが十分なものではなかったとしても、それを現時点で救済することは退職金規程の趣旨に反することといわなければならない。