ID番号 | : | 08679 |
事件名 | : | 地位保全等仮処分申立事件 |
いわゆる事件名 | : | 阪神電気鉄道事件 |
争点 | : | バス運転手が、業務災害休業後に解雇されたことに対し地位保全等の仮処分を申請した事案(労働者敗訴) |
事案概要 | : | 鉄道会社Yのバス運転手Xが、業務災害による休業中、医師から治癒認定及び障害が残存するとの診断を受けた後、復職を待たず解雇されたことに対し、就業規則に反し無効であるとして地位保全等の仮処分を申請した事案である。 大阪地裁は、〔1〕Xが復職する場合に、どのような業務にどの程度従事できるかは業務内容、就労時間などにおいてXの健康状態などに配慮した調整を行ったとしても確かでなく、就業規則の解雇事由である「精神又は身体の障害によって業務に堪えられないと認めた」ことには合理的な理由があり、〔2〕精神又は身体の障害が業務に起因するときは療養開始後5年の経過を解雇の要件とする就業規則の規定は、いまだ治癒したと認められない者の解雇を制限する趣旨であって、治癒したと認められた者について療養開始後5年を経過するまで普通解雇を一律に制限する趣旨のものではなく、〔3〕労働協約及び就業規則の定めは、障害によって業務に堪えられないと認められ、かつ、就業規則65条1項2号但書の制限に反しない場合においても、原職又は職種を変更して下位職種へ復職させることが義務づけられているともいえないことから、解雇権の濫用には当たらないとして、Xの申立てを却下した。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条 |
体系項目 | : | 解雇(民事)/解雇事由/病気 解雇(民事)/解雇制限と除外認定/解雇制限と除外認定 |
裁判年月日 | : | 2007年9月12日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 平成19(ヨ)10011 |
裁判結果 | : | 却下 |
出典 | : | 労働判例951号61頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔解雇(民事)-解雇事由-病気〕 〔解雇(民事)-解雇制限と除外認定-解雇制限と除外認定〕 債権者は、本件解雇の当時、就業規則65条1項2号本文の「精神又は身体の障害によって、業務に堪えられないと認めたとき」に該当していたと認めるのが相当である。〔中略〕 就業規則65条1項2号は、業務上の負傷又は疾病のために療養しており、治癒したと認められない者について、療養開始後5年以内に普通解雇にすることを制限する趣旨のものと解され、業務上の負傷又は疾病が治癒したと認められた者について、療養開始後5年を経過するまで普通解雇をすることを一律に制限したものと解することはできない。 したがって、本件解雇は、就業規則65条1項2号但書に反するものとはいえない。〔中略〕 労働協約29条2号及び就業規則65条1項2号の各規定(前提事実(3))に照らすと、労働協約100条及び就業規則102条は、精神又は身体の障害に堪えられないと認められ、かつ、就業規則65条1項2号但書の制限に反しない場合においても、原職への復職又は下位職種への職種変更による復職を義務付けたものとは解されない。 したがって、債務者が、債権者に対し、原職への復職又は下位職種への職種変更による復職に関する措置をとらなかったことをもって、直ちに労働協約100条及び就業規則102条に反するとはいえない。〔中略〕 D医師の診断を踏まえても、債権者が、本件解雇の当時、債務者において、業務内容、就労時間において調整を図られた職務に復職した場合に、どのような職務をどの程度遂行することができるかは、確かでなかったというべきである。〔中略〕 H医師の診断は、本件解雇前における各医師の診断内容を積極的に否定したものとまでは認められず、また、本件解雇前における各医師の診断内容に照らすと、債権者が平成18年10月16日をもって治癒とされたことを考慮しても、H医師が平成19年7月2日に診察した際の債権者の病状が、本件解雇前の時期と同様のものであったとはにわかに認められない。 そして、H医師の診断を踏まえても、債権者が、本件解雇の当時、債務者において、業務内容、就労時間の面で調整を図られた職務に復職した場合に、どのような職務をどの程度遂行することができるかは、確かでなかったというべきである。〔中略〕 自動車運転士であったIは、勤務時間外に交通事故で負傷し、欠務をして療養をした後、主治医及び産業医において就労可能と判断され、復職後に地上係員業務に従事していることが認められ、復職の可否について、債権者に対する本件解雇前における各医師の判断内容と異なるものであったといえる。そして、債務者における他の社員について、主治医又は産業医等から就労可能とは判断されなかったが、債務者に復職して、就労を支障なく継続した者がいることを認めるに足りる疎明はない。 また、債権者における腰部症状は、本件事故による労働災害とされたものではあるが、以上の認定判断によれば、債権者の復職の可否を判断するに当たり、私傷病である大腿骨頭壊死症による症状も考慮すべき状況であったことが認められる。そして、債務者が、労働災害によって負傷した従業員に対し、就業規則65条1項2号における普通解雇の要件を満たす場合であっても、雇用を継続する義務を負うとは認められない。〔中略〕 同委員会の審理及び債権者に対する意見聴取の経過に照らすと、同委員会は、債権者に対し、従前の申告内容について説明した上で意見を聴取し、復職に関する意向について具体的に聴取したことが認められる。 これによれば、労災審査専門委員会における債権者の意見聴取について、普通解雇をする際の聴聞として、手続上の瑕疵があったとは認められない。〔中略〕 以上で認定判断したとおり、債務者は、債権者の復職の可否について、債権者の病状に照らし、各医師の意見等を踏まえて、就業規則65条1項2号に該当することを理由として本件解雇をしたのであって、債権者に対する住宅ローン貸付金の回収が本件解雇の目的であったとは認められない。〔中略〕 本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当性を欠くものとは認められず、解雇権の濫用に当たらないというべきである。 したがって、本件解雇は有効である。 |