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ID番号 : 08684
事件名 : 遺族補償給付等不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 : 砺波労働基準監督署長事件
争点 : 職員との食事会参加後の帰宅途上の病院院長死亡事故につき母が遺族給付等不支給処分の取消しを求めた事案(母敗訴)
事案概要 : 病院の院長Aが、職員との食事会参加後の帰宅途上で自動車事故で死亡したことに関し、院長の母Xが通勤災害であるとして遺族給付及び葬祭給付を申請したのに対し、労働基準監督署長がなした不支給処分の取消しを求めた事案である。 大阪地裁は、まず食事会への参加に関する業務性の有無について、Aが、立場上食事会への出席を拒みにくい状況にあったということはできても、事実上拒めない状況にあったとまでは認められず、また、院長の職務を遂行するために本件食事会に参加したということもできず、病院の業務運営のために参加したものではなかったとした。また帰宅行為についても、業務終了後3時間を超える時間が経過した後に開始されており、業務終了後に本件食事会への参加及びこれに伴う場所の移動が介在したことで就業関連性が失われ、さらに、食事会への参加が通勤途上のものであったとすれば、通勤のための合理的経路を逸脱したものと考えられるが、合理的経路から逸脱した後に通勤に復したものであったとも認めらないことから、通勤災害ではなかったとして請求を棄却した。
参照法条 : 労働者災害補償保険法7条1項2号
体系項目 : 労災補償・労災保険/業務上・外認定/通勤途上その他の事由
労災補償・労災保険/補償内容・保険給付/遺族補償(給付)
裁判年月日 : 2008年4月30日
裁判所名 : 大阪地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成19行(ウ)70
裁判結果 : 棄却
出典 : 労経速報2019号16頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-通勤途上その他の事由〕
〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-遺族補償(給付)〕
本件食事会は、本件病院職員の慰労と懇親を図る趣旨のもと、職員の自発的な企画に基づき、業務時間終了後に割烹店に移動して行われたものであり、本件病院の業務運営に関して行われたものではなかったこと、本件食事会の参加者は、職員が作成した案内文書を見て、任意に参加の意向を示し、参加日を選択したこと、本件食事会は、話題が特に定められていたわけではなく、院長及び看護師長による簡単なあいさつの後、参加者各自が自由に歓談するというものであったこと、本件食事会の費用は、原則として参加者が各自の会費を負担しており、本件病院は費用を負担していなかったことが認められる。
 これらによれば、本件食事会は、職員の発案によって開催され、業務終了後における職員同士の飲食を目的とした慰労会であると認められる。
 したがって、本件食事会は、本件病院の業務として行われたものとは認められない。〔中略〕
本件食事会へ参加するかしないかは自由であり、会費制であったこと、その目的も職員の慰労と懇親であったことが認められる。
 また、前記1の認定事実に照らすと、本件食事会の企画及び開催準備は、看護師ら職員が行ったものと認められ、Cがこれに積極的に関与したとは認められない(看護師長が本件食事会の企画に関与していたことは窺われるが、看護師長の職務を遂行したものとは認められない)。そうすると、本件食事会の案内文書において、院長のCと看護師長が発起人として記載されていることをもって、本件食事会が本件病院の業務として行われたものということは困難である。〔中略〕
本件食事会の開催に至る経緯、本件食事会の状況等に照らすと、本件食事会がCにおいて上記のような意義を有するものであったことをもってしても、Cが院長としての職務を遂行するために本件食事会に参加したとまでは認められない。〔中略〕
Cが院長としての立場上、本件食事会への出席を拒みにくい状況にあったということはできても、事実上拒めない状況にあったとまでは認められない。また、いずれにしても、Cが院長の業務を遂行するために本件食事会に参加したということはできない。〔中略〕
Cが、本件食事会の当日、午後6時過ぎに業務を終えた後、自動車で10数分程度かけて本件食事会の場所である割烹店に移動し、午後6時30分ころから午後9時ころまで本件食事会に参加し、その後、自動車で本件病院に戻り、業務に就くことなく、帰宅の途についたことが認められる(なお、Cは、本件食事会の後、一旦、本件病院に戻っているが〔前提事実(2)イ〕、本件病院に戻ったのが午後9時30分ころであり(書証略)、本件事故が午後10時ころであったこと、本件病院と本件事故発生場所との距離〔別紙(略)地図参照〕、Cは、本件食事会に鞄を持参していたこと〔書証略〕を併せ考えると、Cは、本件病院建物に入ることなく〔少なくとも、何らかの業務に就くことなく〕、本件病院に駐車していた自分の自動車を運転して自宅に向かったと認めるのが相当である)。
 また、本件食事会が業務性が認められないものであり、Cが院長の業務を遂行するために本件食事会に参加したとは認められないこと、本件食事会が本件病院の業務運営に関して行われたものではなかったことは、前記3、4のとおりである。
 これらによれば、本件帰宅行為は、業務終了後、3時間を超える時間を経過した後に開始されたことになる。
 (3) 以上によれば、本件帰宅行為は、業務終了後に本件食事会への参加及びこれに伴う場所の移動が介在したことにより、就業関連性が失われたとして、「就業に関し」の要件を満たさないものとするのが相当である。〔中略〕
 Cが業務終了後に就業場所を離れて本件食事会に参加した行為が、通勤途上のものであったとすれば、上記行為は通勤の合理的経路を逸脱したものと考えられる。
 しかし、〔中略〕上記行為は、労災保険法7条3項所定の「日常生活に必要な行為」に当たるとは認められず、同項所定の「厚生労働省令で定めるもの(〈1〉日用品の購入その他これに準ずる行為、〈2〉職業訓練、学校教育法1条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であつて職業能力の開発向上に資するものを受ける行為、〈3〉選挙権の行使その他これに準ずる行為、〈4〉病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為)をやむを得ない事由により最小限度の範囲で行うもの」に当たるとも認められない。
 したがって、本件帰宅行為は、合理的経路から逸脱した後に通勤に復したものであったとは認められない。〔中略〕
 以上のとおり、本件帰宅行為は、就業に関するものであったとは認められず、合理的経路から逸脱した後に通勤に復したものであったとも認められない。
 そうすると、本件帰宅行為は、その余の点を検討するまでもなく、労災保険法7条1項2号の通勤に当たるとは認められない。
 したがって、Cが本件事故後に死亡したことが、通勤によるものであったとは認められない。〔中略〕
 以上によれば、本件について通勤災害であるとは認められないとして、原告の請求する遺族給付及び葬祭給付について不支給決定をした本件処分は適法であり、その取消しを求める原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。