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ID番号 : 08685
事件名 : 休業補償不支給処分取消請求控訴事件
いわゆる事件名 : 北海道銀行・札幌東労働基準監督署長事件
争点 : うつ病を発症し、後に退職した銀行の元従業員が休業補償給付不支給処分の取消しを求めた事案(労働者敗訴)
事案概要 : A銀行の元従業員Xが、在職中の過重な業務が原因でうつ病を発症し、その後増悪したことにより退職を余儀なくされたとして、労働基準監督署長のなした休業補償給付不支給処分の取消しを求めた事案である。 Xは、在職中の長時間労働やいじめ等により心理的負荷を受けうつ病を発症し、A銀行の不適切な対応により悪化させたのであるから、うつ病と業務には相当因果関係が認められると主張した。 第一審の札幌地裁は、いわゆる「ストレス-脆弱性理論」に則り、業務と疾病との間に相当因果関係を肯定できる場合は、業務による心理的負荷が過重であると認定できる場合であると一般論を述べ、具体的には、転勤に伴う業務の量及び質の変化は、Xがそれまでの勤務のなかで既に経験してきた範囲のものであることなどから、当該業務は強度の心理的負荷を与えるものではなく、A銀行の対応を含め心理的負荷は過重ではなかったとして相当因果関係を否定し、訴えを棄却した。 第二審の札幌高裁も、相当因果関係の立証責任の転換をすべきとするXの主張を、労働の過重性についてXの業務に特段の加重性が認められず、事実上の推定の前提がないとして、Xの控訴を棄却した。
参照法条 : 労働者災害補償保険法13条
体系項目 : 労災補償・労災保険/業務上・外認定/脳・心疾患等
労災補償・労災保険/補償内容・保険給付/休業補償(給付)
裁判年月日 : 2007年10月19日
裁判所名 : 札幌高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成19行(コ)9
裁判結果 : 控訴棄却(確定)
出典 : タイムズ1279号213頁
審級関係 : 第一審/札幌地/平19. 3.14/平成17年(行ウ)11号
評釈論文 :
判決理由 : 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-休業補償(給付)〕
控訴人は、業務起因性の判断基準につき、労働の過重性と疾病・病気の発症・増悪との間には、通常、相当因果関係が認められる(あるいは事実上推定される。)とする最高裁判決があり、業務起因性の立証責任を転換して、相当因果関係がないことを被控訴人が立証すべきであると主張するが、労働の過重性については、これまでの検討から、控訴人の業務に特段の過重性が認められないから、事実上の推定の前提がないこと、立証責任の転換については、独自の見解であってこれを採用できないから、控訴人の主張は理由がない。
 イ 心理的負荷による精神障害の業務上外の判断要件について、控訴人は、総合的判断をすべきである旨主張する。この点については、原判決においても、控訴人の業務を一体として検討しており、総合的な判断をしているといえるから、控訴人の主張は原判決を正しく理解していないというべきである。
 ウ 控訴人は、控訴人の業務起因性の判断について、原判決において、事実認定に誤りがあったと主張する。
 しかしながら、(ア)控訴人の時間外労働時間について、原判決の認定に誤りがないことは上記(1)で検討したとおりであること、(イ)仕事の量・質の変化についても、控訴人が、名寄支店で夏川代理の業務の代行をしていたとは認められず、野幌支店での業務も特段過重であるとは認め難いこと、(ウ)職場の人間関係においても、名寄支店ではいじめと評価すべき状況はなく、控訴人自身も精神的な問題が生じていない旨述べていること、(エ)野幌支店において、申し出た療養が認められなかったとはいえないこと、(オ)野幌支店で、退職強要や配置転換による心理的負荷があったとまでは認められないこと等に照らせば、控訴人に強度な心理的負荷が掛かったとはいえない。
 控訴人は、業務起因性の判断基準に照らして、控訴人に生じた事象を総合的に判断すれば、基準の「Ⅲ」と評価すべきであると主張するが、基準の「Ⅱ」に該当する出来事が複数あり、時間的に接近しているとしても、基準の「Ⅲ」に該当することになるわけではない。