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ID番号 : 08695
事件名 : 未払賃金等支払請求事件
いわゆる事件名 : 播州信用金庫事件
争点 : 信用金庫支店の元代理職者が過去1年6か月分の時間外割増賃金と付加金の支払等を求めた事案(労働者勝訴)
事案概要 : 信用金庫支店の代理職の地位にありその後退職したXが、過去1年6か月分の時間外割増賃金の支給と付加金の支払等を会社Yに求めた事案である。 神戸地裁姫路支部は、まずXの管理監督者性について、自身の勤務時間について裁量性はなく、経営方針や労務管理についても経営者と一体性があったとはいいがたく、また、給与も管理監督者として相応しい額が支払われていたともいえないとして、Xが管理監督者であったとはいえないと認定した。その上で、Xの請求を認めるとともに、時間外手当についても時効により消滅していないとして支給を命じた(付加金は一部を認定)。
参照法条 : 労働基準法37条
労働基準法114条
労働基準法41条2号
体系項目 : 労働時間(民事)/労働時間・休憩・休日の適用除外/管理監督者
雑則(民事)/付加金/付加金
裁判年月日 : 2008年2月8日
裁判所名 : 神戸地姫路支
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成18(ワ)716
裁判結果 : 一部認容、一部棄却(確定)
出典 : 労働判例958号12頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔労働時間(民事)-労働時間・休憩・休日の適用除外-管理監督者〕
〔雑則(民事)-付加金-付加金〕
原告の出勤時刻や退勤時刻は、金庫の開閉という仕事があるため、それを全く自由に決められるということはなく、また、出社中に関しても、渉外担当職員に対する指示・相談という業務があること、原告の机が支店長の斜め前にあることからして、自由にいわゆる中抜けということができたとも考えられない。したがって、原告が自己の勤務時間について自由裁量を有していたとは評価することができない。
 次に、原告が行っていた渉外担当職員に関する人事評価についての支店長に対する意見の伝達も、書面として残るものではないので、その重要性は高いとはいえず、また、かかる意見伝達が、制度的組織的なものであるとは認められない。その他、原告が、東加古川支店の調査役や内勤担当職員についての人事評価に関して、意見を支店長に伝えていたことを認めるに足りる証拠はなく、また、原告が、内勤業務に関し、調査役に対し、指揮命令していたことも認められない。更に、原告が参加していた経営者会議も懇親会という色彩が強く、原告が支店長不在の時、参加したことがある支店長会議も各支店の報告会というものである。そして、原告が支店長不在の時、2回ほど代行した残業命令という業務も、東加古川支店にはタイムカードがなく、出勤簿に出勤退勤時刻が記載されていないことからして、形骸化していると評価できる。したがって、原告が東加古川支店の経営方針の決定や労務管理に関し、被告経営者と一体的な立場にあったとは評価することができない。
 最後に、原告の給与を、時間外勤務手当等が支給されている調査役と比較するに、原告が、本俸、役付手当及び特別残業手当を併せて36万5000円であるのに対し、調査役が、本俸及び役付手当を併せて35万8000円であり、その差はわずか7000円であり、管理監督者たる地位にふさわしい給与が支給されているとは評価することができない。
(4) なお、本件通達(〈証拠略〉)の解釈について検討する。
 本件について問題となるのは、b〈5〉のただし書であるところ、まず、「下位にある役付者(支店長代理、〈5〉に該当しない支店課長等)を指揮監督して」の要件を検討する。
 確かに、原告は、渉外担当職員である主任係長や係長を指揮監督しており、それら主任係長や係長は被告内においては役付である(〈証拠略〉)ので、形式的には、かかる要件の文言に該当するかのようである。しかし、それら主任係長や係長は部下のいない者であること(〈証拠略〉)、上記要件の例示としてあげられている「支店長代理」、「〈5〉に該当しない支店課長等」は、いずれも部下の存在が予定されているものであることからして、上記要件の「役付者」とは部下が存在するのが前提であると解される。すると、東加古川支店において、上記要件の「役付者」に該当する者は、調査役ということになる。
 すると、前記(3)のとおり、原告が調査役を指揮監督していたことを認めることができないので、原告は、上記要件を満たすとは言えない。
 したがって、b〈5〉のただし書のその余の要件を検討するまでもなく、原告は、かかる要件を満たさないこととなる。
(5) 以上(1)ないし(4)の事実認定及び検討からして、原告は、管理監督者に該当するとは言えない。  したがって、被告は、原告に対し、時間外勤務手当等を支給しなければならない。〔中略〕
本件給与規定の文言上、かかる規定が代理職である原告に適用されない根拠を見出し得ないことからして、原告にも本件給与規定が適用されると考える。〔中略〕
被告の主張は、前記(1)イの原告の催告が到達した時(平成18年7月19日)、既に、賃金請求権の消滅時効期間2年が経過している賃金請求権が時効消滅しているという趣旨であると考えられるところ、前記(1)のとおり、かかる催告時点で〈1〉〈2〉の時間外勤務手当請求権は、いずれも消滅時効期間2年は経過していない。
 したがって、被告の主張は採用されず、被告主張にかかる時間外勤務手当請求権は時効消滅していない。〔中略〕
 付加金制度は、法114条に規定する金銭給付について、その支払を確保することを目的とした制裁的性質を基本とするものである。
 すると、本件において、労働基準監督署が、原告が管理監督者に該当しないこと及び原告の労働実態について、どこまで正確に認識した上でのことかは疑問ではあるが、臨店調査をした労働基準監督署が原告に対する時間外勤務手当等不支給に関し、指導・是正勧告をしたことはないこと(〈証拠略〉、弁論の全趣旨)及び原告自身、被告在職中は、自分に時間外勤務手当等が支給されないことに関し疑問を感じていなかったこと(〈証拠略〉、原告本人31項)等、本件に現れた諸事情を考慮すると、付加金は100万円の限度で支払を命ずるのが相当である。