ID番号 | : | 08697 |
事件名 | : | 残業代金請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 総設事件 |
争点 | : | 工事請負業の元配管工らが一方的即日解雇を理由に残業代金、解雇予告手当を請求した事案(労働者一部勝訴) |
事案概要 | : | 上下水道、各種配管工事の請負等を業務とする会社Yの元配管工ら2名(X1・X2)が、Yから一方的に即日解雇されたとして、在職中の残業代金及び解雇予告手当を請求した事案である。 東京地裁は、まず未払とする残業代金請求につき、始業前の準備や就業後の片付け、日報の作成時間などは指揮命令下の時間であり、また移動時間についても就業時間であるとして、請求を一部認め割増賃金の支払を命じた(2年を超えて遡る分は時効を適用)。解雇予告手当請求については、両名とも会社との交渉の中で合意の上退職したものと解するのが相当として、棄却した。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 労働基準法20条 労働基準法38条 労働基準法38条の2 労働基準法37条 |
体系項目 | : | 労働時間(民事)/労働時間の概念/手待時間・不活動時間 労働時間(民事)/労働時間の概念/労働時間の始期・終期 解雇(民事)/解雇予告手当/解雇予告手当請求権 退職/合意解約/合意解約 |
裁判年月日 | : | 2008年2月22日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成18(ワ)26169 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却(控訴) |
出典 | : | 労働判例966号51頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働時間(民事)-労働時間の概念-手待時間・不活動時間〕 〔労働時間(民事)-労働時間の概念-労働時間の始期・終期〕 〔解雇(民事)-解雇予告手当-解雇予告手当請求権〕 〔退職-合意解約-合意解約〕 一般的に労働時間とは使用者の作業上の指揮監督下にある時間または使用者の明示または黙示の指示によりその業務に従事する時間と定義されるところ、前記認定事実(2)、(3)のように、原告らを含む従業員は一旦は皆で事務所から徒歩5分ほどの駐車場兼資材置き場にバイクなり車で来て、そこで被告の会社の車両に資材等を積み込んで事務所に午前6時50分ころに来ていること、その後手元である原告らと組む親方と訴外丙川との間で当日入る現場や番割りさらには留意事項等の業務の打ち合わせが行われており、その間、手元である原告らも事務所隣の倉庫から資材を車両に積み込んだり、入る現場や作業につき親方の指示を待つ状態にあること、証人丙川及び原告らの各供述によれば、被告が従業員を当日どこの現場へ差し向けるかは天候にも左右され、当日休む者が出た場合に変更となることもあったり、前日までの各現場の作業の進捗状況に応じて訴外丙川が采配している実態が見受けられること、原告甲野は自宅の近くの現場に直行することがある場合以外、原告乙山は全勤務期間中妻のお産のときなどの2回を除いては現場への直行はしていないことが認められる。 このような原告らの出勤状況及び被告における作業の指示状況からすると、原告らはそれぞれ朝に事務所へ午前6時50分には来ることを訴外丙川から実質的に指導されていたものと評価することができ、直行の場合を除いて少なくとも午前6時50分以降は原告らは被告である使用者の作業上の指揮監督下にあるか使用者の明示又は黙示の指示によりその業務に従事しているものと考えるのが相当である。〔中略〕 原告らが日々午前6時50分までに事務所に出勤するのは正しく被告である使用者の指示を待つ指揮監督下にあるものといえるのであり、その後の車両による移動時間も親方と組になって訴外丙川との打ち合わせなり指示に基づき現場に赴いているものであることからすると、拘束時間のうちの自由時間とは言えず実働時間に含めて考えられるべき筋合いのものというべきである。〔中略〕 原告らは行きと同様に親方と組になって現場の作業を終えた後も車両で事務所へ戻ることが原則的な勤務形態となっていること、事務所に戻った後にとりわけ午後5時以前や午後5時以降も5班のグループのうちの他の班が戻ってこないときは道具の洗浄や資材の整理等をしていることが認められる。そして、これらの作業あるいは現場から資材の残りや必要道具等を車両に積み込んで事務所なり駐車場兼資材置き場に持ち帰る作業がひとり親方だけの担当であったと考えるのは妥当とは思われない。 このような実態にかんがみると、原告らは黙示に使用者である訴外丙川の指示によりその業務に従事していたものと考えられるから、現場から事務所に戻った後の時間も実働時間に含めて取り扱われるべきである〔中略〕 現場の作業終了後は事務所へ従業員らは一旦戻ることが原則化していること、被告は毎回事務所に戻って後片付け等がなされていたわけではなく早く戻ったときだけであるというが、原告らの口振りからすると必ずしもそのように限定的とまでは認められないことからすると、行きのときと同様に車両による帰還のための移動時間も含めて実働時間と捉えるべきであり、被告の上記主張は採用できない。〔中略〕 原告らは、午前10時からと午後3時からの各30分間の休憩はほとんどとれなかったと主張するが、原告らについては、勤務期間中に同人らの口から直接休憩時間が取れないことあるいは与えられないことについて親方なり被告代表者に苦情が寄せられた形跡がないこと、原告甲野の親方として組になって作業することの多かった訴外Aが原告甲野に対して休憩時間に作業を強制した事実経過も窺われないこと、証人Aが午前中は現場への到着時刻が遅くなった場合には昼の休憩を早くしてカバーしたとし、午後3時からはほぼ休憩はとれていたと供述しており、これに反する勤務実態についての原告らの主観的な供述のみをもってしては真に午前10時と午後3時に休憩が取れなかったのかどうかは定かではなく、前記認定事実(1)によれば原告らと被告との間の労働契約上は休憩時間を明示しており、現場には他の業者も入って同様の勤務慣行にあったようであることも勘案すると、午前8時から午後5時までの拘束時間から120分の自由時間をあえて除外して勤務時間を計算しなければならない根拠は証拠上窺われない。〔中略〕 原告らの本件残業代にかかる未払賃金債権は、平成18年8月11日ころから遡って2年を超える被告による賃金支給日である平成16年7月分(同年7月末日支払)までのものは消滅時効にかかっており、被告はこれを援用しているから、原告らが被告に上記残業代として請求できるのは平成16年8月分以降のものに限られる。〔中略〕 原告甲野は平成18年7月4日に被告の当時代表者であった訴外丙川に同月8日付での退職を申し入れ、話し合いの中で一旦は訴外丙川から慰留を申し入れられたものの、原告甲野がこれに応じず、訴外丙川が明日から来なくてよい旨申し出ると、原告甲野が翌日から出勤しなかったこと、その後同原告から出勤の意思のある旨の伝達が被告に対して窺われず、むしろ翌日から友人のところで働いていることからすると、平成18年7月4日に当事者間で退職の合意に達したものと解するのが相当である。〔中略〕 原告乙山は平成18年1月31日に被告の当時代表者であった訴外丙川に給料の値上げを要求し、同人から直ぐの値上げを断られたことから、話が物別れとなり、訴外丙川から給料に不満があるのなら明日から来なくていい旨の申し出に対して、原告乙山が翌日から出勤しなかったこと、その後同原告から出勤の意思のある旨の伝達が被告に対して窺われず、むしろ上記話し合いが物別れになった当日の夜に親戚のところに電話をして、その直後である同年2月初めから当該親戚のもとで働いていることからすると、平成18年1月31日に当事者間で退職の合意に達したものと解するのが相当である。〔中略〕 したがって、原告らの被告に対する解雇予告手当の請求には理由がない。 5 以上によれば、原告らの被告に対する請求には上記に認定判断したように残業代の割増賃金請求には一部で理由があるものの(なお、遅延損害金につき、原告らは各賃金支払日以降の請求をするが、上記のように、原告らの残業代は各月ごとに金額を特定するような事実認定は難しく、本訴の中で事後に検討した場合に、当該勤務期間を通じて一定金額の残業代の発生を推認できるに留まるものであることからすると、本件認容金額に対する被告の遅延損害金支払債務は、本訴状送達の日の翌日である平成18年12月5日以降に遅滞に陥っているものと考えるのが相当である。)、その余は解雇予告手当等を含めていずれも理由がなく、また、原告らは割増賃金相当分である残業代につき付加金を請求しているところ、本件事案における当事者間の事情及び就労実態における被告の有りように照らすと、労基法に違反したことによる制裁のためにあえて付加金を命じる必要まではないものと思料するので、以上の限度で原告らの各請求を認容し、その余は理由がないので各請求をいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。 |