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ID番号 : 08710
事件名 : 賃金請求控訴事件
いわゆる事件名 : タマ・ミルキーウェイ事件
争点 : 運送会社の元配送運転手が、時間外、深夜及び休日に係る割増賃金の支払を求めた事案(元運転手一部勝訴)
事案概要 : 一般貨物自動車運送事業会社Yで配送運転手として勤務していた元従業員Xが、雇用契約による賃金請求権に基づき、在職期間中の時間外、深夜及び休日労働に係る賃金の支払を求めた事案の控訴審である(付加金も請求)。 第一審の東京地裁は、Xの請求のうち時間外等手当に未払分を認めた上、割増算定の際の要素として、変動手当は出来高払の賃金部分に当たり労基法規則19条1項6号の方法により割増を計算する必要があるとし、また年休取得の際に支払われる有休手当は「臨時に支払われた賃金」(労基法12条4項)に当たるから基礎額から除外し、勤勉手当は「臨時に支払われた賃金」に当たらないが労基法規則19条1項3号の方法により割増を計算するのが相当として、割増額を確定し既払分を控除して支払を命じた。これに対してXが控訴。 第二審の東京高裁は、第一審の判断を維持しつつ、第一審判決後Yは未払分をXへ支払っており、付加金支払義務は、労働者の請求により裁判所が判決でその支払を命じ、これが確定することによって初めて発生するものであるから、既に支払を完了し使用者の義務違反の状況が消滅した後においては、付加金を命ずる余地はないとして付加金の請求を斥け、控訴を棄却した。
参照法条 : 労働基準法施行規則19条1項6号
労働基準法施行規則19条1項3号
労働基準法114条
労働基準法37条
労働基準法12条4項
体系項目 : 雑則(民事)/付加金/付加金
賃金(民事)/割増賃金/割増賃金の算定基礎・各種手当
裁判年月日 : 2008年3月27日
裁判所名 : 東京高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成19(ネ)6047
裁判結果 : 棄却(確定)
出典 : 労働判例974号90頁
審級関係 :
評釈論文 :
判決理由 : 〔雑則(民事)-付加金-付加金〕
〔賃金(民事)-割増賃金-割増賃金の算定基礎・各種手当〕
当裁判所も、原判決と同じく、〈1〉変動手当及び勤勉手当は割増賃金の算定の基礎となる賃金に当たるが、有休手当はこれに当たらない、〈2〉勤勉手当は労基法施行規則19条1項4号の「月によって定められた賃金」に当たるものとして計算されるべきであるが、変動手当は同項6号の「出来高払制その他の請負制によって定められた賃金」に当たるものとして計算されるべきである、〈3〉上記に従って、本件時間外等賃金を計算すると、その合計額は235万0189円になるものと判断する。〔中略〕
変動手当の算定には、配送運転手が実際に従事した輸送量等に応じた売上げが反映されているとみることができ、してみると、同手当は、配送運転手の業務遂行の成果ないしこれに応じた売上高に応じて額が定まる性格のもの、すなわち、「出来高払制」に当たるというべきである。〔中略〕
よって、変動手当については、労基法施行規則19条1項6号所定の方法により、割増賃金を計算する必要がある。〔中略〕
有休手当は、配送運転手の有給休暇の取得という条件が成就した場合に支給されるものといえ、その意味では、支給事由の発生が不確定なものといえるから「臨時に支払われた賃金」に当たると解される。〔中略〕
勤勉手当は、毎月、配送運転手の日常の勤務態度・業務遂行能力などの査定結果を反映させて支給の有無及び額が決せられるものというほかなく、支給「事由」の発生が不確定というものではない(支給の有無・額が従業員ごとに異なることは、「臨時に支払われた賃金」であるかの判断を左右しない。)。すなわち、勤勉手当は「臨時に支払われた賃金」には当たらない。
(3) 以上によれば、変動手当及び勤勉手当は、割増賃金の基礎となる賃金に当たるが、有休手当はこれに当たらない。もっとも、勤勉手当は労基法施行規則19条1項3号に当たるものとして計算されるべきであるが、変動手当は同条項6号に当たるものとして計算されるべきである。〔中略〕
上記(1)で引用した原判決に記載した変動手当の算定方法からすると、変動手当は典型的な歩合給とは異なるというべきであるが、同施行規則19条1項6号の「出来高払制」とは、期間によって賃金が定められているのではなく、業務の成果によって賃金が定められている場合をいうものと解され、典型的な歩合給に限られると解すべき根拠はない。そして、同引用に係る原判決記載のとおり、変動手当は、配送運転手の業務遂行の成果ないしはこれに応じた売上高に応じて額が定まる性格のものであるから、「出来高払制」と認めるのが相当である。〔中略〕
 労基法114条の付加金支払義務は、労働者の請求により裁判所が判決でその支払を命じ、これが確定することによって初めて発生するものであるから、使用者に労基法37条等の違反があっても、既にその支払を完了し、使用者の義務違反の状況が消滅した後においては、使用者に対して付加金の支払を命ずることはできないと解すべきである〔中略〕
 そうすると、原判決後であるとはいえ、本件時間外等賃金を支払った被控訴人に対し、付加金の支払を命ずることはできないというほかない。